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第一章
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ある日イレーナはオーランに連れられて騎士宿舎に来ていた。
百人近くの騎士が滞在していて、それぞれ四人部屋で生活をしているという。
騎士団長のトリスタン・イリックという男の人が、礼儀正しく王であるオーランに敬礼した。
オーランは頷くことで返し、状況を確認した。
「重傷者の具合はどうだ?」
「高熱が続いております。毒に関しては一命をとりとめましたがー」
「油断は許さないということだな」
難しい顔つきでオーランが口にすると、トリスタンは苦しそうに頷いた。
「はいー」
「これは一刻も早く姫巫女の力を使わないといけませんな、国王様」
後ろで控えていた男が、顎髭に手をやりながらイレーナを見据えた。
彼はこの国にいる十人の大臣の内の一人、シルヴァン・ヴァロアだ。
その大臣の中でも最も権力があり、国王であるオーランに対しても強気な態度をとっている。
異質なものでも見るかのような視線を投げかけてくる大臣が苦手だった。
「姫巫女様、このたびは我が騎士達のためにお越しくださりありがとうございます」
トリスタンが丁寧に挨拶を交わす。
「彼はこの国で一番剣術に優れている。まだ二十九歳だが我が国においてなくてはならない男だ」
「ご謙遜を。国王様の剣術裁きには誰も叶いませんよ」
騎士団長というともっと屈強なイメージがあったが、トリスタンは細身で顔に傷はあるものの、綺麗な顔立ちをしていた。
トリスタンに連れられて重傷者が眠っているという医務室に向かう。
部屋の中にはベッドが二つあり、その上に上半身を包帯で巻かれた男性が寝ていた。
「……っ」
イレーナは思わず息をのみ、倒れそうになるのをオーランが後ろから支える。
「これはこれは国王様」
「ご苦労。少しの間席を外してもらえないだろうか」
常時滞在しているという老齢の医師が、会釈をして部屋を出ていく。
その際にオーランの護衛としてついてきた男達も外に出された。
部屋の中にはイレーナとオーラン、ユーグにシルヴァンが残る。
二人の男性の呼吸は浅く、意識はないようにみえた。
「-姫巫女。まずはこの二人を治療してほしい。力を使うのに制限とかあるのか?」
「え、ええ。一日一人が、限界です」
「たった一人だと!?」
シルヴァンが驚きに目を見張り、イレーナを睨む。
「大臣、少し黙っていてくれないか。口を挟むようならあなたも外にいてもらうことになる」
オーランの怜悧な視線に睨まれたシルヴァンは、渋々入口の扉の前まで下がった。
「力を使った後はどうなる?」
再びイレーナに向き直って真剣な面持ちで聞いてくる。
「体力を使うので無気力状態になります。ただー今までは神聖な神殿で行われていて、外の世界では使用したことがないんです」
正直、イレーナもどうなるか分からなかった。
力事態は使えると思うけれど、イレーナの身体には何かしら負荷がかかるだろう。
ただでさえ、環境の変化で疲れ切っている。
「どうされますか? オーラン様」
今まで黙って聞いていたユーグが、遠慮がちに問いかけると難しい表情で思案する。
もの言いたげな視線を向けられ、イレーナは戸惑う。
目の前には苦しんでいる人がいる。
治せる力があるのに、このまま見過ごすことはできなかった。
「やってみます」
「-姫巫女ー?」
イレーナの言葉になぜかオーランが驚きの眼差しを向けて、気まずそうに聞いてきた。
「いいのか?」
「え、ええ」
戸惑いがちに頷くと、オーランが意を決したように頷いた。
「わかった。頼むー」
イレーナは静かに頷き、一番の重傷者である患者の前に行く。
胸に手を当て目を閉じ、全神経を注いだ。
百人近くの騎士が滞在していて、それぞれ四人部屋で生活をしているという。
騎士団長のトリスタン・イリックという男の人が、礼儀正しく王であるオーランに敬礼した。
オーランは頷くことで返し、状況を確認した。
「重傷者の具合はどうだ?」
「高熱が続いております。毒に関しては一命をとりとめましたがー」
「油断は許さないということだな」
難しい顔つきでオーランが口にすると、トリスタンは苦しそうに頷いた。
「はいー」
「これは一刻も早く姫巫女の力を使わないといけませんな、国王様」
後ろで控えていた男が、顎髭に手をやりながらイレーナを見据えた。
彼はこの国にいる十人の大臣の内の一人、シルヴァン・ヴァロアだ。
その大臣の中でも最も権力があり、国王であるオーランに対しても強気な態度をとっている。
異質なものでも見るかのような視線を投げかけてくる大臣が苦手だった。
「姫巫女様、このたびは我が騎士達のためにお越しくださりありがとうございます」
トリスタンが丁寧に挨拶を交わす。
「彼はこの国で一番剣術に優れている。まだ二十九歳だが我が国においてなくてはならない男だ」
「ご謙遜を。国王様の剣術裁きには誰も叶いませんよ」
騎士団長というともっと屈強なイメージがあったが、トリスタンは細身で顔に傷はあるものの、綺麗な顔立ちをしていた。
トリスタンに連れられて重傷者が眠っているという医務室に向かう。
部屋の中にはベッドが二つあり、その上に上半身を包帯で巻かれた男性が寝ていた。
「……っ」
イレーナは思わず息をのみ、倒れそうになるのをオーランが後ろから支える。
「これはこれは国王様」
「ご苦労。少しの間席を外してもらえないだろうか」
常時滞在しているという老齢の医師が、会釈をして部屋を出ていく。
その際にオーランの護衛としてついてきた男達も外に出された。
部屋の中にはイレーナとオーラン、ユーグにシルヴァンが残る。
二人の男性の呼吸は浅く、意識はないようにみえた。
「-姫巫女。まずはこの二人を治療してほしい。力を使うのに制限とかあるのか?」
「え、ええ。一日一人が、限界です」
「たった一人だと!?」
シルヴァンが驚きに目を見張り、イレーナを睨む。
「大臣、少し黙っていてくれないか。口を挟むようならあなたも外にいてもらうことになる」
オーランの怜悧な視線に睨まれたシルヴァンは、渋々入口の扉の前まで下がった。
「力を使った後はどうなる?」
再びイレーナに向き直って真剣な面持ちで聞いてくる。
「体力を使うので無気力状態になります。ただー今までは神聖な神殿で行われていて、外の世界では使用したことがないんです」
正直、イレーナもどうなるか分からなかった。
力事態は使えると思うけれど、イレーナの身体には何かしら負荷がかかるだろう。
ただでさえ、環境の変化で疲れ切っている。
「どうされますか? オーラン様」
今まで黙って聞いていたユーグが、遠慮がちに問いかけると難しい表情で思案する。
もの言いたげな視線を向けられ、イレーナは戸惑う。
目の前には苦しんでいる人がいる。
治せる力があるのに、このまま見過ごすことはできなかった。
「やってみます」
「-姫巫女ー?」
イレーナの言葉になぜかオーランが驚きの眼差しを向けて、気まずそうに聞いてきた。
「いいのか?」
「え、ええ」
戸惑いがちに頷くと、オーランが意を決したように頷いた。
「わかった。頼むー」
イレーナは静かに頷き、一番の重傷者である患者の前に行く。
胸に手を当て目を閉じ、全神経を注いだ。
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