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「きゃっ」
「あら、ごめんなさい。気が付きませんでしたわ。けれど、ここは私共の席ですの、どいていただけますかしら?」
昼食時、夜蝶は篠美と食べると言って朔夜のもとを離れており、賑彦も生徒会の用事でいないせいか、早速朔夜は女生徒からいじめを受けていた。
「ごめんなさい。席って決まってるんですか?」
「まあ、クスクス。当然じゃありませんか。そんなこともお分かりになりませんの?これだから外からいらっしゃった方はだめですわよねえ」
ここに夜蝶がいれば、そう言っている彼女も、昨年外部から入って来たばかりではないかとツッコミを入れていた所だろうが、生憎いない為、それも出来ない。
「そうなんですか。わかりました。あの、空いてる席ってどこか教えてもらってもいいですか?」
「まあ! どうして私がそんな事をしてさしあげなくてはいけないの? そんな事他の方にお聞きなさいな」
「はあ……」
朔夜は仕方がないとその場を離れて別の席に座ろうとするが、同じようなやり取りが3度ほど続き、流石に何かがおかしいと感じ始めた。
「そこは私共の席ですわよ、お退きになって」
「……あの!」
「なんでしょうか?」
「なんか変ですよね。席が決まってるならお姉様がちゃんと教えておいてくれるはずです。それがないのに席が決まってるっていうなんておかしいわ」
「まあ! 夜蝶様の責任になさいますの? なんて妹君なのでしょうか。夜蝶様もお気の毒ですわね」
「そんな事言ってません!」
「急に大きな声を出さないでいただけますか? 耳がおかしくなってしまいますわ。外から来た方の耳はどうかはわかりませんが、私共の耳は繊細に出来ておりますのよ、何かあったらどうしてくださいますの?」
「なっ」
朔夜はあまりの言葉に二の句が告げなくなってしまい、パクパクと口を動かすだけだった。
その時。
「何をしている」
「まあ、賑彦様……私達は何もしておりませんわ。この方が急に叫んだものですから驚いていた所ですのよ」
「朔夜が急に叫んだ? 本当かい? 朔夜」
「嘘です。この人達が私に意地悪をしてくるんです。ううん。このひとたちだけじゃありません、あの人たちも、あの人たちも、あの人たちも、皆私に意地悪をしてくるんです」
朔夜はそう言って席を譲らせてきた人たちを指さすと、賑彦は「ふーん」とそのメンバーを見て納得したように頷いた。
「夜蝶の時も似たようなことがあったな。まあ、夜蝶はもともとこの学園に居たからそんな言い訳は通じなかったけどな。上級生だからと言って下級生をいびるのはどうかと思うな」
「なっ。賑彦様、私共はそのようなつもりは……」
「まあいい。朔夜、席が決まっていないのなら僕と一緒に食べよう。席はここでいいだろう。構わないね」
「賑彦様がそうおっしゃるのなら……」
女生徒たちも流石に賑彦には逆らえないのか、席を渋々と譲ったが、嫉妬の視線を朔夜に向けた。
「朔夜、帆鳴も一緒に食べていいかな? いつも一緒なんだ」
「ええ、もちろんです。帆鳴様も良い方ですものね」
「ああ、素直になれないところもあるが、いい子だよ」
朔夜の事も気に入っているみたいだ、と賑彦は言うと、席に着いてウエイターを呼ぶと注文をする。
注文は決まっているようだ、「いつも同じものを頼んでいるのだろうか?」と朔夜が思った時、帆鳴が来た。
「帆鳴、いつもの物でよかったんだよね。注文しておいたよ」
「ありがとう兄さん」
「朔夜、僕達の注文を考えようか」
「あ、はい。えっと……エビと菜の花の香り寿司とネギ味噌つくね、茸入り野菜の酢の物にします」
「いいね、僕もそれにしようかな」
「小食だなあ、夜蝶はもっと食ってたぞ?」
「そうなんですよね。お姉様ってば見た目の割には大食漢でいらっしゃるんですよね。初めて見た時は驚いちゃいました」
「やせの大食いならぬチビの大食いってな」
「帆鳴。夜蝶の事を悪く言うのは止めるように言っているだろう?」
「でも兄さん、もう婚約者でもなくなったんだし、庇う必要もないだろう?」
帆鳴の言葉に賑彦は困ったような表情を浮かべて、それでも元婚約者でいずれは義姉になる人なのだから、と説得した。
「それにしても、どうしてさっきの人たち居はあんな意地悪をしてきたんでしょうか?」
「なんだ?なにかあったのか?」
「夜蝶もやられていたことだよ。この席に座るなっていうあの例の奴」
「ああ、夜蝶には一切効果がなかったあれか。そうか、朔夜さんは今年からの外部入学だから引っかかったのか。夜蝶も教えておいてやればよかったのにな」
料理が到着し、それぞれが箸をつけ始める。朔夜はデザートは何を頼もうかともう考えながら食べていたためか、賑彦が言ったことを聞き逃してしまい、もう一度言ってほしいと言った。
「だから、この後校内を案内しようかと思ってるんだ。夜蝶は篠美と一緒にいるだろうしね」
「篠美様ってどんな人なんですか? お姉様は怠け者っておっしゃってましたけど」
「陰気臭くて地味な奴だよ」
「帆鳴。……そうだな、真面目で実直な性格だよ」
「そうですか」
朔夜にとって、篠美という人物がますます謎めいた人物になった瞬間だった。
夜蝶に言わせれば、会ってしまえばあっさりとわかる程度の謎だというだろうが、朔夜にとっては将来の義兄になる人なので、重要人物と考えているのだろう。
彩りも華やかな食事はすぐに終わりを迎え、朔夜はデザートにジャガイモのあべかわ団子を注文すると、賑彦も同じものを注文した。自分と同じ物ばかり注文してくるので、朔夜は賑彦が気を使っているのではないかと思って「自分の好きなものを食べてください」と言ったのだが……。
「朔夜の食べるものがどんなものか知りたいんだよ。朔夜の事なら何でも知りたい時期だと思って我慢してほしいな」
もしここに篠美がいたのなら、ストーカーかよ、とツッコミを入れていただろうが、いない為それは出来ない。
夜蝶も笑みを浮かべたまま、「気色悪いですわね」ぐらいは言っていたかもしれない。
しかし、二人は今此処におらず、居るのは賑彦にブラコンな帆鳴な為つっこみを入れるわけもなく、その言葉は流されてしまった。
朔夜自身も、そういう物なのかと受け入れてしまったのが今後の事に影響してくるとはまさかこの時は思いもよらなかっただろう。
食事を終えると、帆鳴は賑彦に言われて席を外すことになり、朔夜は賑彦と二人きりで校内を回ることになった。
「この学園のランチタイムは2時間あるからね。高等部の校舎なら十分に案内できると思うよ」
「それもすごいですよね。普通だと1時間ぐらいですよ」
「そうだよね。僕もこの島に着て驚いたなあ」
「賑彦様はこの島に来て長いんですか?」
「5年になるね」
「そんなに早くからお父様やお母様と離れて寂しくなかったですか?」
「そうだなあ、使用人たちが沢山いたし、夜蝶もいたからね、寂しさはそれほど感じなかったかな」
「そうなんですか、流石はお姉様ですね」
「あ、いや。……今は朔夜がいるからもちろん寂しくないよ」
「え? はい」
よくわからないが、とりあえず頷いた朔夜に満足したのか、その後も校内をどんどんを案内していく。
「高等部の校舎はこんなものだね。後は幼稚部からの共有スペースになるから、放課後にしようか」
「どんなものがあるんですか?」
「そうだね、演舞場や図書館、弓道場や馬場にサロンなんかがあるかな」
「そうなんですか。楽しみです。お姉様がここの図書館の蔵書は素晴らしいものだと言っていました」
「そうだね、歴史が長い分、古い文献も多数存在しているよ。中には国宝級の物もあるんじゃないかな」
「え!」
「もちろん、そういうものはちゃんと管理されてて普段は生徒が扱えるわけじゃないけどね」
「そうですよね、よかったぁ」
まさかいきなり国宝級の物が目の前に出されたらどうしようかと思った朔夜だが、彼女は知らなかった。
彼女が住んでいる大山家自体がすでに国宝級であり、それこそ国宝級の物が山のように倉に納められているのだということを。
「あら、ごめんなさい。気が付きませんでしたわ。けれど、ここは私共の席ですの、どいていただけますかしら?」
昼食時、夜蝶は篠美と食べると言って朔夜のもとを離れており、賑彦も生徒会の用事でいないせいか、早速朔夜は女生徒からいじめを受けていた。
「ごめんなさい。席って決まってるんですか?」
「まあ、クスクス。当然じゃありませんか。そんなこともお分かりになりませんの?これだから外からいらっしゃった方はだめですわよねえ」
ここに夜蝶がいれば、そう言っている彼女も、昨年外部から入って来たばかりではないかとツッコミを入れていた所だろうが、生憎いない為、それも出来ない。
「そうなんですか。わかりました。あの、空いてる席ってどこか教えてもらってもいいですか?」
「まあ! どうして私がそんな事をしてさしあげなくてはいけないの? そんな事他の方にお聞きなさいな」
「はあ……」
朔夜は仕方がないとその場を離れて別の席に座ろうとするが、同じようなやり取りが3度ほど続き、流石に何かがおかしいと感じ始めた。
「そこは私共の席ですわよ、お退きになって」
「……あの!」
「なんでしょうか?」
「なんか変ですよね。席が決まってるならお姉様がちゃんと教えておいてくれるはずです。それがないのに席が決まってるっていうなんておかしいわ」
「まあ! 夜蝶様の責任になさいますの? なんて妹君なのでしょうか。夜蝶様もお気の毒ですわね」
「そんな事言ってません!」
「急に大きな声を出さないでいただけますか? 耳がおかしくなってしまいますわ。外から来た方の耳はどうかはわかりませんが、私共の耳は繊細に出来ておりますのよ、何かあったらどうしてくださいますの?」
「なっ」
朔夜はあまりの言葉に二の句が告げなくなってしまい、パクパクと口を動かすだけだった。
その時。
「何をしている」
「まあ、賑彦様……私達は何もしておりませんわ。この方が急に叫んだものですから驚いていた所ですのよ」
「朔夜が急に叫んだ? 本当かい? 朔夜」
「嘘です。この人達が私に意地悪をしてくるんです。ううん。このひとたちだけじゃありません、あの人たちも、あの人たちも、あの人たちも、皆私に意地悪をしてくるんです」
朔夜はそう言って席を譲らせてきた人たちを指さすと、賑彦は「ふーん」とそのメンバーを見て納得したように頷いた。
「夜蝶の時も似たようなことがあったな。まあ、夜蝶はもともとこの学園に居たからそんな言い訳は通じなかったけどな。上級生だからと言って下級生をいびるのはどうかと思うな」
「なっ。賑彦様、私共はそのようなつもりは……」
「まあいい。朔夜、席が決まっていないのなら僕と一緒に食べよう。席はここでいいだろう。構わないね」
「賑彦様がそうおっしゃるのなら……」
女生徒たちも流石に賑彦には逆らえないのか、席を渋々と譲ったが、嫉妬の視線を朔夜に向けた。
「朔夜、帆鳴も一緒に食べていいかな? いつも一緒なんだ」
「ええ、もちろんです。帆鳴様も良い方ですものね」
「ああ、素直になれないところもあるが、いい子だよ」
朔夜の事も気に入っているみたいだ、と賑彦は言うと、席に着いてウエイターを呼ぶと注文をする。
注文は決まっているようだ、「いつも同じものを頼んでいるのだろうか?」と朔夜が思った時、帆鳴が来た。
「帆鳴、いつもの物でよかったんだよね。注文しておいたよ」
「ありがとう兄さん」
「朔夜、僕達の注文を考えようか」
「あ、はい。えっと……エビと菜の花の香り寿司とネギ味噌つくね、茸入り野菜の酢の物にします」
「いいね、僕もそれにしようかな」
「小食だなあ、夜蝶はもっと食ってたぞ?」
「そうなんですよね。お姉様ってば見た目の割には大食漢でいらっしゃるんですよね。初めて見た時は驚いちゃいました」
「やせの大食いならぬチビの大食いってな」
「帆鳴。夜蝶の事を悪く言うのは止めるように言っているだろう?」
「でも兄さん、もう婚約者でもなくなったんだし、庇う必要もないだろう?」
帆鳴の言葉に賑彦は困ったような表情を浮かべて、それでも元婚約者でいずれは義姉になる人なのだから、と説得した。
「それにしても、どうしてさっきの人たち居はあんな意地悪をしてきたんでしょうか?」
「なんだ?なにかあったのか?」
「夜蝶もやられていたことだよ。この席に座るなっていうあの例の奴」
「ああ、夜蝶には一切効果がなかったあれか。そうか、朔夜さんは今年からの外部入学だから引っかかったのか。夜蝶も教えておいてやればよかったのにな」
料理が到着し、それぞれが箸をつけ始める。朔夜はデザートは何を頼もうかともう考えながら食べていたためか、賑彦が言ったことを聞き逃してしまい、もう一度言ってほしいと言った。
「だから、この後校内を案内しようかと思ってるんだ。夜蝶は篠美と一緒にいるだろうしね」
「篠美様ってどんな人なんですか? お姉様は怠け者っておっしゃってましたけど」
「陰気臭くて地味な奴だよ」
「帆鳴。……そうだな、真面目で実直な性格だよ」
「そうですか」
朔夜にとって、篠美という人物がますます謎めいた人物になった瞬間だった。
夜蝶に言わせれば、会ってしまえばあっさりとわかる程度の謎だというだろうが、朔夜にとっては将来の義兄になる人なので、重要人物と考えているのだろう。
彩りも華やかな食事はすぐに終わりを迎え、朔夜はデザートにジャガイモのあべかわ団子を注文すると、賑彦も同じものを注文した。自分と同じ物ばかり注文してくるので、朔夜は賑彦が気を使っているのではないかと思って「自分の好きなものを食べてください」と言ったのだが……。
「朔夜の食べるものがどんなものか知りたいんだよ。朔夜の事なら何でも知りたい時期だと思って我慢してほしいな」
もしここに篠美がいたのなら、ストーカーかよ、とツッコミを入れていただろうが、いない為それは出来ない。
夜蝶も笑みを浮かべたまま、「気色悪いですわね」ぐらいは言っていたかもしれない。
しかし、二人は今此処におらず、居るのは賑彦にブラコンな帆鳴な為つっこみを入れるわけもなく、その言葉は流されてしまった。
朔夜自身も、そういう物なのかと受け入れてしまったのが今後の事に影響してくるとはまさかこの時は思いもよらなかっただろう。
食事を終えると、帆鳴は賑彦に言われて席を外すことになり、朔夜は賑彦と二人きりで校内を回ることになった。
「この学園のランチタイムは2時間あるからね。高等部の校舎なら十分に案内できると思うよ」
「それもすごいですよね。普通だと1時間ぐらいですよ」
「そうだよね。僕もこの島に着て驚いたなあ」
「賑彦様はこの島に来て長いんですか?」
「5年になるね」
「そんなに早くからお父様やお母様と離れて寂しくなかったですか?」
「そうだなあ、使用人たちが沢山いたし、夜蝶もいたからね、寂しさはそれほど感じなかったかな」
「そうなんですか、流石はお姉様ですね」
「あ、いや。……今は朔夜がいるからもちろん寂しくないよ」
「え? はい」
よくわからないが、とりあえず頷いた朔夜に満足したのか、その後も校内をどんどんを案内していく。
「高等部の校舎はこんなものだね。後は幼稚部からの共有スペースになるから、放課後にしようか」
「どんなものがあるんですか?」
「そうだね、演舞場や図書館、弓道場や馬場にサロンなんかがあるかな」
「そうなんですか。楽しみです。お姉様がここの図書館の蔵書は素晴らしいものだと言っていました」
「そうだね、歴史が長い分、古い文献も多数存在しているよ。中には国宝級の物もあるんじゃないかな」
「え!」
「もちろん、そういうものはちゃんと管理されてて普段は生徒が扱えるわけじゃないけどね」
「そうですよね、よかったぁ」
まさかいきなり国宝級の物が目の前に出されたらどうしようかと思った朔夜だが、彼女は知らなかった。
彼女が住んでいる大山家自体がすでに国宝級であり、それこそ国宝級の物が山のように倉に納められているのだということを。
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