【完結】婚約破棄を望んだ悪役令息ですが、破棄して貰えないので隣国に逃走します!

きたさわ暁

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逃走中の回想

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 僕はこの婚約を破棄し、公爵令息と男爵令嬢を結びつけることで、自由の身になりたかった。そのために僕は悪役令息として振る舞い、彼らの愛を試し、貴族社会のしきたりの中で二人が結ばれる道を切り開く必要がある。

 僕の計画は緻密でありながらもどこか無謀で、失敗すれば貴族社会の笑いものになるかもしれない。それでも、僕はこの賭けに出ることを選んだ。不幸になる未来が見えているのに、そこへ進もうとは思えない。幸福という未来を、心から欲していたからだ。

 ここ数週間、僕は積極的に男爵令嬢に絡み、彼女の行動や言動に高位貴族のマナーという名の重圧を押しつけた。テーブルマナーから会話の節度、制服の着こなしまで、彼女が貴族社会の厳格な基準に適っていないことをことあるごとに指摘する。

 男爵令嬢は明らかに苛立ち、眉をひそめ、時折鋭い視線で僕を睨みつけた。嫌がられているのは百も承知だ。だが、僕の目的は彼女を貶めることではない。彼女が公爵令息の隣に立つにふさわしい女性だと、貴族社会に認めさせるための一歩なのだ。

 公爵令息には何度も苦言を呈された。彼は穏やかな口調で、しかし懇願するような視線を僕に向け、訴えた。
「幼なじみには必要のない事だ」
「傷つくようなことを言わないでくれ」
 彼の言葉は、男爵令嬢を守るための盾そのものでその声には、幼なじみへの深い愛情と、彼女を傷つけないで欲しいという願いが込められていたが、それでも僕との婚約を解消するまでには至らない。彼女との結婚したいという意思は感じられなかった。

 けれど徐々に僕に対して、苛立ちを感じているようだった。
 そんな表情を見て、僕は内心でほくそ笑む。公爵令息の苛立ちは、僕の計画が順調に進んでいる証だからだ。男爵令嬢が大事で、彼女と一生そばにいたいなら、僕の言葉の裏に隠された意図を読み取り、二人の未来のために役立てるべきではないのか。そう、僕の行動はすべて、彼らの愛を試し、貴族社会の障害を取り除くための布石なのだ。

 僕の最終目的は婚約解消または破棄だ。公爵令息と男爵令嬢が結ばれれば、僕はこの不愉快極まりない婚約から解放され、自由を手に入れられる。作戦は今のところ、順調に進んでいるように思えた。少なくとも、表面上は。
 
「次は……拉致監禁……」
 薄暗い廊下で、僕は小さく呟いた。言葉を口にした瞬間、しまった、と思う。あまりにも物騒な言葉のチョイスだ。辺りを見回したが、幸い誰もおらず、ホッと胸を撫で下ろし、額に浮かんだ汗をそっと拭う。これからの行動に、緊張で心臓がドクドクと脈打っている。
 いま、僕は急いでいた。校舎の奥深く、ほとんど人が訪れない物置として使われている空き教室に、男爵令嬢を手紙で呼び出したのだ。そこは学年の教室から遠く離れ、埃っぽい空気が漂い、窓から差し込む光も薄暗い場所だった。普段は物置としてしか機能しないこの教室だが、僕にとっては格好の悪役令息の舞台だった。

 なぜ僕がそんな場所を知っているのか? それは、僕が学園の片隅にひっそりと作った薬草園に近いからだ。貴族の令息らしからぬ行動かもしれないが、僕の薬草栽培は学園の許可を得ている。なぜなら、エルドリス領は薬草栽培と調薬で知られている。王都に出てきた理由の一つとして、学園に通わなければならないことと、薬師の資格を取るためだった。学園に作った薬草園の薬草と僕が調薬した薬は、学園が優先的に受け取っている。

 まあ僕が作れる薬は、ちょっとした怪我の傷薬や、胃痛や頭痛薬くらいで、一級の薬師が作るものとは比べ物にならないくらい簡単なものだ。
 けれど入学当初学園に交渉し、薬草園の近くに畑仕事用の道具を置くためのスペースを確保していたため、この辺りの地理には詳しかった。埃っぽい廊下、軋む床板、時折聞こえる風の音――この場所は、僕の計画を実行するには完璧な環境だ。

 男爵令嬢には、手紙で一人で来るようにと念を押している。だが、彼女が公爵令息にそのことを伝えている可能性は高い。いや、むしろ伝えていることを期待していた。公爵令息が男爵令嬢を助けに来ることで、二人の絆をより強固なものにする――それが僕の狙いだった。

 念のため、何らかのトラブルに備えて僕が調薬したポーションも準備していた。薬草園で育てた薬草を丁寧にすり潰し、効能を最大限に引き出したこのポーションは、僕の自信作だ。もし男爵令嬢が暴れて怪我でもしたら、すぐに渡して手当てできるようにと、ポケットに忍ばせている。僕は用意周到なのだ。いや、そうでなければ、この大胆な計画を遂行する勇気など持てなかっただろう。

 まだかまだかと待ち構えていると、ドアが小さくノックされる音が響いた。心臓が跳ね、緊張で喉がカラカラになり、声が裏返りそうになるのを必死で抑えた。
「ど、どうぞ!」  
 情けないことに、やっぱり声が裏返ってしまった。顔が熱くなり、恥ずかしさで耳まで赤くなるのが自分でもわかる。だが、男爵令嬢にはそんな僕の動揺など関係ないだろう。僕は平静を装い、唇の端に薄い笑みを必死で浮かべた。



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