神へ捧げるカントゥス

茄子

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091 二年目12月

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 クリスマスパーティーが始まり曲が流れると、中等部や高等部、初等部高学年の方々が自然と開けられたホール中央へ踊りだす。
 クルリヒラリと回る度にスカートが広がり、会場に色とりどりの花が開く。
 去年のことがあるからか、史お兄様は彩愛の傍をはなれずずっと傍にいる。去年は動き回って挨拶をしたり、ダンスをしたりと社交を広げていたが今年はしないのだろうかと首をかしげてみれば微笑まれてしまう。
 彩愛と史お兄様の身長差ではダンスを踊ってもお子様ダンスになってしまうため、彩愛はフロア中央に出る気がないと察し、史はただ彩愛の横で挨拶に来る生徒の対応をしている。
 少し離れたところではミカルお兄様とノーマンディー様の姿が見え挨拶やダンスに誘われている。
 美衣お姉様は婚約者の方とすでにホールへ躍り出ている。
 彩愛の今日の装いは幾重にもシフォンを重ね膨らませた白いロングドレス。前身ごろには小さな真珠がいくつも縫い止められており、腰をシルクの薄水色の大きなリボンが彩る。
 白いシルクのガターストッキングに白い少しだけあるヒールの靴。
 髪は複雑に結い上げられ、熨斗欄の実を模した髪飾りが差し込まれ動くたびに揺れて目を引く。
 史お兄様はグレーのフロックコートに薄水色のシルクのシャツ。胸ポケットには白いシフォンのハンカチが差し込まれている。
 去年よりも二人の仲が進展しているのだと周囲に占めるかのような服装に誰もが感嘆の息を漏らす。
 北欧の血が入った美しい最近はどこか大人びてきた少年と、神の寵児とも学園の聖女ともいわれる美しい少女。
 この二人が揃うのを見ることが一般生徒はほとんどない。たまに学園の食堂で揃って下りてくるのを見かけることが出来れば運がいいと言われるほどだ。
 誰もが二人に集中している彼らはやってきた。

 ざわりと会場の入り口が揺れる。
 目を向ければ飯近様と。

「飯近妃花様…」

 ぽつりと言えば彩愛の友人たちが彩愛の横や斜め背後に移動する。すぐさま前に出てかばえる位置だ。 
 飯近様の奥方は、去年彩愛が来ていたドレスとよく似たドレスを着ている。
 飯近様の腕に自身の腕を絡め、おぼつかない足取りでまっすぐに彩愛達のほうへと向かってくる。

「皆森様」
「わかっておりますわ」

 いつの間に来たのか、斜め後ろにいる勇人様のさらに後方に賀口様がいらっしゃった。
 この場を移動しようとする史お兄様をやんわりと制止して、向かってくる二人をじっと見る。
 少しの間見ないだけで人とはこうも変わるものなのだろうか。

「飯近様、この度はお子様の誕生おめでとうございますわ」
「ありがとうございます皆森様。俺によく似た可愛い娘なんですよ」
「まあ、そうですの」

 笑みを浮かべて会話をする私と飯近様を、友人と賀口様以外の誰もが驚愕の表情を浮かべてみる。

「奥方ものご体調はいかがです?」
「ご覧の通り私の介添え付きですが歩けるまで回復いたしました」
「それはよかったですわ」
「ええ本当に」

 にこにこと交わされる会話は、普通の社交会話。今までのことを考えれば、それはありえないほど自然だった。

「ところで、奥方のドレスですが私見覚えがございますわね」
「ああ、これは」
「史様がプレゼントしてくれたのよ」
「は?」

 突然会話に入ってきた飯近様の奥方の言葉に史お兄様が不快そうに声を出した。

「私のためのドレスよ。史様が私のためにデザインさせたドレスなの。あんたなんかが今日着てこれないのは史様が私を選んだからよ」

 歪んだ笑みを浮かべて、そういう飯近様の奥方に彩愛は視線を移し、すぐに飯近様に視線を戻す。

「そうおっしゃってますが?」
「すみません。妻はここのところ夢想癖が悪化しているのです」
「それは、大変ですわね」
「いいんですよ。夢と現実は違うものですから」
「まあ、立派ですわ」

 ふふふ、はははと笑いあう彩愛と飯近様に、何かを察したのか史お兄様が彩愛の手引き、自分のほうにさらに寄せる。

「飯近様。我が婚約者といつの間にそんな仲良くなったんだ?」
「やだな水上様。ただの社交会話ではありませんか。そうでしょう?」

 緩やかに向けられる笑みをみて史お兄様はどう思ったのか、彩愛を抱き寄せて肩を包み込むようにして自身に押し付ける。

「婚約者!史様まだそんな子と婚約してるんですね。待っててください、すぐに私が解消させて真実の愛に気が付かせてあげます」

 そう言って伸ばされようとした手は手袋に包まれている。そしてその手は彩愛に届くことなく叩き落される。

「醜いな」

 賀口様によって。
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