51 / 66
4
しおりを挟む
エリーナの体調が回復しても、カールは何か思い詰めたような表情をしていた。
痛いくらいに激しく抱かれた後は辛そうな顔をする。
ある夜、いつものようにベッドで微睡んでいるとカールが徐に口にした。
「屋敷に、戻るか」
「え……?」
唐突なカールの言葉に、エリーナは目を丸くして見つめ返す。
驚くエリーナにカールは苦笑を零して聞いた。
「ふっ、何をそんなに驚いている? エリーナも屋敷のことを心配していただろう」
「そ、それはそうですけど」
カールはエリーナの髪を優しく撫でながら、どこか寂しそうに口にする。
「そろそろ、限界かもしれないな。私はきっと一生君をここに閉じ込めてしまう」
「そんなこと」
大げさだと言おうとして、カールにふっと笑われた。
「いくら無知な君でも、この日常がおかしいことくらい気づいていただろう?」
心のどこかで思っていたかもしれない。
数日のつもりの滞在が一月延びて、カールは屋敷に戻るつもりはないのかもしれないとも思った。
カールが不安に怯えているのは確かで、その原因はエリーナにある。
ヴァレリー公爵とのことがこんなにも尾を引くなんて思わなかった。
エリーナも一人になればヴァレリー公爵にされたことを思い出す。口が渇き吐き気がして冷や汗をかく。
苦しんでいるのはエリーナだけではない。
カールも苦しんでいる。その不安を払拭しようとエリーナを抱いているのかもしれない。
エリーナの心が癒えるまで、と思ってカールはこの小屋で静養することにしたのだろうけれど、引き際を見失った。
エリーナが返答に困っていると、申し訳なさそうにカールは言った。
「君の身体のためにも、屋敷で過ごす方がいい。ここにいたらエリーナを壊してしまう。少しの間だったが、楽しかったよ」
エリーナのおでこに軽くキスを落として、カールは小さく笑む。
フォード公爵の立派な屋敷とは違う、簡素な作りの小屋での生活。
何もない部屋だったけれど、カールがいてくれれば場所など関係なかった。
カールがいてくれれば他に何もいらないほど、エリーナの中でも夫の存在が大きくなっている。
屋敷に戻ればまたいつもの生活が戻る。
この一月以上の濃密な時間を思えばさみしくなるけれど、このままここにいたらカールもエリーナも抜け出せなくなる。
「明日、仕事で朝早くに出かけるが夕方には戻る。それまでに準備しておいてくれ。マリエットにも伝えておく」
「分かりました」
「エリーナ、愛してるよ。この先もずっと……」
カールにキスをされてエリーナもそれに答えた。
絡み合うように二人は抱き合い、行為に溺れた。
エリーナはこのとき、微塵も思っていなかった。
まさかあんなことが起こるなんてー。
痛いくらいに激しく抱かれた後は辛そうな顔をする。
ある夜、いつものようにベッドで微睡んでいるとカールが徐に口にした。
「屋敷に、戻るか」
「え……?」
唐突なカールの言葉に、エリーナは目を丸くして見つめ返す。
驚くエリーナにカールは苦笑を零して聞いた。
「ふっ、何をそんなに驚いている? エリーナも屋敷のことを心配していただろう」
「そ、それはそうですけど」
カールはエリーナの髪を優しく撫でながら、どこか寂しそうに口にする。
「そろそろ、限界かもしれないな。私はきっと一生君をここに閉じ込めてしまう」
「そんなこと」
大げさだと言おうとして、カールにふっと笑われた。
「いくら無知な君でも、この日常がおかしいことくらい気づいていただろう?」
心のどこかで思っていたかもしれない。
数日のつもりの滞在が一月延びて、カールは屋敷に戻るつもりはないのかもしれないとも思った。
カールが不安に怯えているのは確かで、その原因はエリーナにある。
ヴァレリー公爵とのことがこんなにも尾を引くなんて思わなかった。
エリーナも一人になればヴァレリー公爵にされたことを思い出す。口が渇き吐き気がして冷や汗をかく。
苦しんでいるのはエリーナだけではない。
カールも苦しんでいる。その不安を払拭しようとエリーナを抱いているのかもしれない。
エリーナの心が癒えるまで、と思ってカールはこの小屋で静養することにしたのだろうけれど、引き際を見失った。
エリーナが返答に困っていると、申し訳なさそうにカールは言った。
「君の身体のためにも、屋敷で過ごす方がいい。ここにいたらエリーナを壊してしまう。少しの間だったが、楽しかったよ」
エリーナのおでこに軽くキスを落として、カールは小さく笑む。
フォード公爵の立派な屋敷とは違う、簡素な作りの小屋での生活。
何もない部屋だったけれど、カールがいてくれれば場所など関係なかった。
カールがいてくれれば他に何もいらないほど、エリーナの中でも夫の存在が大きくなっている。
屋敷に戻ればまたいつもの生活が戻る。
この一月以上の濃密な時間を思えばさみしくなるけれど、このままここにいたらカールもエリーナも抜け出せなくなる。
「明日、仕事で朝早くに出かけるが夕方には戻る。それまでに準備しておいてくれ。マリエットにも伝えておく」
「分かりました」
「エリーナ、愛してるよ。この先もずっと……」
カールにキスをされてエリーナもそれに答えた。
絡み合うように二人は抱き合い、行為に溺れた。
エリーナはこのとき、微塵も思っていなかった。
まさかあんなことが起こるなんてー。
応援ありがとうございます!
6
お気に入りに追加
4,098
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる