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     エリーナの体調が回復しても、カールは何か思い詰めたような表情をしていた。


    痛いくらいに激しく抱かれた後は辛そうな顔をする。


    ある夜、いつものようにベッドで微睡んでいるとカールが徐に口にした。


「屋敷に、戻るか」


「え……?」


    唐突なカールの言葉に、エリーナは目を丸くして見つめ返す。


    驚くエリーナにカールは苦笑を零して聞いた。


「ふっ、何をそんなに驚いている? エリーナも屋敷のことを心配していただろう」


「そ、それはそうですけど」


    カールはエリーナの髪を優しく撫でながら、どこか寂しそうに口にする。


「そろそろ、限界かもしれないな。私はきっと一生君をここに閉じ込めてしまう」


「そんなこと」


    大げさだと言おうとして、カールにふっと笑われた。


「いくら無知な君でも、この日常がおかしいことくらい気づいていただろう?」


    心のどこかで思っていたかもしれない。


    数日のつもりの滞在が一月延びて、カールは屋敷に戻るつもりはないのかもしれないとも思った。


    カールが不安に怯えているのは確かで、その原因はエリーナにある。


    ヴァレリー公爵とのことがこんなにも尾を引くなんて思わなかった。


    エリーナも一人になればヴァレリー公爵にされたことを思い出す。口が渇き吐き気がして冷や汗をかく。


    苦しんでいるのはエリーナだけではない。


    カールも苦しんでいる。その不安を払拭しようとエリーナを抱いているのかもしれない。


    エリーナの心が癒えるまで、と思ってカールはこの小屋で静養することにしたのだろうけれど、引き際を見失った。


    エリーナが返答に困っていると、申し訳なさそうにカールは言った。


「君の身体のためにも、屋敷で過ごす方がいい。ここにいたらエリーナを壊してしまう。少しの間だったが、楽しかったよ」


    エリーナのおでこに軽くキスを落として、カールは小さく笑む。


    フォード公爵の立派な屋敷とは違う、簡素な作りの小屋での生活。


    何もない部屋だったけれど、カールがいてくれれば場所など関係なかった。


    カールがいてくれれば他に何もいらないほど、エリーナの中でも夫の存在が大きくなっている。


    屋敷に戻ればまたいつもの生活が戻る。


    この一月以上の濃密な時間を思えばさみしくなるけれど、このままここにいたらカールもエリーナも抜け出せなくなる。


「明日、仕事で朝早くに出かけるが夕方には戻る。それまでに準備しておいてくれ。マリエットにも伝えておく」


「分かりました」


 「エリーナ、愛してるよ。この先もずっと……」


    カールにキスをされてエリーナもそれに答えた。


    絡み合うように二人は抱き合い、行為に溺れた。


    エリーナはこのとき、微塵も思っていなかった。


    まさかあんなことが起こるなんてー。





    


    


    


    


    


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