白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 ガーーー、サーーーー。

 エレベーターで7階まで上がり、遊歩道の入り口までやって来た。意外と車との距離が近くてビックリした。歩道のそばでビュンビュン走っている。

「わあああ~。意外と近いんだねえ」
「こっちを通れ」

 肩を引かれて場所を交代した。左側には鉄柵越しにビル群が並んでいる。遠くの方には東京タワーが見えている。まだ見えないが、この橋の下には遊覧船が通っているだろう。

 もう少し進んだ先に、休憩できる景色のいいスポットがあるそうだ。のんびりと歩きながら景色を眺めた。さっきから黒崎にイジられている。今更のようなことだがと。

「本当に大学2年生か?ここまで落ち着いた場所に来たがるのは珍しいだろう」
「マジで好きだもん。知ってるだろ?」

 たまには賑やかな場所にも行きたい。ショッピングモール、遊園地、ゲームセンター。スポーツは興味がない。それは黒崎も同じだ。

「嘘が下手だぞ。俺に全部を合わせなくてもいい。昔はやりたい放題だった」
「高校生だったじゃん。もう20歳だし」
「もっとワガママを言え。減っているから寂しい。手ごたえを感じない」
「じゃあ……。さっきの悠人達みたいに踊ろうよ~」
「バカヤロウ」
「え?バ、バカヤロウ?今さっき言ったよね?ワガママをって……」
「……」

 黒崎が何も答えずに先に歩いて行った。急に素っ気ない人に戻り、面白くない気分になった。走るなと言われている以上、気をつけている。足に力を入れて歩き進んだ。ちっとも距離が縮まらないのは、向こうも歩くスピードを上げているからだ。

「黒崎さーーん」
「走らずに来い」
「待ってよ~~」
「待たない」
「さっきまでイチャついてたのに」
「それはそれだ。置いて行くぞ」
「迷子になるからね」
「真っ直ぐ歩いてこい。この先に休憩スポットがある」
「待ってよ~」

 マジで早足で進んで行った。ここは大声で呼びかけよう。発声練習の成果を披露した。

「黒崎さん!」
「……」
「ワガママ言うよ!そこで待ってて!」
「分かった」

 やっと立ち止まってくれたから、足早に歩き進んで追いついた。そして、腕にすがりつこうとすると、スルッとかわされた。さらに腕を伸ばしてもムダだった。

「ガキみたいなことをするなよ~」
「待ってやったぞ」

 その言い方に腹が立った。クソガキになったり、大人になったりと忙しい。だったらこっちもそうなってやる。

「オッサン!クソガキ!」
「なんだと」
「ふん。36歳!」
「20歳のガキが」
「ふふん。追いついてみろよ~」

 黒崎の腕を避けながら早足で歩き進んだ。伸びてくる腕を避けているうちに、休憩スポットの表示が見えてきた。

 その場所にたどり着くと、気持ちのいい風や波の音が聞こえてきた。鉄柵にガードされていた光景とは異なり、かなり開放的になっている。自転車を押している女の人や、自撮りしているグループがいた。

 さっきまでの小競り合いをやめて、大きく手を振って黒崎のことを呼んだ。喧嘩などなかったかのように、くっついて外の景色を眺めた。

 穏やかな水面には、太陽の光が反射している。対岸のビル群の下は賑やかだろう。ここから観る分には静かな光景だ。紺色、水色、白のコントラストの水面が風に揺れている。

「いい天気だね~」
「今日は気温が高めだ。撮るのか?」
「うん。ここからならスカイツリーがよく撮れるよ」

 さっきまでの歩道は鉄網が取り付けられていた。鉄網の間をかいくぐっても写真が撮れなかった。その代わりに構造を写した。

「さっき橋の構造を写していただろう」
「頼まれたからだよ。同じドイツ語クラスの山下から。橋の構造フェチなんだよ」
「えらく細かいな。パーツ好きか」
「そうみたい。ヘヴィメタルが好きな子でさー。そこから話が始まったんだよ。黒崎さんも人のことは言えないよ。エプロンのコレクターだもん」
「オフィスではオープンにしているぞ」
「ひゃひゃひゃ」
「何もおかしくない。キャンペーンのアイデアのためだ」
「絵を描くのが好きだもんね~」

 早瀬さんから聞いた話だ。休憩時間を利用して、黒崎がシャルロットのイラストを描いていたそうだ。あまりに真剣だったから、何か起きたのかと、オフィス内が静まり返っていたそうだ。そこで早瀬さんがデスクに近づくと、シャルロットが着ているエプロンの生地を何色にするかで迷っていた。それが顛末だった。
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