白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
38 / 265

4-7

しおりを挟む
 ガーーー。ゴーーー。

 大きなガラスの扉を抜けると、外の音が反響してコンクリートの道や壁にぶつかっていた。殺風景な中に、ひときわカラフルなものを見つけた。台車の貸し出しコーナーがある。自転車を運ぶためらしい。

「それに乗せてやろうか?」
「人は乗っちゃだめだよ~。クソガキ発言はやめてください!」
「お前こそクソガキだろう」
「どっちがだよ~っ」
「これはなんだ?引っ張ってみようか」
「やめろよ~」

 すがりついた腕を離して下唇を守った。引っ張られて伸びてしまいそうだ。朝からこんなことばかりやられている。本当に36歳になったのか?

「大人になった後で兄弟が出来てよかったね。苛めていたと思うよ」
「そうか?大事にしたはずだ」
「そうかな?」
「羨ましかった。隣の病室の子が。母親と弟が見舞いに来ていた」
「ごめんね……」
「すまない。ガキの頃はそう思っただけの話だ」
「でもさ……」
「大人になった後でよかった。大喧嘩になっていたはずだ。仲も悪かっただろう」
「そうかな?」
「そうだ。黒崎家で甘やかされて育っただろう。しっかりした子になったのは環境のおかげだ」

 胸がキュンとなった。クソガキ度が消え失せて、大人に戻ったからだ。さらに頭を抱き寄せられて乱暴に撫でてもらった。帽子越しでも手の温かさを感じる。その手が降りてきて頬を撫でられた。

「ずい分と可愛いじゃないか。どうしてだ?」
「知らないよ……」
「俺の前だけにしろ」
「何言ってんだよ……んん……」

 黒崎が他の人から見えない位置に立った。コンクリート壁の感触が背中に起きた後、温かい唇が頬に押し当てられた。

「ん……」
「まだ終わらないぞ」

 軽く目を閉じると、まぶたにもキスをされた。さらに音を立てて額へ押し当てられ、いよいよ唇へのキスを期待しているのに、望んだ感触は起きない。焦れて目を開くと、優しい眼差しを向けられていた。

「黒崎さん。唇には?」
「しない。人が通るからだ」
「ここまですれば同じだよ。通ってないじゃん。ねえ……」
「誘うな。ここじゃ何も出来ない」
「帰ってからは?」
「その目をやめろ」

 やめろというのは矛盾している。至近距離で見つめられているからだ。熱い息遣いを感じてドキドキしていると、向こうの自動販売機から知っている声が聞こえてきた。

「……裕理さーん。こっちだよーー」
「……ゆうとくーん」

 そこには悠人と早瀬さんがいた。偶然にも来ていたのか。声を掛けようかと思ったが邪魔をしたくない。もちろん、俺たちのムードを保ちたい。

「黒崎さん……」
「向こうは見るな。早瀬もやっと休暇を取れた」
「うん……」
「抑えられなかったらどうする?」
「だめだよ……。目を閉じているからさ……」

 この目がいけないのなら閉じていよう。期待通りにキスを受け取った。啄むようなキスが始まった時、賑やかな声が聞こえてきた。甘ったるい。まるでケーキの匂いが漂ってきそうだ。

「夏樹。こっちだけを見ろ」
「勝手に目が向くんだよ……」
「あれは何だ?聞いたことはあるか?」
「たまにやっているみたい。名前は知らない」

 聞かないふりをしても無理だった。黒崎も同じだ。視線だけ向けた途端、吹き出しそうになるのを堪えた。自動販売機のそばでは、早瀬さんの背後から悠人が抱きついていた。何かを喋りながらステップを踏んでいる。その上で、まるで運動会のような掛け声を上げている。まるで踊っているかのようだ。

 そして、向こうへ歩いて行った。残された俺たちは会話が途切れてしまった。アツアツぶりに当てられたからだ。黒崎が言うには、2年前の早瀬さんならあり得ない行動だということだ。早瀬さんの誕生日は12月7日だ。今日は3日遅れの誕生日祝いということなのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...