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悪女の目覚めと出会い-5
しおりを挟む大人の男たちから逃げようだなんて、無茶な話だ。だけど、この歳のアナスタシアはすでに魔法なら使えていたはず。
魔法の使い方はきっとこの身体が覚えている。そう思い、私は頭の中に浮かんだ呪文を唱えてみた。
(風魔法で追手たちを吹っ飛ばせるように……)
「………あれ?」
呪文を唱えたはいいものの、魔法の威力が思っていたよりも弱く、その辺に落ちていた枝を投げることぐらいしかできなかった。
軽い足止めぐらいにはなったが、そこまで大きなダメージを与えることはできず、さらには飛ばせたとしても枝や小石なので、簡単に弾かれてしまう。
(………アナスタシアって魔法の才があるっていう設定じゃなかった? 私のせい?)
軽くショックを受けている間にも、一人、また一人と人数が追手の数が増えていく。
捕まれば確実に死ぬ、そんなとんでもない状況に思わず泣きそうになるのを、必死に堪えて走り続ける。
そもそも本来はどうやって二人はこの状況から逃げ延びたのだろうか。作中では、アナスタシアがレインを助けるシーンは簡潔にまとめられ、アナスタシアがレインを屋敷に連れて帰るところから始まっていた。
なので肝心なところが分からない。焦りと苛立ちから、思わず舌打ちをすれば、前を走るレインが声をかけてきた。
「ごめん」
「え?」
「あいつらに魔力封じの薬を飲まされてるから、今の俺は魔法が使えない」
「……ああ、なるほど」
その言葉に、レインは魔力が高い設定だった事を思い出した。作中でもトップクラスの強さで、自分と同じぐらい強いところも気に入って、アナスタシアは気を許したのだったけ。
きっと今のこの状況も魔力封じの薬を飲まされていなければ、レイン一人でどうにかできたのだろう。それか、私がちゃんとアナスタシアだったら──。
なんて、たらればの話をしたところで仕方がない。今を考えなくては。
「大丈夫、レインの魔法がなくても絶対に逃げ切れるよ」
何の根拠もない言葉だけど、自身をそしてレインを少しでも安心させるために、私は笑顔で言った。
「──嘘、行き止まり?!」
突如、目の前にコンクリートの壁が現れ、立ち止まった。引き返そうにも、後ろからは足音が近づいてくる。
このままでは追いつかれてしまう。そうなれば、二人とも無事では済まない。
焦りと恐怖で心臓の音がどんどん早くなっていく。私を庇うようにレインが前に立った。
(どうしよう、どうしよう。ここで死ぬだなんて絶対に嫌。それにレインのことも絶対に助けるって言ったのにこのままじゃあ──)
私が使えるのは威力の弱い魔法だけ、レインは魔法が使えない。目の前は行き止まりで、助けに来てくれる人もいない。
この最低最悪な状況を切り抜けるにはどうすればいい! 必死に考えていれば次の瞬間、身体の中心が熱くなるのを感じた。
(なにこれ……胸が燃えるように熱い…)
そして眩しいぐらいの光と共に、杖が目の前に姿を現したのだった。
「………これは?」
目の前で浮かんでいる杖を眺めた。銀色の細い杖の先端は三日月のような形をしており、中には蒼白い宝石が浮いている。
(これって、もしかして……アナスタシアのソウル魔法?)
ソウル魔法とは、自身の魂を武器に実体化する魔法で、「オトイノ」の中にでてくるそれっぽい設定のひとつである。
自身の魂を武器に実体化するので、各キャラクターごとに異なる特性を持っている。例えば、エミリアのソウル魔法は「反転」の特性があり、呪いも祈りに、絶望も希望に変えてしまうものだ。
もちろん、魂を武器にしているので、実体化した武器を攻撃されると、自身の魂自体にも影響を受けてしまう。さらに、魔力の消費も激しいので頻繁には使えないという縛りもある。
ちなみに、これだけ詳細に設定が明かされているにも関わらず、作中でソウル魔法を使用したのはエミリアだけである。
(しかも、アナスタシアを倒す時だから終盤も終盤だったのよね……)
アナスタシアの世界を破滅させる攻撃を反転させ、世界を救うという──まさに「乙女の祈り」というタイトルにふさわしい結末だった。しかも、いいスチルだった。
って、今はそんな事を考えている場合ではない。とりあえず、物は試しだ。私は浮いている杖を手に取った。
(アナスタシアのソウル魔法にどんな特性があるかは分からないけど、今の私だとそこまで大きな威力は出ないだろう。とりあえず、力を込めて──)
そう思い、タイミングよく姿を現した追手たちに向かって、杖を振りかざした瞬間。
けたたましい音と共に、辺り一面が大きく揺れた。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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