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第一章

017 ロゼ様とのお話

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 クロス先生のお部屋は、他の貴族のお部屋と同じ大きさなのですが、いいえ、むしろ空間魔法で広げているはずなのですけれども、なんだか狭く感じられるのは物が散乱しているからでしょうね。

「ご機嫌ようロゼ様。本日は私にお話があるとのことですが、どのような内容でしょうか?」
「やあ、ミスト様。こんな夜に呼び出してごめんね」
「いいえ」

 ロゼ様はピンクブロンドの短髪に青い瞳の好青年といった感じの方で、横には金の豊かな髪を湛えたアリエル様を従えると言う表現はおかしいのかもしれませんが、従えていらっしゃいます。

「アリエル様、フェさんがお会いしたがっておりましたわよ」
「そうか」

 そう一言告げてアリエル様はどこかに消えてしまわれました。恐らくですがフェさんの所に行ったのではないでしょうか?

「よろしいのですか?まあ、言ったのは私ですが」
「いいんだよ。契約はしてるけど、縛り付けてるつもりはないからな」
「そうなのですか?ではどうして天使を呼び出すような真似をなさったのでしょうか?望みを叶えるのでしたら悪魔の方が確実なのではないでしょうか?」
「天使の方が都合がよかったんだよ、特に誰かの守護天使にもうなってる奴なら特にね」
「まあ、そうでしたの?では狙ってアリエル様を召喚なさいましたのね」
「まあそうなるかな」

 ロゼ様は私が思っているよりも、ずっと高位の魔法が使える魔導士のようですわね。狙って召喚など、そう簡単に出来るものではありませんわよ。
 まあ、アリエル様が一人の女の子に夢中だと言うのは、ちょっと有名な話でしたものね。
 私はゲームの設定で知っておりましたけれども、アリエル様はフェさんを生まれた時から守護なさっておいでなのですわ。
 どうしてかと申しますと、フェさんの魂が、アリエル様のお子様の魂の欠片を保有しているからなのでございます。
 アリエル様はだからこそフェさんのことを気にかけているのですけれども、そのほかのことはどうでもいいと言う感じでございますわね。
 そもそも、天使の子供というのがどういうものなのかは設定資料集を熟読しないとわからないものなのでございます。
 天使の子供というのは、天使の力の欠片を使って生み出された生命体のことを指しておりまして、生命の樹と呼ばれるものから生まれるとされております。
 その子供が地上に降りていく際にいくつもの欠片に分かれてしまい、それぞれの子供の魂に宿るのだと言われているのですわ。
 ちなみに悪魔の子供というのもおりまして、これに関してはそのまま悪魔の子供となっております。
 チェンジリング、と言えばわかりやすいでしょうか?
 悪魔は自分の子供を人間の子供と交換することが稀にあるのでございます。この世界には妖精はおりませんけれども、その代わりに悪魔がチェンジリングをするという感じでしょうか。
 悪魔の子供はそのまま人間として育ちますが、ある日悪魔として覚醒して人間界に厄災をもたらすと言われております。
 ちなみに、その厄災は別に異世界から勇者や聖女を召喚するとかそういうことは特にございません。この世界の中で方を付ける、そういう決まり事でございますのよ。
 異世界からの召喚というのは、魔導士の夢でもございますけれども、実際には拉致でございますので、私はあまりお勧めはしておりませんのよ。
 ちなみにその考えはクロス先生も一緒のようでございまして、クロス先生は異世界召喚には手を出していないようでございます。

「話は戻りますけれども、私に何のお話がございますのでしょうか?」
「話というのは他でもない、フェの事なんだけどね」
「フェさんのことですか?」
「うん、どうやら王妃になりたがっているらしいんだ」
「まあ!王妃に?」

 それはまた大胆な発言ですわね。庶民から王妃になったものは今までいませんわ。側室になってその子供が国王になったことならございますけれども。
 驚く私にさもありなんと、ロゼ様が頷かれます。クロス先生も驚いていらっしゃるようですわね。

「この情報はアリエル様からでしょうか?」
「そうだよ。ここに来る少し前から、自分は王妃になるんだって言ってたらしいんだ」
「まあ、ここに来る少し前からですか?」

 となると、転生者確定ですわね。それもルナール様狙いなのでしょうね。なんといっても王妃になりたいとおっしゃっているのですもの。
 なるほど、貴族のパワーバランスゲームに積極的という話も聞きますし、自分が王妃になった時のための足場作りを行っているのかもしれませんわね。

「王妃になれると思いますの?」
「流石に無理だろう。だってフェは所詮しょせん庶民の出身だからね。国母にはなれるかもしれないけど、王妃にはなれないだろうさ」
「そうですわよねえ」

 けれども、貴族の過半数が彼女を王妃にと言えば、それもかなってしまいますわね。その根回しが彼女にできると言うのでしょうか?この私がいるというのに?
 これは自慢になりますけれども、反対派のほとんども私が王妃になることは認めておりますのよ。ジュスティン様派ぐらいですわね、私が王妃になるのを否定なさっておいでなのは。
 リュバン様が王妃に相応しいかはともかくとして、彼女の後ろには強いご兄弟がいらっしゃいますものね。
 私の今行っている仕事は、そのご兄弟を一人ずつ暗殺していくことでございますわ。もちろん証拠など残したり致しませんわよ。
 リュバン様には恨まれるでしょうけれども、仕方がございませんわ。これもお仕事ですものね。

「アリエル様から、フェさんに無理だと諭すことは出来ないのですか?」
「無理だね、アリエルもフェが王妃になることに賛成してしまっているんだよ」
「まあ!」

 それでは無理ですわね。天使が一度決めたことを曲げるなんてことは聞いたことがありませんもの。
 ロゼ様も流石にフェさんが王妃になれるとは思っていないようですけれども、守護天使のアリエル様の言うことは無視できないと言うところなのでしょうか。

「私は思うのですけれども、フェさんが急に人が変わってしまったかのようになったと聞きますわ。それと関係しているのではないでしょうか?」
「そうだね。アリエルもフェの魂に濁りが生じたって言ってたよ。それでも自分のかわいい子供の欠片は失われていないからかわいがっているみたいだけども」
「そうなのですか」

 濁ったと言うのは、私のように転生者として覚醒したのか、魂が紛れ込んだかしたのでしょうね。
 それにしても王妃ですか、困りましたわね、あまり煩わしいようでしたらつい殺してしまうかもしれませんわ。
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