白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 あくまでも理想という夢だ。現実の中ですべきことをした上での、ご褒美だ。やっと理解できた。ピアノ演奏を仕事にしていれば、理想とは違う世界があっただろう。

 当時の教師役と向かい合い、この先に進めと告げられた。これまでやって来たことの答えが渡された。そこで、喜びの感情が生まれた。副社長や代表取締役への道を望んではいない。この人に認められたかっただけだ。

「本気で認めてもらえたのか?」
「その通りだよ。よくやった。再来年なら、僕は70歳で社長になる。73歳ぐらいで引退するよ。……その後は君に任せた。41歳の代表取締役だ」
「何か裏があるのか?」
「あるわけがない。素直に喜んで欲しい。社長は素直じゃないから、僕から君に伝えた」
「そうか……」

 ため息をつき、椅子の背に体を預けた。そして、すぐに姿勢を伸ばした。ほんの一瞬の休息だ。この話が出た以上、周りが進み始めている。

「業務の引継ぎは、いつからやる?社内では黙っておくだろう?」
「君がポストに就くことは周知されている。今更だ。……来年の年明けからやろう。顔つなぎ、業務全般。役員との兼任か、副社長のみかは考えている。……早瀬君のポストもだ」
「取締役会に迎えるだろう?役員を兼任させる」
「もちろん方針は変わりない。将来的には、R&W社の代表を考えている。グループの重要地点だ」
「なるほど。裕理の方が代表取締役に向いている。この黒崎製菓でも」
「それは承知の上だ。それぞれを担ってもらいたい。僕としては黒崎製菓でやってもらいたい。圭一君の手綱を引く人材が不足している。……本人へは、これから話しておく。断られる可能性は高い」

 早瀬はトップに立ちたがっていない。サポート役として引き立つのだと言っている。そういう人間の方が上に立てる。下も付いてくる。今度は夏樹と二葉の件に移った。二葉は来月から、ここでバイトを始める。第一志望のO大の経済学部へ入学できた。

「二葉さんのことは予定通りだ。秘書として受け入れる。ただし早瀬君ではなくて、僕の秘書にする」
「当初のプランに戻った理由は?タヌキ親父連中から、引き離す話だったぞ」
「早瀬君も君も多忙になるからだ。分担して教師をやろう。彼女にとっても良いはずだ。……最後に、夏樹君のことだ。ここで勤務させないか?」
「まだ無理だ。メニュー開発のみで様子をみる。歌手が本業だ」

 月に2回でもいい。何らかの名目で勤務させたいという話だ。ステージに立てなくなった時に、別の道を歩かせたい。そこからスタートするのではなく、すでに道が出来ている状況にしておきたい。しかし、まだ体力の方を心配している。

「相変わらず、頑固なことだ」
「あんたから習ったことだ。”NO”だ」
「はははは」
 
 部屋を出る際には、取り寄せたという”出汁セット”を持たされた。夏樹へプレゼントだ。また遊びに行くよと言いながら笑っている姿を見て、タヌキ親父には変わりないと実感した。
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