白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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7-3(黒崎視点)

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 13時。

 今、オフィスにいる。年始の挨拶回りを受けて、このフロアは活気にあふれている。ふと、早瀬のことが気になり、視界の中に探した。ちょうど秘書の林田と打ち合わせだった。今月のワタベ電機との会食の件だろう。

 早瀬が渡部社長から気に入られたため、会食の際には必ず早瀬を指名している。それにはきっかけがある。ワタベ電機との会食の際に、秘書の経験を生かして、深川さんの伴をしたことがある。その会食が始まった直後のことだ。早瀬が料亭の仲居に声をかけた。酒の種類を変えるようにと。注文したものとは異なっていたからだ。

 普段なら気づかないふりをして飲むが、かなり度数がキツいものだった。深川さんは酒に弱い。失敗するわけにはいかない。その次の日に、渡部社長から直々に早瀬に連絡が入った。君のことが気に入ったと、ストレートに褒められた。そして、俺にも連絡が入った。早瀬と交渉のテーブルに着きたいのだと。そこで俺は早瀬のケツを叩いた。グダグダ言わずにやれ。社運がかかっている。数々の恋愛話を悠人に暴露すると脅すと、素直に頷いてくれた。

 部長代理へ昇進する手柄として申し分なかった。現在は俺と2人で会食に出ている。渡部社長からの依頼だからだ。会を重ねるごとに話しやすい人物だと知ったと、早瀬が話していた。 

(そろそろ連絡が取れる……)

 ちょうど来客の波が途切れた。予定では、10分空く。今のうちに夏樹に連絡を入れるとしよう。さっそく自分のデスクに戻り、夏樹に電話をかけた。すると、普段通りの様子の声が聞こえてきたから安心した。ここ最近は、夏樹は元気だ。しかし、そう見せているのだろう。心の中はそうでは無いはずだ。

「もしもし。黒崎さん。お疲れ様。一休みしているの?」
「ああ。ちょうど来客が途切れた。ポトフを届けたのか?」
「まだなんだ。悠人から電話が入って、これから御園クリニックに行くんだって。帰ってきた後、届けるよ」
「そうか。早瀬を早退させてやる」
「悠人が気を遣わないかな?俺としては嬉しいけど。喜ぶだろうし」
「また後でかける」
「うん。じゃあね!」

 電話を終えた。さっそく早瀨の姿を探した。ちょうどデスクに戻ってきたところだった。俺のことを見て、何かあったのかという顔をしている。

「夏樹から連絡が入った。悠人君が熱を出して病院へ行く」
「さっき悠人から聞いたよ。定時で帰る。任せてもいいかな?」
「今すぐに出ろ。俺がやっておく」
「圭一さんに負担がかかる。家を留守にするのは夏樹君に悪い。心配だろう?」
「それだけが理由か?人に任せる度量が必要だ。これからは特にだ」
「耳に痛いよ」
「俺も同じだ。今はマシになった。知っているだろう?俺も親父から指摘されたことを」
「覚えているよ。ここへ移る手前だ。”今の仕事のスタイルではパンクする”と。先へ進むときは、怖くなかったのか?」
「怖かった。今のお前の状況だった。一緒にやってきただろう?だから進んで来れた。夏樹のことを守るためもある。自分は力不足だと思っているだろう?そんなことはない。自信をつけてくれ」
「なかなか前に進まない……」
「俺の方も親父の力を借りている」
「言い切ったね。あんたのことが好きだよ」
「ありがとう。ん?来客か?」
「R&W社の高野君だ。会ってくるよ。いや……」

 早瀬がオフィスの中を見回した。外回りの社員が帰ってきた後だ。オフィス内は落ち着きを取り戻している。帰るなら今だ。俺に任せておけば良い。そう思った。すると、早瀬が振り向いた。決めたようだ。

「午後からの予定を頼んでもいいかな?」
「もちろんだ。帰るんだろう?」
「ああ、そうする。会議資料は共有フォルダに入っている。あとは……」
「俺なら全てお前に丸投げして、さっさと帰るぞ。仕返ししておけ。倍返ししてやる」
「恐ろしいなあ。退散するよ。ありがとう。高野君によろしく」
「ああ。任せておけ」

 早瀬が帰り支度を済ませた。俺の方は高野に会い、年始の挨拶を済ませた。すると、早瀬がオフィスを出る際に高野と一緒になった。今回の件を知っている。田中屋の紙袋を渡している。悠人への土産だろう。二人が帰っていく姿を見届けた後、秘書から声をかけられて、来客対応に入った。
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