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第五章:因果去来編
第三話「機械仕掛けの彼女」その四
しおりを挟む世界の終わりとは果たしてどのようなものだろうか。
アナスターシャはレクティファールに頼まれ、黒龍宮の閉鎖区画から発掘した映像資料の中から、それに近いものを見つけ、鑑賞していた。
「――――」
撮影場所はある惑星の軌道上。
遠目に見えていた太陽が歪み始め、陽光を遮るようにして、最初に映っていた惑星の色合いに、赤と黄色が加わったような別の惑星が姿を見せる。
いや、アナスターシャには分かる。
あの惑星は出現した訳ではない。ただ近くにあったものが、姿を見せ始めたというだけのことだ。
「――? 転移事故?」
彼女の常識に当て嵌めるならば、おそらくそれが映像に映る現象にもっとも近い。
今となっては皆無に等しいが、産業魔法としての転移魔法開発黎明期には、転移させたものが転移先の物質と融合してしまったり、再出現できずにどこかに消えてしまったりしたものだ。
しかし、厳密にいえばあの惑星は転移を行ったわけではない。ただ、通常の次元運行の最中、映像に映る惑星とあまりにも近い次元座標を通過したため、互いの質量によって発生した次元間引力に囚われてしまったのだ。
「あ、逃げてる」
映像の中では、惑星表面から次々と飛び立つ光の姿が見える。
その光はどれも、惑星の引力から逃れるような軌道を描きながらどこかへと飛び去っていく。
それを見送ると、次は撮影場所のすぐ近くに巨大な箱が現れる。
アナスターシャはその箱を見て、皇都やアニュアにある高層建築物のようだと思った。
箱にはいくつもの細長い窓があり、撮影者がその窓を拡大すると中に人型の影が見えた。
どうやらそれは星船であるらしいとアナスターシャは結論付け、すぐに興味を失う。彼女は目の前に映る星船が、恒星間航行機能を持つ脱出船であることなど知らない。
おそらく知っていても興味を示さなかっただろう。彼女たち龍族は星の世界への憧れというものを持たない。あくまで空の延長だからこそ意味があるのであって、惑星から遠く離れて何かをしようという意識はない。
もしも彼女たちが宇宙という空間に興味を持ち、そこに版図を広げようとしたならば、皇国暦一〇〇年代には皇国による星系開発が開始されていただろう。
彼女たちの身体はそれを可能とするだけの機能を持っていた。だが、絶望的なまでに興味がなかったのだ。
「あ――融合が始まった」
アナスターシャはふたつの惑星がゆっくりと近付く様を見詰めた。
何もないはずの空間に雷が発生し、空気がないにも関わらず低い音が聞こえてくる。時空震が通常空間の物質まで振動させ、それによって音が発生しているようだ。
「もう、逃げられない」
融合が始まったあとに惑星から飛び出した光は、すぐに空間歪曲に巻き込まれてどこかへ消え去った。無事だとはアナスターシャも思わない。空間の歪みは彼女たち龍族でも警戒しなければならないほどの破壊力を持っている。
その頃になると、撮影者が撮影装置をどこかに固定したらしく映像の拡大や縮小などが行われなくなる。
画面が上下左右に揺れ、惑星同士の距離がぐんぐんと近くなっていく。
惑星表面では稲光が走り、大陸規模の雲の渦が複数個発生しているのが見えた。
撮影場所の照明が赤くなり、壁や天井から火花が散る。
「あ」
撮影装置の固定が外れたらしく画面がくるくると回り始める。
酔ったらいやだなぁと思いながらも、アナスターシャは映像を見詰め続けた。
そして、撮影装置が壁にぶつかって映像が一瞬途切れる。
「――げ」
その一瞬のあと、彼女は映像の中に四つの光の龍の姿を捉えていた。
四頭の龍は惑星表面を舐めるように移動し、彼らが移動した軌跡が光の帯となって惑星を包み込んでいく。
「変換されてる?」
錬金術とも転移魔法とも違うが、おそらく過程は似たようなものだろう。
だが、惑星規模の錬金術や転移など、彼女は考えたこともない。
「今度、試してみよう」
レクティファールが聞いたら、それはやめようと真剣な表情で説得に掛かるであろう台詞を呟き、彼女は映像を止める。
撮影装置が最後に映したのは、撮影場所に向かって飛んでくる光の龍の顎門だった。
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