白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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7-4(夏樹視点)

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 14時。

 キッチンに入り、ポトフを用意した。これから遠藤さんの家に行くためだ。さっき、黒崎から連絡が入った。年始の挨拶回りが一段落つき、これからまた来客対応に入るという。早瀬さんは早退して、悠人の元に行くそうだ。風邪を引いたと連絡を受けたからだ。こういう時は助け合いたい。そういうわけで、黒崎が、今日は少し帰りが遅くなるかも知れないと話していた。しかし、彼のことだから、さっと用事を済ませて、いつもの時間に帰ってきてくれるだろう。

 するとその時だ。着信が鳴った。スマホを見ると、母からだった。

「もしもし。お母さん。どうしたの?」
「お父さんがそっちに寄ろうかって話していたんだけど。どう?」
「喜んで。こっちのお義父さんにも伝えるよ。久しぶりに会いたそうにしていたからさ」
「悠人君が風邪を引いたそうね?大丈夫そう?」
「熱は高くないみたい。今日はポトフを持って行くよ」
「あんた、変なことを考えていないでしょうね?」
「え?」
「週刊誌の記者さんのことよ。暴力沙汰はいけないわよ?お父さんがそれを心配していたのよ」
「うん……」

 母の言うとおりだ。門の前にいる記者達を見て、苛立つ気持ちが収まらない。窓から見かける度に、万理の事件の時のことを思い出している。仕事で会う記者さん達はみんな親切だ。部署が変わると雰囲気も変わるということなのだろうか。

「冷静になってね。悠人君のことはみんなが守るはず。あんたもその中の一人なの。あんたが暴力沙汰を起こしたら、悠人君までバンドの仕事が無くなるかも知れないわよ?今回のこともクローズアップされると思う。いい?」
「うん。分かっているよ」

 記者達のことを考えただけで、手がカタカタと揺れた。怒りからだ。俺は何を考えているのだろう。ここにいるのは、あの時の記者ではないだろう。

「万理も心配しているのよ。お兄ちゃんの怒りの矛先が外に向かわなかったら良いのにって」
「それを言われると心が痛いよ。お母さん。苦しいよ」
「深呼吸して。吸ってーー、吐いてーー。吸ってーー、吐いてーー」
「すーーーー、はーーーー、すーーー、はーーー」

 母の言うとおりに深呼吸をした。すると、ほんの少しだけ冷静さが戻ってきた。

 時計の針を眺めた。母と話し始めてから5分経った。でも、やけに長く感じた。今朝からそんな感覚だ。時間が経つのが遅い。こういう日は何かある予感がする。その苦しい胸の内を母に打ち明けると、電話口からは、深呼吸してという言葉が返ってきた。

「深呼吸よ。夏樹」
「うん。少し楽になった。んん?」
「どうしたの?」
「外が騒がしいんだ。悠人が帰ってきたのかな?」

 電話で話しながら、窓から外を覗いた。しかし、よく見えない。今度は玄関を開けて見てみると、佳代子さんの周りに記者らしき人達がいるのが分かった。

「まずい!取り囲まれてる!」

 男の一人が佳代子さんの肩を引いている。強引なやり方だ。そして、佳代子さんが抱きしめているのは悠人だった。見ているだけなんて出来るわけがない。背中に汗が流れた。そして俺は、電話の声に制止されながらも、門まで走って行った。
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