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学校帰り。
シフトの確認の為、店に行く。
休憩室へ入ると休憩中の園田に出勤前の汐ちゃんが勉強を教えていた。
隣に並んで座り、かなり身体を近付けて1つのテキストを覗き込んでいる。
2人とも俺が入って来たことに気付いていない。
園田は明らかに勉強に集中出来ていない雰囲気でソワソワと目を泳がせている。
俺は何だか面白くなくて、2人の前にドカッと腰かけた。
「よう。勉強か?」
「高橋さん!今日シフト入ってましたっけ?」
園田は爽やかに応えると、わざと俺に聞こえるくらいの小さな声で「残念ッス…。」と呟き、ニヤリと笑った。
こいつ、いい根性してやがる。
「こんにちは。」
涼しい顔で汐ちゃんが挨拶をして来た。
欲を言うならばもっと嬉しそうな顔をして欲しいが、もともと嫌われた状態からスタートしたことを思えば、こうして普通に接してもらえることは奇跡だと考え、多くを望まないことにしよう。
しかも夢とはいえほぼ毎晩酷いことをして欲求の昇華をしているのだから、現実ではもう嫌われないように気を付けなければならない。
「園田くん、私そろそろ行かなきゃ…。高橋さんの方が私より勉強出来るし、ここからは高橋さんに聞いて。高橋さん、時間あるなら後お願いします。」
立ち上がり、ペコッと頭を下げる汐ちゃん。
いつもの癖でニヤける俺に、ガバッと顔を上げ怒る。
「やっぱりまた笑ってる!もう!」
そう言って俺の額を軽く小突いた。
ここまでがいつもの流れになりつつある。
額に手を添え、気持ち悪くニヤケながら休憩室から立ち去る汐ちゃんを見送っていると、冷めた目の園田がヌッと視界に入ってきた。
「イケメンが台無しなくらいダラしない顔ッスね。」
「ほっとけ。」
そっぽを向いてぶっきらぼうに言う。
「邪魔して悪かったな。」
「別にっす。」
そう言いつつも、園田はちょっと拗ねた態度で下唇を突き出している。
「高橋さん相手に勝ち目ないし、とっくに諦めてますんで。そうじゃなくても全然脈ないし…。」
珍しくネガティブな発言。
「園田…。」
言葉が出てこない。
励ましたいけど、どの立場で?
謝りたいけど、それもどの立場で?
「高橋さん、気付いてます?汐さんって高橋さんにだけ冷たいんっすよ。でも甘えるのも高橋さんだけ。ツンデレっすよ。」
「…うーん。兄貴みたいな感覚なんじゃねぇか?」
謙遜でなく、本当にそう思い答える。
「いや、海さんに対してはもっと酷いっす。『お兄、ほんとクソ。』って鬼の顔で切れてるの見ました。あれはデレなしのツンっす。」
容易く情景が浮かんで、自然と頬が緩む。
「あと、汐さんの話してる時の自分の顔わかってます?ただのエロジジイっす。」
「てめぇ。」
園田の固くて短い髪をワシャワシャと強く撫で回す。
「うわ。いいじゃないすか!悪態くらい付かせてくださいよ!俺の前でイチャつきやがってっす。」
「イチャついてねぇ。」
本当にイチャついてなんていない。
俺は正直汐ちゃんをイヤらしい目で見てはいるが、汐ちゃんは俺を全くそういう対象にしていないだろう。
きっと兄貴の代わりだ。
海には一花がいて気安く甘えられなくなったんだろう。
「何とでも言っててください。俺は信じてないっす。どうせそのうち付き合いだしますよ。そしてまた俺の前でイチャイチャするんすよ。」
「はー、言ってろ言ってろ。」
呆れた空気を出して話を終わらす。
俺自身の気持ちも決まってないのに、どうこうなり様がない。
「でもね、高橋さん。対象外の俺だからこその役得もあるんすよ?」
折角終わらせた話を蒸し返して、園田は何かを思い出す様に、先程まで汐ちゃんの座っていた左側を見詰めながら、自分の左腕を摩る。
「おっぱい、柔らかかったなぁ…。」
「てめぇ。」
俺はガタッと椅子をならして立ち上がると、テーブル越しに園田の左腕を掴み、ガシガシと強く摩る。
「忘れろ!上書きしてやる!」
「ちょ!やめっ!ああ…!あの繊細な感触があ、あぁ!」
なんの決着もつかないまま、結局楽しくなってきて園田とふざけ合っていると、視線を感じ二人でバッとそちらを見る。
「何してんの、あんたら。」
冷めた目の一花が立っていた。
「もしかして夢の子って…。」
その隣で何か盛大に勘違いして固まる海。
どう考えても違うだろ。
夢に出てくる「女の子」って言っただろ。
確信を持つ前に間違いに気付いてくれ。
「助けてください!高橋さんに襲われてるんっす!」
態とらしく海と一花に縋る視線を向ける園田。
「!?」
海が勘違いを拗らせたまま息を飲んでいる。
「やめて!って言っても無理矢理…。」
園田は眉を下げて情けない声で海の誤解を煽る。
この野郎。
「お前、いい加減にしろよ!」
再度、ワシャワシャと頭を撫で回す。
ひゃっひゃっと園田も笑いだした。
正直、こいつに対しては罪悪感がある。
俺が汐ちゃんを好きなのか確信がない以上宣言は出来ないし、付き合うなんて現状有り得ないことだけど、少なくとも汐ちゃんに特別な感情を抱いていることだけは確かだ。
そんな中で、正々堂々と汐ちゃんを想っている園田に対して、黙ったまま夢の中で汐ちゃんに酷いことを繰り返している自分がとんでもなく狡をしているように思えて仕方がない。
かと言って、「俺、お前の好きな子のこと好きかはわからないけど夢で犯してるぞ。」ってバカ正直に白状するのは絶対正解じゃないだろう。
生きていると、何事も白黒付けられなくてモヤモヤしている時間の方が多いんだと気付かされる。
園田は傷付けたくねぇな。
この先の答えによってはそれも避けられないだろうが、無自覚に海と一花に無礼をはたらいていたことや、美玲を必要以上に傷付けたことの後悔を踏まえて、こいつだけは不要に傷付けないようにしたいと思う。
しかし、最近の出来事からは、今まで自分がどれだけ人と向き合わないで生きてきたのかを痛感させられている。
少しづつでも変わっていきたい。
海の助言通り、焦って白黒付けるつもりはないが、そろそろ答えが出る時が近付いている気がしている。
その時は、俺の態度から何か感じ取りつつも、尊重し待っていてくれる園田にも、誠実になろうと決意した。
シフトの確認の為、店に行く。
休憩室へ入ると休憩中の園田に出勤前の汐ちゃんが勉強を教えていた。
隣に並んで座り、かなり身体を近付けて1つのテキストを覗き込んでいる。
2人とも俺が入って来たことに気付いていない。
園田は明らかに勉強に集中出来ていない雰囲気でソワソワと目を泳がせている。
俺は何だか面白くなくて、2人の前にドカッと腰かけた。
「よう。勉強か?」
「高橋さん!今日シフト入ってましたっけ?」
園田は爽やかに応えると、わざと俺に聞こえるくらいの小さな声で「残念ッス…。」と呟き、ニヤリと笑った。
こいつ、いい根性してやがる。
「こんにちは。」
涼しい顔で汐ちゃんが挨拶をして来た。
欲を言うならばもっと嬉しそうな顔をして欲しいが、もともと嫌われた状態からスタートしたことを思えば、こうして普通に接してもらえることは奇跡だと考え、多くを望まないことにしよう。
しかも夢とはいえほぼ毎晩酷いことをして欲求の昇華をしているのだから、現実ではもう嫌われないように気を付けなければならない。
「園田くん、私そろそろ行かなきゃ…。高橋さんの方が私より勉強出来るし、ここからは高橋さんに聞いて。高橋さん、時間あるなら後お願いします。」
立ち上がり、ペコッと頭を下げる汐ちゃん。
いつもの癖でニヤける俺に、ガバッと顔を上げ怒る。
「やっぱりまた笑ってる!もう!」
そう言って俺の額を軽く小突いた。
ここまでがいつもの流れになりつつある。
額に手を添え、気持ち悪くニヤケながら休憩室から立ち去る汐ちゃんを見送っていると、冷めた目の園田がヌッと視界に入ってきた。
「イケメンが台無しなくらいダラしない顔ッスね。」
「ほっとけ。」
そっぽを向いてぶっきらぼうに言う。
「邪魔して悪かったな。」
「別にっす。」
そう言いつつも、園田はちょっと拗ねた態度で下唇を突き出している。
「高橋さん相手に勝ち目ないし、とっくに諦めてますんで。そうじゃなくても全然脈ないし…。」
珍しくネガティブな発言。
「園田…。」
言葉が出てこない。
励ましたいけど、どの立場で?
謝りたいけど、それもどの立場で?
「高橋さん、気付いてます?汐さんって高橋さんにだけ冷たいんっすよ。でも甘えるのも高橋さんだけ。ツンデレっすよ。」
「…うーん。兄貴みたいな感覚なんじゃねぇか?」
謙遜でなく、本当にそう思い答える。
「いや、海さんに対してはもっと酷いっす。『お兄、ほんとクソ。』って鬼の顔で切れてるの見ました。あれはデレなしのツンっす。」
容易く情景が浮かんで、自然と頬が緩む。
「あと、汐さんの話してる時の自分の顔わかってます?ただのエロジジイっす。」
「てめぇ。」
園田の固くて短い髪をワシャワシャと強く撫で回す。
「うわ。いいじゃないすか!悪態くらい付かせてくださいよ!俺の前でイチャつきやがってっす。」
「イチャついてねぇ。」
本当にイチャついてなんていない。
俺は正直汐ちゃんをイヤらしい目で見てはいるが、汐ちゃんは俺を全くそういう対象にしていないだろう。
きっと兄貴の代わりだ。
海には一花がいて気安く甘えられなくなったんだろう。
「何とでも言っててください。俺は信じてないっす。どうせそのうち付き合いだしますよ。そしてまた俺の前でイチャイチャするんすよ。」
「はー、言ってろ言ってろ。」
呆れた空気を出して話を終わらす。
俺自身の気持ちも決まってないのに、どうこうなり様がない。
「でもね、高橋さん。対象外の俺だからこその役得もあるんすよ?」
折角終わらせた話を蒸し返して、園田は何かを思い出す様に、先程まで汐ちゃんの座っていた左側を見詰めながら、自分の左腕を摩る。
「おっぱい、柔らかかったなぁ…。」
「てめぇ。」
俺はガタッと椅子をならして立ち上がると、テーブル越しに園田の左腕を掴み、ガシガシと強く摩る。
「忘れろ!上書きしてやる!」
「ちょ!やめっ!ああ…!あの繊細な感触があ、あぁ!」
なんの決着もつかないまま、結局楽しくなってきて園田とふざけ合っていると、視線を感じ二人でバッとそちらを見る。
「何してんの、あんたら。」
冷めた目の一花が立っていた。
「もしかして夢の子って…。」
その隣で何か盛大に勘違いして固まる海。
どう考えても違うだろ。
夢に出てくる「女の子」って言っただろ。
確信を持つ前に間違いに気付いてくれ。
「助けてください!高橋さんに襲われてるんっす!」
態とらしく海と一花に縋る視線を向ける園田。
「!?」
海が勘違いを拗らせたまま息を飲んでいる。
「やめて!って言っても無理矢理…。」
園田は眉を下げて情けない声で海の誤解を煽る。
この野郎。
「お前、いい加減にしろよ!」
再度、ワシャワシャと頭を撫で回す。
ひゃっひゃっと園田も笑いだした。
正直、こいつに対しては罪悪感がある。
俺が汐ちゃんを好きなのか確信がない以上宣言は出来ないし、付き合うなんて現状有り得ないことだけど、少なくとも汐ちゃんに特別な感情を抱いていることだけは確かだ。
そんな中で、正々堂々と汐ちゃんを想っている園田に対して、黙ったまま夢の中で汐ちゃんに酷いことを繰り返している自分がとんでもなく狡をしているように思えて仕方がない。
かと言って、「俺、お前の好きな子のこと好きかはわからないけど夢で犯してるぞ。」ってバカ正直に白状するのは絶対正解じゃないだろう。
生きていると、何事も白黒付けられなくてモヤモヤしている時間の方が多いんだと気付かされる。
園田は傷付けたくねぇな。
この先の答えによってはそれも避けられないだろうが、無自覚に海と一花に無礼をはたらいていたことや、美玲を必要以上に傷付けたことの後悔を踏まえて、こいつだけは不要に傷付けないようにしたいと思う。
しかし、最近の出来事からは、今まで自分がどれだけ人と向き合わないで生きてきたのかを痛感させられている。
少しづつでも変わっていきたい。
海の助言通り、焦って白黒付けるつもりはないが、そろそろ答えが出る時が近付いている気がしている。
その時は、俺の態度から何か感じ取りつつも、尊重し待っていてくれる園田にも、誠実になろうと決意した。
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