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そのまま綺麗な姿勢を保って、ヴィジブルレイの記事を検索した。楽曲がラインクインした記事を見つけて読んだ。そこには、佐久弥のインタビューや、俺たちのごく普通の日常生活の話が掲載されている。担当したライターの感想欄には、俺たちにはオーラがあるのに、ごく普通の子だと書かれていた。それを読んだ悠人がズッコケた光景を思い出して、自然と笑いが込み上げてきた。
「学食で見たんだよ。悠人がマジで椅子から転げ落ちたんだ。チキン南蛮のソースがシャツについて、げえええって……」
「染みにならなかったのか?」
「大丈夫だったよ。応急処置をしたからさ。大学内にコインランドリーがあるんだよ。すぐそばに。そこでパッパッとやったんだ」
「そうか。お前の特技が役立ったじゃないか」
実家に住んでいる間、兄弟3人に家事が叩きこまれた。いつ一人暮らしをしてもいいように。突然、親が亡くなるかもしれないからだ。基本的なことが身に付いている分、早く落ち着けるはずだと言っていた。
「伊吹お兄ちゃんが得意なんだ。料理も」
「桜木君は手を使わない方がいいからな。仕事のみだ」
「うん。お兄ちゃんがありがとうーーって、お母さんにお礼を言っていたよ。これで聡太郎に威張れるって。尻に敷かれたままなんだよ~」
次々と画面をスクロールさせていくと、ミユー企画の記事が出てきた。それなのに、悠人の不安げな顔が浮かばなくなった。そして、ミユー企画から出ているミルティーのペンケースを持って、悠人が恥ずかしそうにしている姿が浮かんだ。女の子向けのピンクのデザインなのにと、ブーブー文句を言いながらも笑っている顔も。お母さんがデザインした新作を渡されたからだ。
「どうしてかな?気分が変わったよ」
「姿勢がいいからだ。これからもそうしろ。今度は俯いてみろ」
「うん?んんーー」
言われた通りに俯いてみた。床のラグしか見えないのに、ネガティブな表情の悠人が浮かんできた。さっきまで笑っていたのに。不思議に思ったとき、黒崎からスマホを取られて、背中を軽く叩かれた。
「そういう時には見るな。背筋を戻してみろ。……固くなっているぞ」
「あ、ホントだ……。伸ばしたから?」
「気持ちが沈んでいたからだ。ほんの一瞬でも。肩を回してみろ」
「ああ、回しづらいよー」
姿勢を戻して伸ばした後、肩が凝っていることに気づいた。さっきまで楽だったのに。猫背の方がダラっとできるのに?発声練習のときはリラックスしている。
「歌う時は楽なんだよ。伸ばしていても」
「伸ばし過ぎていないからだ。適度に力が抜けている。歌うことが楽しいからだろう。さっきは沈み込んでいたぞ。悩むために悩むな」
「スケベじじいだって思っていたのに。いいことも考えているんだねー。ああっ」
しまった。口がすべってしまった。頬を膨らませて、つねられないようにした。額も左手でカバーした。唇を閉じているから引っ張られないだろう。この変な姿を見て、黒崎が笑い声を立てた。
「その調子だ。長谷部さんから電話が入る頃だ。悠人君のことが聞けるだろう」
「うん……。ありがとう」
それに対しての返事はなかった。ポンポンと頭を叩かれたのみだ。そして、ピンと背筋を伸ばしたままでココアを飲みながら、長谷部さんからの連絡を待った。
「学食で見たんだよ。悠人がマジで椅子から転げ落ちたんだ。チキン南蛮のソースがシャツについて、げえええって……」
「染みにならなかったのか?」
「大丈夫だったよ。応急処置をしたからさ。大学内にコインランドリーがあるんだよ。すぐそばに。そこでパッパッとやったんだ」
「そうか。お前の特技が役立ったじゃないか」
実家に住んでいる間、兄弟3人に家事が叩きこまれた。いつ一人暮らしをしてもいいように。突然、親が亡くなるかもしれないからだ。基本的なことが身に付いている分、早く落ち着けるはずだと言っていた。
「伊吹お兄ちゃんが得意なんだ。料理も」
「桜木君は手を使わない方がいいからな。仕事のみだ」
「うん。お兄ちゃんがありがとうーーって、お母さんにお礼を言っていたよ。これで聡太郎に威張れるって。尻に敷かれたままなんだよ~」
次々と画面をスクロールさせていくと、ミユー企画の記事が出てきた。それなのに、悠人の不安げな顔が浮かばなくなった。そして、ミユー企画から出ているミルティーのペンケースを持って、悠人が恥ずかしそうにしている姿が浮かんだ。女の子向けのピンクのデザインなのにと、ブーブー文句を言いながらも笑っている顔も。お母さんがデザインした新作を渡されたからだ。
「どうしてかな?気分が変わったよ」
「姿勢がいいからだ。これからもそうしろ。今度は俯いてみろ」
「うん?んんーー」
言われた通りに俯いてみた。床のラグしか見えないのに、ネガティブな表情の悠人が浮かんできた。さっきまで笑っていたのに。不思議に思ったとき、黒崎からスマホを取られて、背中を軽く叩かれた。
「そういう時には見るな。背筋を戻してみろ。……固くなっているぞ」
「あ、ホントだ……。伸ばしたから?」
「気持ちが沈んでいたからだ。ほんの一瞬でも。肩を回してみろ」
「ああ、回しづらいよー」
姿勢を戻して伸ばした後、肩が凝っていることに気づいた。さっきまで楽だったのに。猫背の方がダラっとできるのに?発声練習のときはリラックスしている。
「歌う時は楽なんだよ。伸ばしていても」
「伸ばし過ぎていないからだ。適度に力が抜けている。歌うことが楽しいからだろう。さっきは沈み込んでいたぞ。悩むために悩むな」
「スケベじじいだって思っていたのに。いいことも考えているんだねー。ああっ」
しまった。口がすべってしまった。頬を膨らませて、つねられないようにした。額も左手でカバーした。唇を閉じているから引っ張られないだろう。この変な姿を見て、黒崎が笑い声を立てた。
「その調子だ。長谷部さんから電話が入る頃だ。悠人君のことが聞けるだろう」
「うん……。ありがとう」
それに対しての返事はなかった。ポンポンと頭を叩かれたのみだ。そして、ピンと背筋を伸ばしたままでココアを飲みながら、長谷部さんからの連絡を待った。
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