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11-1 新しい家族
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3月13日、午前5時。
朝早く、聖加世病院の7階病棟に到着した。ここは一貴さんの病室だ。彼がオフィスの階段から転び、足を骨折してしまった。昨晩搬送されたという連絡を受け、入院手続きを手伝ったところだ。一貴さんとしては、実家のお母さんとは関わりたくない。今回のことは伏せておくそうだ。黒崎が一貴さんの背中を支えて起こした後、話しかけた。
「恋人はいないのか?」
「いないよ。私生活が崩壊した。今でも同じだ」
「もう落ち着いただろうが。44歳だ、そろそろ……」
「君からそういう言葉が出てくるのか……」
俺も一緒に笑った。会った時には顔色が悪かったが、少しずつ元に戻ってきた。痛み止めが効いているそうだ。
「はははー。そう心配しないでくれ。骨はくっつくぞー?ちょうどいい。休んでおける。会社では有能なスタッフに囲まれているからな」
「ご飯とか持って行くよ。ホテルで過ごすって思っているって?便利だろうけど……」
「どうせ家じゃ寝るだけだ。食事は有難いよ。結局、まだ家にお邪魔できていない。玄関先で挨拶しただけだ。お父さんがいるだろう。何を話せばいいのか困る」
「話さなくても問題ない。口数の少ない人だ。……ここから教会の屋根が見えるぞ」
「わりと近くにあるんだね~」
今日は金曜日だから、礼拝が行われるだろう。帰るときに寄ろうね。そう話していると、一貴さんがタブレット画面を差し出してきた。5月に行われるライブ告知と、新曲プロモーションの記事が掲載されていて、ライブDVD発売の紹介も出ていた。
「おめでとう!」
「ありがとう。悠人をモデルに起用するんだろ?」
「ああ。受けてもらえる方向だ。時期は来年だ。……夏樹君」
「なに?」
「マスコミの取材対応のことだ。よく出来ていたぞ……」
「一貴。まだゆっくりしていろ」
「褒めているんだぞ?お父さんから聞いた。気持ちを抑えて、よくやったと」
「これで一つのハードルをクリアできたよ」
早瀬さんのお父さんが動き、森井物産と悠人の記事を止めることができた。しかし、圧力をかけても取材が止まない。この間、たまたま門の前にいたときに取材にあった。心を乱すことなく対応したが、俺の黒崎製菓グループとのつながりと、養子になった経緯を質問された。下品な内容だった。腹が立った時に、お義父さんが出てきた。
(……お引き取りください)
(……黒崎製菓さんとしてのコメントを)
(……夏樹は私の息子です。父親として申し上げております。夏樹、家に入りなさい)
(……でも)
(……お父さんに任せておきなさい)
(……はい)
あの後、全く記者が来なくなった。お義父さんのことを”カッコいい!”と言うと、マジで照れていた。黒崎製菓の社長の顔ではなかった。小学生の時に守ってくれた、実家の父のように感じて懐かしくなった。
「今のバンドは10月末で終了か。来年から何か始めるのか?」
「うん。Dear Dropsとしてスタートするよ。来年の3月13日だよ。希望通りにはいかないけど。何かスタートさせたらOK」
「プラセルコーポレーションとしても応援する。……晴海君か?」
ガタ……。ザーーー。
ドアの向こうに人影がある。黒崎が開くと、やっぱり晴海さんだった。さらにお義父さんも立っていた。コソコソ言い合いをしているから、黒崎が叱った。人のことは言えないのに。
一貴さんとしては、お義父さんは他人も同然だった。自分が経営者として活躍するようになり、同じ立場としての見方に変わったそうだ。やっと言い合いをやめた二人が、一貴さんのそばに来た。そして、お義父さんが話しかけた。
「……どうだ。痛むか?」
「今は治まっています」
「会社は専務に任せられるだろう?ここで休んでおきなさい。その……、あの……、うちに……」
「お父さん?……晴海君。何かあったのか?」
「いや、それはない……」
「親父、まさか恋人を作ったのか?」
黒崎が本気で言った。眉をひそめながら。いい加減にしろ、そんな顔をしている。お義父さんが苦笑して首を振った。そして、すまないと謝ったからびっくりした。何も悪くないのに。何か昔にあったのだろうか。そして、お義父さんが言った。
「あの……、うちで療養しないか?部屋はある。夏樹ちゃんがいるから退屈しない。……どうだ?」
「お父さん……、俺は遠慮する」
「うちに来なさい!さっそく部屋を用意させる。電話をかけてくる!山崎さんに頼んでおく……」
意を決して言ったのだろう。お義父さんが顔を赤くして部屋を出て行った。ここに残ったのは、しんみりした空気に包まれた4人だ。
晴海さんが静寂を破ってくれたから良かった。遊びに行くと言って笑ったからだ。今度は黒崎が驚いて言葉を失っていた。そんな光景を眺めて胸が熱くなった。これでうちに家族が増えた。
朝早く、聖加世病院の7階病棟に到着した。ここは一貴さんの病室だ。彼がオフィスの階段から転び、足を骨折してしまった。昨晩搬送されたという連絡を受け、入院手続きを手伝ったところだ。一貴さんとしては、実家のお母さんとは関わりたくない。今回のことは伏せておくそうだ。黒崎が一貴さんの背中を支えて起こした後、話しかけた。
「恋人はいないのか?」
「いないよ。私生活が崩壊した。今でも同じだ」
「もう落ち着いただろうが。44歳だ、そろそろ……」
「君からそういう言葉が出てくるのか……」
俺も一緒に笑った。会った時には顔色が悪かったが、少しずつ元に戻ってきた。痛み止めが効いているそうだ。
「はははー。そう心配しないでくれ。骨はくっつくぞー?ちょうどいい。休んでおける。会社では有能なスタッフに囲まれているからな」
「ご飯とか持って行くよ。ホテルで過ごすって思っているって?便利だろうけど……」
「どうせ家じゃ寝るだけだ。食事は有難いよ。結局、まだ家にお邪魔できていない。玄関先で挨拶しただけだ。お父さんがいるだろう。何を話せばいいのか困る」
「話さなくても問題ない。口数の少ない人だ。……ここから教会の屋根が見えるぞ」
「わりと近くにあるんだね~」
今日は金曜日だから、礼拝が行われるだろう。帰るときに寄ろうね。そう話していると、一貴さんがタブレット画面を差し出してきた。5月に行われるライブ告知と、新曲プロモーションの記事が掲載されていて、ライブDVD発売の紹介も出ていた。
「おめでとう!」
「ありがとう。悠人をモデルに起用するんだろ?」
「ああ。受けてもらえる方向だ。時期は来年だ。……夏樹君」
「なに?」
「マスコミの取材対応のことだ。よく出来ていたぞ……」
「一貴。まだゆっくりしていろ」
「褒めているんだぞ?お父さんから聞いた。気持ちを抑えて、よくやったと」
「これで一つのハードルをクリアできたよ」
早瀬さんのお父さんが動き、森井物産と悠人の記事を止めることができた。しかし、圧力をかけても取材が止まない。この間、たまたま門の前にいたときに取材にあった。心を乱すことなく対応したが、俺の黒崎製菓グループとのつながりと、養子になった経緯を質問された。下品な内容だった。腹が立った時に、お義父さんが出てきた。
(……お引き取りください)
(……黒崎製菓さんとしてのコメントを)
(……夏樹は私の息子です。父親として申し上げております。夏樹、家に入りなさい)
(……でも)
(……お父さんに任せておきなさい)
(……はい)
あの後、全く記者が来なくなった。お義父さんのことを”カッコいい!”と言うと、マジで照れていた。黒崎製菓の社長の顔ではなかった。小学生の時に守ってくれた、実家の父のように感じて懐かしくなった。
「今のバンドは10月末で終了か。来年から何か始めるのか?」
「うん。Dear Dropsとしてスタートするよ。来年の3月13日だよ。希望通りにはいかないけど。何かスタートさせたらOK」
「プラセルコーポレーションとしても応援する。……晴海君か?」
ガタ……。ザーーー。
ドアの向こうに人影がある。黒崎が開くと、やっぱり晴海さんだった。さらにお義父さんも立っていた。コソコソ言い合いをしているから、黒崎が叱った。人のことは言えないのに。
一貴さんとしては、お義父さんは他人も同然だった。自分が経営者として活躍するようになり、同じ立場としての見方に変わったそうだ。やっと言い合いをやめた二人が、一貴さんのそばに来た。そして、お義父さんが話しかけた。
「……どうだ。痛むか?」
「今は治まっています」
「会社は専務に任せられるだろう?ここで休んでおきなさい。その……、あの……、うちに……」
「お父さん?……晴海君。何かあったのか?」
「いや、それはない……」
「親父、まさか恋人を作ったのか?」
黒崎が本気で言った。眉をひそめながら。いい加減にしろ、そんな顔をしている。お義父さんが苦笑して首を振った。そして、すまないと謝ったからびっくりした。何も悪くないのに。何か昔にあったのだろうか。そして、お義父さんが言った。
「あの……、うちで療養しないか?部屋はある。夏樹ちゃんがいるから退屈しない。……どうだ?」
「お父さん……、俺は遠慮する」
「うちに来なさい!さっそく部屋を用意させる。電話をかけてくる!山崎さんに頼んでおく……」
意を決して言ったのだろう。お義父さんが顔を赤くして部屋を出て行った。ここに残ったのは、しんみりした空気に包まれた4人だ。
晴海さんが静寂を破ってくれたから良かった。遊びに行くと言って笑ったからだ。今度は黒崎が驚いて言葉を失っていた。そんな光景を眺めて胸が熱くなった。これでうちに家族が増えた。
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