白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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14-4(黒崎視点)

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 午前11時。
 
 黒崎製菓の大会議では、今年春の新入社員の研修が行われている。進行役は広報部が担当し、この時間は営業企画部が講義を担当する。冒頭の挨拶をするために壇上に上がった。

「常務取締役兼営業企画部部長の黒崎です。……黒崎製菓社員としてのモチベーション維持、基本の考え方、営業企画の分野にとらわれずに進めて参ります。講師は早瀬部長代理が行います……」

 壇上を下がると、一斉に礼が行われた。それに対して返した後、ステージを降りた。この後の講義を早瀬が担当する。それまでの間に、午後のスケジュールを話しておこう。若干の予定変更がある。

「午後のミーティングに出席する。来週の出張は変更ないだろう?」
「さっき確定したよ。変更なしだ。今月末の出張には、夏樹君はどうする?」
「親父の家で泊まらせる。普段通りがいいだろう。悠人君に泊まりに来てもらうか」
「俺も行っていいか?一人は寂しい」
「もちろん歓迎する」
「ははは。冗談だよ。悠人のことなら気遣いなく。泊まりに行かせるのは構わない。社長がよければ」
「親父ならOKだ。悠人君のことを可愛がっている。もう話してあったな?……一貴が親父の家で暮らしている。モデルの件を話せる機会になる」

 一貴が悠人のことをプラセルコーポレーションのブランド”MIDSHIP”のモデルに起用したいと言い出した。まだ本人には詳しいことを話していない。俺の方から先に早瀬に話したところだ。

「そうだね。あの子のいいところを引き出してもらいたい。普段の姿を見て、よりよい方向でイメージを膨らませてもらって……。デザインも……。悠人の両親にも喜んでもらいたい」
「おまえは保護者か?」
「圭一さんには指摘されたくない。大学へ行っている間の、最低4回のライン。何を食べたのか?どんな授業を受けた?教授から誘いを受けられていないか?嫌味を向けてきた相手の名前を教えろ。その他にもあっただろ?……ああ、あれは結婚前か」
「当然のことだ。夏樹は俺のものだ」

 耳に痛いとは思わない。夏樹のことで知らないことを作りたくない。どんな相手がいるのか分からない。黒崎家という仕組みと対外的なことが理由だ。そのうちの一番の理由は、夏樹への恋情を防ぐためだ。好きになるのは自由だ。夏樹のことを守るならば構わないが、いつ変貌するのか分からない。警戒しておく。

(恋心を持たれたくない……)

 夏樹には俺のものだと口にしている。恋心を寄せられたくないことは黙っておこう。何があったのかと気にするからだ。

 それにしても、一貴から提案された内容が引っかかる。怪しいものではない。悠人と同じく、夏樹をブランドの広告モデルに起用したいというものだ。

 日本の着物をイメージした構想があるそうだ。既存のラインに乗せる計画もあるという。それならば、今のいい波に乗っている間に出来る。夏樹にとっては、チャンスになるだろうと持ち掛けられた。これから活動の幅を広げていくならば。

「夏樹にも話が来ている。一貴からだ。IKUへ話を持って行く段階だそうだ」
「離れる時間が増えると危ないな。信頼できる人に囲まれていても」
「国内だけならいいが。そう大きくはならないか……。そこまでうまい話はない」
「シャルロットキッチンにも参加するからなあ。圭一さんが活動を広げているじゃないか」
「できればそうしたくない。矛盾している」

 閉じ込めたい欲求が残っている。こういう気分の時には、夏樹の姿を見ておこう。安心できる。昼休憩の間に、ビデオ通話をかけるとしよう。

「……早瀬代理、講義の準備をお願いします」
「……ああ。行ってきます」

 早瀬が軽く手を振って答えた。こういう場に居るというのに、常に考えているのは、あの子のことばかりだ。
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