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キスが降ってこようとしている。このままでは仕返しができない。唇を吸い込んで、口の中にしまい込んやった。黒崎が苦笑している。キスの角度のままで。その色気に、声が出そうになった。しかし、乗ってやらない。たまにはオロオロして機嫌を取ってもらいたい。年々図々しくなっている自覚はある。
「今から誘惑するよ。黒崎さーーん」
「口を閉じてくれ」
「ふん。いいよ……」
「夏樹。許してくれ。今日は機嫌が悪いな。毎年そうだぞ」
「んん?」
「それでもいいとは思う。独占している気になる」
「ひょ……」
そっと唇に指先で触れられた。フニフニと押されて、軽くつままれた。繰り返されているうちに、お互いの空気が甘いものに変化した。
だんだんとジャレ合いに発展した時、いきなり黒崎が顔をあげた。視線の先にはテレビ画面がある。さっきと同じニュースが流れている。どこかの企業の役員が捕まったようだ。ビルの中に入って行く団体が映し出された。
「黒崎さん?どうしたの?」
「夏樹。起き上がれ」
「うん……」
(黒崎製菓の関係?森井物産か……。取引先かな?)
黒崎製菓グループには入っていない企業名だ。黒崎がスマホを手に取り、タップしている。何も言わないから、静かにニュースを見ることにした。
「『森井物産の森井広重代表取締役社長は会見で……役員逮捕に際して……世間をお騒がせすることになり、誠に申し訳ないと……捜査には全面的に協力して参ります。……発覚した横領事件と麻薬密輸の関連性を』……」
本社ビルだとテロップに出ている。入って行くのは捜査員のようだ。森井物産の役員が横領と麻薬密輸の疑いで逮捕されたそうだ。そこで思い出した。ここは悠人の母方のお祖父さんが経営している会社だ。一切行き来がないとは聞いているが、このニュースを聞けば、落ち着かないだろう。
コポコポ……。
黒崎が早瀬さんに電話をかけ始めた。その間に、テーブルに置いてある茶瓶にお湯を注いだ。こういう時こそ普段通りにしたい。緊迫した空気が流れている。
「……ニュースで流れたぞ。見たか?」
どうしても聞き耳を立ててしまう。その時、熱い湯のみに思い切り触れて声をあげた。そのせいで黒崎がこっちを向いた。途中で会話を止めて、こっちに手を伸ばしてきた。
「おい、大丈夫か」
「平気だよ。電話が途中だろ?」
「裕理、少し待ってくれ。……夏樹、洗面所に行くぞ」
「平気だよ~。はいはい、行ってくるからね」
大したことはないが、あえて洗面所へ行きたい。邪魔をしたくないからだ。
ジャーーー。
ほんのりと明るい洗面所に入り、サッと水で手を洗った。少し赤いぐらいで済んだ。俺の方がよっぽど慌てている。深呼吸を繰り返した。そこへ、部屋の方から音楽が聞こえてきた。
「電話だーー。誰かな?」
実家の家族か悠人からだろう。お土産のリクエストを待っているところだ。部屋に戻ると、すぐに黒崎から肩を引かれた。電話が掛かっていると言うと、早瀬さんとの通話を終えた。また掛けなおすと言って。
「黒崎さん?どうしたんだよ?」
「着信音が止まったな。誰からだ?」
「えーーとね。ああ、長谷部さんだ。どうしたのかな……」
「夏樹。俺に代わってくれ」
「あ……。かかってきたよ!」
二回目の着信だ。よっぽどの急ぎだろう。それにしても黒崎らしくない。俺が電話をしているところを見ている。この電話が関係あるのは間違いなさそうだ。不安な気持ちを抑え込んで電話をかけると、すぐに繋がった。第一声は落ち着いたものだったから安心した。
「……もしもし。悠人君のことを迎えに行っている途中よ。遠藤社長の家に連れて行って、一週間ぐらい預かることになるから」
「何があったんですか?」
「黒崎さんに代わってもらえない?」
「俺が聞きたいです!」
「……夏樹。まずは俺が聞く」
「……うん」
(仕方ないけど。俺だって一人前だよ。それだけのことが起きたのか……)
タップしてスピーカー設定を変えてくれた。向こうの音声が聞こえ始めた。固唾をのんで聞いていると、さっきの森井物産のことに関係があった。役員の一人が麻薬で捕まったことで、同じ会社の役員の悠人のお母さんも疑われて、その息子である悠人にも影響があるという話だった。報道陣からコメントを求められる可能性があり、対応策を考えたということだ。そして、麻薬に関係しているのかと詮議を受ける可能性もあるという。
「悠人君を遠藤社長宅にかくまいます。お向かいさんだから、ご迷惑を掛けるかもしれませんが……」
「分かりました。父に話を通します。今日から3日間は在宅していますので。報道陣が来た場合の……承知しています」
2人の会話が落ち着いたものになった。俺の方は落ち着かない。聞くだけしか出来ない。ここで話に割り込むことは出来ない。
「今から誘惑するよ。黒崎さーーん」
「口を閉じてくれ」
「ふん。いいよ……」
「夏樹。許してくれ。今日は機嫌が悪いな。毎年そうだぞ」
「んん?」
「それでもいいとは思う。独占している気になる」
「ひょ……」
そっと唇に指先で触れられた。フニフニと押されて、軽くつままれた。繰り返されているうちに、お互いの空気が甘いものに変化した。
だんだんとジャレ合いに発展した時、いきなり黒崎が顔をあげた。視線の先にはテレビ画面がある。さっきと同じニュースが流れている。どこかの企業の役員が捕まったようだ。ビルの中に入って行く団体が映し出された。
「黒崎さん?どうしたの?」
「夏樹。起き上がれ」
「うん……」
(黒崎製菓の関係?森井物産か……。取引先かな?)
黒崎製菓グループには入っていない企業名だ。黒崎がスマホを手に取り、タップしている。何も言わないから、静かにニュースを見ることにした。
「『森井物産の森井広重代表取締役社長は会見で……役員逮捕に際して……世間をお騒がせすることになり、誠に申し訳ないと……捜査には全面的に協力して参ります。……発覚した横領事件と麻薬密輸の関連性を』……」
本社ビルだとテロップに出ている。入って行くのは捜査員のようだ。森井物産の役員が横領と麻薬密輸の疑いで逮捕されたそうだ。そこで思い出した。ここは悠人の母方のお祖父さんが経営している会社だ。一切行き来がないとは聞いているが、このニュースを聞けば、落ち着かないだろう。
コポコポ……。
黒崎が早瀬さんに電話をかけ始めた。その間に、テーブルに置いてある茶瓶にお湯を注いだ。こういう時こそ普段通りにしたい。緊迫した空気が流れている。
「……ニュースで流れたぞ。見たか?」
どうしても聞き耳を立ててしまう。その時、熱い湯のみに思い切り触れて声をあげた。そのせいで黒崎がこっちを向いた。途中で会話を止めて、こっちに手を伸ばしてきた。
「おい、大丈夫か」
「平気だよ。電話が途中だろ?」
「裕理、少し待ってくれ。……夏樹、洗面所に行くぞ」
「平気だよ~。はいはい、行ってくるからね」
大したことはないが、あえて洗面所へ行きたい。邪魔をしたくないからだ。
ジャーーー。
ほんのりと明るい洗面所に入り、サッと水で手を洗った。少し赤いぐらいで済んだ。俺の方がよっぽど慌てている。深呼吸を繰り返した。そこへ、部屋の方から音楽が聞こえてきた。
「電話だーー。誰かな?」
実家の家族か悠人からだろう。お土産のリクエストを待っているところだ。部屋に戻ると、すぐに黒崎から肩を引かれた。電話が掛かっていると言うと、早瀬さんとの通話を終えた。また掛けなおすと言って。
「黒崎さん?どうしたんだよ?」
「着信音が止まったな。誰からだ?」
「えーーとね。ああ、長谷部さんだ。どうしたのかな……」
「夏樹。俺に代わってくれ」
「あ……。かかってきたよ!」
二回目の着信だ。よっぽどの急ぎだろう。それにしても黒崎らしくない。俺が電話をしているところを見ている。この電話が関係あるのは間違いなさそうだ。不安な気持ちを抑え込んで電話をかけると、すぐに繋がった。第一声は落ち着いたものだったから安心した。
「……もしもし。悠人君のことを迎えに行っている途中よ。遠藤社長の家に連れて行って、一週間ぐらい預かることになるから」
「何があったんですか?」
「黒崎さんに代わってもらえない?」
「俺が聞きたいです!」
「……夏樹。まずは俺が聞く」
「……うん」
(仕方ないけど。俺だって一人前だよ。それだけのことが起きたのか……)
タップしてスピーカー設定を変えてくれた。向こうの音声が聞こえ始めた。固唾をのんで聞いていると、さっきの森井物産のことに関係があった。役員の一人が麻薬で捕まったことで、同じ会社の役員の悠人のお母さんも疑われて、その息子である悠人にも影響があるという話だった。報道陣からコメントを求められる可能性があり、対応策を考えたということだ。そして、麻薬に関係しているのかと詮議を受ける可能性もあるという。
「悠人君を遠藤社長宅にかくまいます。お向かいさんだから、ご迷惑を掛けるかもしれませんが……」
「分かりました。父に話を通します。今日から3日間は在宅していますので。報道陣が来た場合の……承知しています」
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