白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
128 / 265

15-10(黒崎視点)

しおりを挟む
 23時。

 夏樹を寝室へ戻らせた後も、一貴との通話を続けた。今回の件とは関係のない雑談を続けた。高ぶった気持ちのままでは、腹をわった話ができない。そして、本題に戻ろうとした。悠人への気持ちが恋愛感情がどうかだ。それを聞きたい。一貴は相手への想いを収集するだけで、相手に何かをしようとはしない男だった。だが、悠人も夏樹も怖がっているなら、今回は違うのかも知れない。さっき、早瀬から叱られたと言っていた。悠人への誘いが多かったからだろう。ますます放っておけない。

「……一貴。そろそろ本音を話さないか?大ごとにはなっていない。本当にそうなりかねないぞ?お前はそんな男じゃないはずだ。……今夜はやめておくか」

 ひと晩置こう。一旦通話を終えた後、早瀬へ電話を掛けようとして手を止めた。悠人と話している頃だろう。明日にした方がいい。

 なぜ悠人に執着したのか?いい子ではある。礼儀正しく心優しい。父も俺も可愛がっている。パートナーである早瀬の存在を知った後も誘い続けたことには、違和感しかない。

 一貴が想いを寄せる対象は、一人ではない。同時に複数を想うことができる。抱くことも触れることも出来なくてもだ。まるで、コレクターケースに保存するかのように。

 椅子から立ちあがると、一貴から再び着信が入った。今度こそ正直に話すと言っている。普段通りの声色だが、話し方が変わった。先ほどは子供っぽかったが、今の声は普段通りの兄貴の一貴のものだ。

「話す気になったか。何時になっても構わない」
「悠人君に執着したのは、早瀬君の母親のことが理由だ。実母が居ることは知っているか?」
「知っている。ここで話題が出るとは予想外だ」
「お父さんから聞いたことはあるか?君のお母さん……、真琴さんと再婚する前だ。銀座のクラブで働いていた女性の面倒を見ていた話だ」
「ここに戻った後で話を聞いた。歌手だろう?早瀬の実母のことだな」

 早瀬の実母の名前は早瀬菜々子さんという。22歳当時に早瀬家を嫌って家を出た後、銀座のクラブで働き始めた。ある男との間に子供ができたが、その相手が出て行った。子供は認知されなかった。未婚のままで出産した。その子供が早瀬だ。

 出産後にクラブに復帰した後、早瀬が肺炎を罹った。その店の常連である父のことを、彼女が担当していた。それがきっかけで、彼女と裕理の面倒をみるようになった。父親に近い立場での相談役としての関係だ。経済面では自立しており、金銭的な援助は一切受けていなかったと聞いている。

「圭一が産まれた後、お父さんが俺とおふくろの家に訪ねてくる機会が増えたそうだ。俺のことが気に入ったからだ。おふくろが言っていることだ、本当かどうかは分からない。……せっかくこちらに視線が向いたのに、菜々子さんが現れたことで、また足が遠のいたそうだ。奪われたと話していた」
「筋違いだ。お前は理解しているだろう?」
「もちろん理解している。子供時代は恨んでいた。しかないだろう?刷り込みのようなものだ。母親の話が全てだった。……お父さんが、菜々子さんの息子が優秀だと話していたそうだ。ぽろっと口から出た程度だろう。いずれは黒崎家に迎えたいと言ったそうだ。早瀬家の姉夫婦の養子になった後もだ」
「それも親父から聞いてある。菜々子さんが亡くなった後、何度か早瀬家を訪ねて行ったそうだ。姉夫婦に引き取られた後のことが気になったそうだ。近所の子と走り回っている姿を見て、うちの養子にするのを諦めたと話していたぞ……」
「お父さんが訪ねてくるように、必死で勉強した。黒崎家の集まりで話題が出るように。おふくろから、そう言い聞かされ続けた。……プラセルを大きくさせたのは、おふくろに認めてもらいたかったからだ」

 見返したかったのか?その問いには否定が返ってきた。寂しかったからだとストレートに答えが返ってきた。

「大きくなった企業を動かしていった。でも、虚しい思いだけが残った。多忙さから私生活が崩れて、俺の周りには誰も居ないことに気づいた……。ここにはみんながいるから、寂しさが和らいだ」
「悠人君には繋がらない話だ。早瀬への思いがあるのか?それとも、早瀬から奪い取りたいのか?悠人君のことを」
「いいや違う。初めて会った時は、普通に可愛いと思った。モデル起用の件は話題性があるからだ。……2回目に会った時、俺と似ている子だと思った。次に話した時は、昔の俺が居るみたいだった。……この子を輝かせたいと思った。手を出したいとは、最初から思っていない。傷つけるつもりもない。見ているだけでいい」
「接し方を間違えているぞ。普通に話をしろ。友人としてだ」
「傷つけるつもりはない……」
「心の方には見えない傷ができる」

 一貴はそれを理解しているはずだが、良かれと判断して衝動的に行動に移す。これまでの会話の端々で感じたことだ。夏樹との初対面の際に、彼の考え方を試す目的で嫌味を投げかけたように。

「お父さんも同じだと思わないか?気に入った相手を、手元におきたい人だ。何人の相手がいた?自分からは縁を切らずにいる。援助も続けている」
「半分は当たっている。全て同じとはいえない」
「どこがだ?俺と同じく収集癖がある。圭一も同じだろう」
「俺のことはいい。今はお前の話だ」
「虚しい。何も残らなかった……」

 一貴は疲れ切っている。ここまで気持ちを乱す男ではない。直接話に行ける距離に住んでいる。今から出向こうか。一人にさせておくべきか。励ませば逆効果だ。雑談はできても、踏み込んだことが言えない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...