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第一章

018 ロゼ様とのお話2

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 ルナール様狙いなのが分かって僥倖ですけれども、王妃ですか。
 庶民出の王妃など今まで誕生したことがございませんわね。あったとしてもどこかの貴族の家に一度養女として迎え入れられたのち、教育を十分に受けてからでないとありえませんわ。
 貴族間のパワーバランスにも関わってきますし、その家を探し出すのがどれほど大変なのか、フェさんはわかっているのでしょうか?
 わかっていないような気がいたしますわ。
 ともあれ、フェさんの行動が分かった以上、私はゲームの通り序盤は良い理解者を演じ、後半はフェさんを殺す気で嫌がらせをするようにいたしましょうか。
 出来ることならば、その間にエルブ様との仲も進展させておきたいところなのですが、うまくいきますでしょうか?
 これが一番難しい気がいたしますわね。
 フェさんはいいですわよね、イベントが沢山あって。
 ……あら、私がそのイベントを奪えばいいのではないでしょうか?ルナール様狙いでしたら、エルブ様とのイベントなどスルーなさるでしょうしね。
 我ながらいいことを思いつきましたわ。
 そう言えば、今日あった悪臭の件もイベントにありましたわよね。ヒロインが廊下を通りすがった時に悪臭のあまり部屋に飛び込むと言うものでしたし、状況が違いすぎてわかりませんでしたけれども、新薬を作っていた鍋に蓋をするというのは共通しておりますわ。
 他には怪我をして薬を塗っていただくイベントが何度かあるのですが、これはどうしましょうか。
 私が怪我をするなどほとんどというか、滅多にございませんし、といいますか怪我をしたら私の私兵が無能ということになってしまいますわよね。
 うーんどうしましょうか。
 体調不良を訴えてみていただくとか?
 けれども何度も尋ねるのは気が引けると言いますか、私の資質を疑われてしまうような気がして気が進みませんわね。
 どんな方法がいいのでしょうか?
 まあ、毒薬の調達で後半は何度も訪れることになるとは思うのですけれどもね。そうなりますと、後半に巻き返しを狙うのもありでしょうか?
 うーん、毒薬を調達してもらうと言うのは何だか好感度が下がってしまいそうなイベントですわよね。
 まあいいですわ、そこは私の持ち前のやる気でカバーいたしましょう。……めんどうですけれども、やる気を出せば出来る子ですもの。頑張れ私、夢のエルブ様とのラブラブ生活のためですわよ。

「王妃の座を狙っているとなりますと、私としても黙っているわけには参りませんわね」

 私がそう申しますと、クロス先生が興味深そうな顔で私を見てまいります。

「意外だな、君は王妃の座には興味がないと思っていたよ」
「興味はございませんが、対外的には私は王妃の座に固執しているということになっているではありませんか」

 長年の師弟関係の賜物と申しますか、クロス先生には私の想い人がエルブ様であると言うことは、すっかりばれておりますので、ここは嘘をつかずに正直に申し上げます。
 そうしますと、今度はロゼ様が興味深げに私を見てまいりました。

「そうなんだ?王妃の座を狙っているって噂を聞いたんだけどな」
「所詮は噂でございましょう?」

 火のないところに煙を立てるのが貴族の噂というものでございますわ。
 ロゼ様は私がそういいますと、「ヒュウ」と口笛を吹きまして、面白がるように私を見てきました。

「意外だな。ジュスティン様の派閥と喧嘩をしているミスト様とは思えない発言だ」
「ジュスティン様の派閥とはそもそも家が対立しておりますので、仕方がありませんわね」
「まあ、貴族の派閥なんて面倒なものだよね」
「クロス先生は上手く貴族の派閥を泳いでいらっしゃいますわよね。羨ましいですわ」

 本当に、心の底からそう思いますわ。ジュスティン様の派閥と対立するのも心が疲れてきますのよ。
 なんといっても、一部を除き心根の良い方が多いんですもの、ジュスティン様の派閥の方々って。
 類は友を呼ぶといった感じなのでしょうか?中立派にもジュスティン様を推す方は少なからずいらっしゃいますしね。
 もっとも、そんな中立派の方々をルナール様側に取り込んで貴族のパワーゲームに勝たないといけないのですけれども、これが本当に大変ですのよ。
 クロス先生は中立派といった感じでしょうか?長年宮廷魔導士の長をしておりますので、取り込めれば大きいのですけれども、非公式とはいえ弟子にも贔屓はしないようでございます。
 私の恨みのこもった目を見てもクロス先生は平然と紅茶を飲んでいらっしゃいますわね。
 憎たらしいですわ。

「まあ、クロス先生が私の味方になって下されば心強いのですが、クロス先生は非公式とはいえ愛弟子にも厳しくていらっしゃいますのよ。兄弟子としてロゼ様からも何か仰ってくださいませな」
「いやぁ、他国の内政には干渉しない主義でね」

 まあ、ご立派なお考えですわね。逃げとも言いますけれども。
 私はロゼ様が淹れてくださった紅茶を飲んで気分を落ち着かせます。アールグレイのいい香りですわね。ロゼ様ってば、王族のくせに紅茶を淹れるのがこんなにお上手なのは放浪癖の賜物でしょうか?

「ロゼ様は紅茶を淹れるのがお上手ですわね」
「ん、妹がこういうのが好きでね、一緒にやってるうちに自然と身についたって感じかな」
「妹様がいらっしゃいますのね」
「うん、めちゃくちゃかわいい妹が一人いるんだよなあ」

 放浪癖のせいで王席を継げないかもしれないと聞きますが、その場合はその妹様が王位につくのでしょうか?
 かわいい妹を女王にするのは可哀そうだとは思わないのでしょうか?女王なんて苦労しますわよ、絶対に。

「妹様は大変そうですわねえ」
「そうでもないよ。学園に通ってうまくやってるみたいだ」
「学園があるんですの?」
「そう魔法学園があるんだよ。クロス先生はそこの特別顧問もしてるんだよ」
「まあ!クロス先生そうなのですか?」

 私は驚いてクロス先生を見ます。クロス先生は飄々とした様子で頷かれました。
 まったく、このお方はいったい幾つ顔をお持ちなのでしょうか?絶対に他にも顔を持っていらっしゃいますわよね。
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