ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで

菱田もな

文字の大きさ
7 / 54

悪女の目覚めと出会い-6

しおりを挟む
 

 地面が揺れる衝撃に思わず目を閉じる。そして、次に目を開いた時、私は目の前の光景に驚愕した。

「うそ…」

 先ほどまで恐ろしい表情で私たちを追いかけていた男たちは、みんな地面に倒れていた。さらに辺りの建物や地面の所々にはヒビまで入っている。

(これを私が…?)

 両手で支えている杖がふわっと消えた。

 これが本来の威力なのか、暴走したのかは分からない。しかし、目の前で伸びている追手たちを見て、私は言葉を失った。

 彼らは血を流してぐったりと横たわっている。かろうじてまだ息はあるようだが、それも時間の問題に思える。

 とんでもないことをしてしまったのではないかと、全身から血の気が引いていくのが分かった。

 急いで何か治療をと思い、追手たちに近寄ろうとした私をレインが制止する。

「気にしなくていい。時間が経てばこいつらの仲間が回収しにくる」
「でも……!」
「君はこいつらがどんな人間か知ってるの? 人を人と思わない、ゴミのような連中だ。そんな人間を助ける必要なんてない」

 レインが冷たく言い放つ。

 確かに彼らは善良な人間ではない。
 しかしそれでも、それが私が彼らを見殺しにしていい理由にはならない。

 しかし、そんな私の心情を察してか、レインが言葉を続けた。

「君がここでこいつらを助ければ、俺のような被害者はもっと増えるよ? それでも君はこいつらを助けるの?」
「それは…」

 その言葉に鎖に繋がれていたレインの姿を思い出した。黒い部屋の中、床には血痕。部屋にあるのは物騒な道具ばかり。彼らがあの場でレインにしたことは、彼の身体にある酷い傷を見れば想像できる。

 黙り込んだ私を見て、レインが口を開いた。

「お嬢様には酷な質問だったね。……まあ、どっちみち今の質問は意味ないよ。こいつらは自身の身体をいじって丈夫にしてあるから簡単には死なない。だから本当に気にしなくていい」

 確かに言われてみれば、思ったよりも男たちの身体には傷がついていない。先ほどまで虫の息だったが、それも少しだけマシになったように見えた。

「ほらね? だからあまりここに長居していると、こいつらにまた追われることになる。そうなったら今度こそ無事で済む保証はない」
「………そう、だね」

 さっさとこの場を立ち去れと言わんばかりのレインの態度に、彼らのことは見捨てることにした。渋渋といった私の様子にレインが呆れたように言う。

「お人よしも大概にしないと命がもたないですよ、ご主人さま」

 レインの言葉が重くのしかかる。

「……とりあえず、帰ろっか」

 その言葉にレインがこくりと頷いた。

 かすかにまだ震える手を固く握りしめながら、私は屋敷へと戻るため歩き出した。



 レインと一緒に戻れば、屋敷の中は大変なことになってしまった。

 こっそり抜け出したことはもちろん、私の隣に立つレインの存在に屋敷中の人間がざわめく。

(まあそうなるよね……抜け出したお嬢様が急に男の子を連れて帰ってきたんだもん…)

 恐る恐る両親の反応を伺えば、お父様の表情は怒っているのだろう、とても険しい。しかし、お母様に至っては、まるで興味がないといったような表情を浮かべていた。

 テオドールに関しては、分かりやすいぐらいに慌てていた。かわいいぞ、テオたん!

 そして、レインの汚れた格好を見たお父様が、とりあえず身体を清めるよう、使用人に伝える。テキパキと使用人たちが動く中、私を逃さないとばかりに、お父様が声をかける。

「アナスタシアは部屋に来なさい」
「……はい」

 使用人に連れられていくレインに心の中で手を振りながら、私は小さくため息をついた。

(確か、お父様って怒ると怖いのよね)

 アナスタシアとして目を覚ましてから、まだ一度も怒られたことはない。しかし、作中でテオドールが「お父様だけは怒らせないようにしている」と言っていたのを覚えている。

「………最悪だ」

 私は重い足取りでお父様への部屋へと向かったのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

処理中です...