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「まあ、冗談でもうれしいですわ」
「本当ですよ。この間育てていたものに花が咲きましたので、ぜひプレゼントさせていただきたい」
「でも柊の木は夕霧家のご神木でしょう?」
「ええ、ですからぜひ彩愛様に」
「まあ、ふふふ」
彩愛は珍しく勇人様と二人っきりで廊下を歩いている。
高等部へ今月行われるクリスマスパーティーの打ち合わせに行くためだ。
高等部の校舎は初等部の校舎とは反対側にあるため、子供の足では移動には10分以上かかってしまう。
「両親も神も彩愛様になら喜んで差し出しますよ」
「そうでしょうか?」
「そうですとも」
通路ですれ違う生徒たちは、彩愛と勇人様の姿を認めると不自然でない程度に道を開けていく。
高等部の校舎に入ったところで、その視線が彩愛達に集まる。
それに気が付きながらも二人は会話を続けて高等部の『王花の間』に向かう。
「み、皆森様!」
「はい」
高等部の女生徒に声をかけられ立ち止まると、勇人様がいつでも動けるように彩愛の斜め後ろに立つ。
「これからどちらにいかれるのですか?」
「『王花の間』へ打ち合わせに参りますが、何か御用でしょうか?」
「いえ、あの…。その…麗奈様が、あの…」
「吉賀様がどうかなさいまして?」
彩愛が首をかしげるとその女生徒はためらった後、心を決めたように彩愛を見据える。
「麗奈様が「香澄!」…っ麗奈様」
走ってきたのかもしれない、階段の上から吉賀様が息を切らしながら降りてきた。
「皆森様申し訳ありません。何分この子は何もわからない庶民の出ですので、不躾な態度を取ってしまったのです」
「まあ、不躾だなんてそんなことありませんわ」
「ありがとうございます。香澄、行くわよ」
「でも麗奈様!」
「いいからっ!」
女生徒の手を取って麗奈様は先ほど降りてきた階段を上っていく。
「なんだったのでしょうか?」
「さあ?けれど吉賀様と随分親しいご様子でしたね」
「ええ」
彩愛達が首をかしげていると、高等部の生徒が顔を見合わせたりヒソヒソと会話をする。
「あの、皆森様」
「はい」
「その先ほどのこと、本当に怒っていらっしゃらないのですよね?」
「ええ。もちろんですわ」
彩愛の言葉にほっとした様子を見せる生徒たち。
いったい何を言いたいのだろうと彩愛と勇人様は顔を見合わせる。
「すみません。あの子吉賀様のことをすごく慕ってて」
「まあ、そうですの」
「だから最近の吉賀様のことを心配してて」
「心配、ですか?」
「なんというか、その…ほかの『王花』の方とうまくいっていないようで、紫呉様達も気にかけてるんですけど…すみません」
言いにくそうに視線を交わしあう女生徒たちは、そう言うと頭を下げて走り去って行ってしまった。
「なるほど」
「彩愛様、時間に遅れてしまいますよ」
「そうですわね、参りましょう」
高等部では彩愛達が知っている以上に事態が悪くなっているらしい。
それに、彩愛という存在を恐れているという話しもどうやら本当のことのようだ。
これに関しては9月から起きたことが関係しているのだが、佐藤妃花達がわざと大げさに吹聴しているらしい。
大きく割れていた高等部は、現時点で佐藤妃花派の生徒と中立派、そして吉賀様につく生徒とで複雑な状態になってしまっている。
中立派の代表が史お兄様のため、中立派が一番大きな派閥なのが救いなのかもしれない。
そんなことを考えているうちに高等部の『王花の間』に着いたので扉をノックするが、中から一向に取次がない。
「どうしたのでしょう?」
「さあ?」
もう一度ノックをと手を挙げたところで、勢いよく扉が開かれる。
「早く出ていきなさいませ!」
「きゃっ」
「彩愛様っ」
ドアを避けてふらついたところを勇人様に支えられた時に中の様子が見えた。
「まあ」
そこには、首に佐藤妃花の腕を回され唇を合わせる史お兄様の姿があった。
「本当ですよ。この間育てていたものに花が咲きましたので、ぜひプレゼントさせていただきたい」
「でも柊の木は夕霧家のご神木でしょう?」
「ええ、ですからぜひ彩愛様に」
「まあ、ふふふ」
彩愛は珍しく勇人様と二人っきりで廊下を歩いている。
高等部へ今月行われるクリスマスパーティーの打ち合わせに行くためだ。
高等部の校舎は初等部の校舎とは反対側にあるため、子供の足では移動には10分以上かかってしまう。
「両親も神も彩愛様になら喜んで差し出しますよ」
「そうでしょうか?」
「そうですとも」
通路ですれ違う生徒たちは、彩愛と勇人様の姿を認めると不自然でない程度に道を開けていく。
高等部の校舎に入ったところで、その視線が彩愛達に集まる。
それに気が付きながらも二人は会話を続けて高等部の『王花の間』に向かう。
「み、皆森様!」
「はい」
高等部の女生徒に声をかけられ立ち止まると、勇人様がいつでも動けるように彩愛の斜め後ろに立つ。
「これからどちらにいかれるのですか?」
「『王花の間』へ打ち合わせに参りますが、何か御用でしょうか?」
「いえ、あの…。その…麗奈様が、あの…」
「吉賀様がどうかなさいまして?」
彩愛が首をかしげるとその女生徒はためらった後、心を決めたように彩愛を見据える。
「麗奈様が「香澄!」…っ麗奈様」
走ってきたのかもしれない、階段の上から吉賀様が息を切らしながら降りてきた。
「皆森様申し訳ありません。何分この子は何もわからない庶民の出ですので、不躾な態度を取ってしまったのです」
「まあ、不躾だなんてそんなことありませんわ」
「ありがとうございます。香澄、行くわよ」
「でも麗奈様!」
「いいからっ!」
女生徒の手を取って麗奈様は先ほど降りてきた階段を上っていく。
「なんだったのでしょうか?」
「さあ?けれど吉賀様と随分親しいご様子でしたね」
「ええ」
彩愛達が首をかしげていると、高等部の生徒が顔を見合わせたりヒソヒソと会話をする。
「あの、皆森様」
「はい」
「その先ほどのこと、本当に怒っていらっしゃらないのですよね?」
「ええ。もちろんですわ」
彩愛の言葉にほっとした様子を見せる生徒たち。
いったい何を言いたいのだろうと彩愛と勇人様は顔を見合わせる。
「すみません。あの子吉賀様のことをすごく慕ってて」
「まあ、そうですの」
「だから最近の吉賀様のことを心配してて」
「心配、ですか?」
「なんというか、その…ほかの『王花』の方とうまくいっていないようで、紫呉様達も気にかけてるんですけど…すみません」
言いにくそうに視線を交わしあう女生徒たちは、そう言うと頭を下げて走り去って行ってしまった。
「なるほど」
「彩愛様、時間に遅れてしまいますよ」
「そうですわね、参りましょう」
高等部では彩愛達が知っている以上に事態が悪くなっているらしい。
それに、彩愛という存在を恐れているという話しもどうやら本当のことのようだ。
これに関しては9月から起きたことが関係しているのだが、佐藤妃花達がわざと大げさに吹聴しているらしい。
大きく割れていた高等部は、現時点で佐藤妃花派の生徒と中立派、そして吉賀様につく生徒とで複雑な状態になってしまっている。
中立派の代表が史お兄様のため、中立派が一番大きな派閥なのが救いなのかもしれない。
そんなことを考えているうちに高等部の『王花の間』に着いたので扉をノックするが、中から一向に取次がない。
「どうしたのでしょう?」
「さあ?」
もう一度ノックをと手を挙げたところで、勢いよく扉が開かれる。
「早く出ていきなさいませ!」
「きゃっ」
「彩愛様っ」
ドアを避けてふらついたところを勇人様に支えられた時に中の様子が見えた。
「まあ」
そこには、首に佐藤妃花の腕を回され唇を合わせる史お兄様の姿があった。
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