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この黒崎家で育つ間は、相手に対して自分の意思を伝えるのみだった。相手の答えなど求めなかった。跡取り息子の一人として、拓海兄さんを支える役目を担う以上、一族の顔色をうかがうような息子は必要ないという考え方だ。
一貴に対して、何を話せばいいのか分からない。こういう自分が虚しいと感じた。一貴と同じだ。ただし、俺には夏樹という存在がいる。
「一貴。実家では言いなりだったのか?母親の元で」
「もちろんだ。それを当たり前だと思っていた」
「この家はつらいのか?昔を思い出すのか?」
晴海兄さんのように距離を取らせるべきか。今朝の一貴の顔色はよかった。自然に笑っていた。あの一月の法事の時よりも。今から家を離れさせれば、二度と戻って来ようとしないだろう。それは阻止したい。自分と似ている人が出て行くのを見たくない。この家の温もりで安らいでもらいたい。
「圭一。誤解しないでくれ。ここは居心地がいい。俺のために作った食事がある。電話をかけてくる相手がいる。好意を寄せて嫌がられて、そのパートナーから叱りつけられることもだ。一貴という男として接してもらえた証だ。……お前のお兄ちゃん。困った兄貴としてだ……」
「その部分は親父と同じだ。どこへ出向いても、黒崎社長と呼ばれている。夏樹君、黒崎君のお父さんとは、ひと言も呼ばれたことがない。ステージを観に行けば、ビジネスの場になる。末息子の父親としてじゃない。……一貴。お前には相談相手がいるじゃないか。俺もいる。晴海兄さんもだ。違う目線を持っている。ここで暮らして良かっただろう?」
「……もちろんだ。ありがとう」
今の話し声は落ち着いているが、朝になれば後悔して沈み込むだろう。後に残らないようにしたい。一貴の収集癖は直らないだろう。悠人への想いも続くだろう。表に出すなと言うべきだろうか。いや、伝わるに決まっている。今後の活動に響くのは違いない。精神的な問題として。
情けないことだ。いい歳をした大人が、頭を突き合わせても答えが出ないとは。実際に突き合わせよう。一人にさせるよりもマシだ。
「今から行く。酒は飲まないぞ。朝になっても何も残らない。それこそ虚しいだけだ」
「夏樹君を一人にするな。この家は……」
「夏樹も連れて行く。大学も仕事も入っていない。今晩だけ眠たいのを堪えてもらう。……夏樹。いつからそこにいた?起きていたのか。おいで。……一貴。また後で」
「ああ……」
「黒崎さん。お邪魔しまーーす」
夏樹が笑顔を浮かべて入って来た。そっと抱き寄せると、腕を回して抱きついてきた。一貴には、後で部屋に行くと伝えて、通話を終えた。夏樹がいつから居たのかと聞くまでもない。しばらく前からだ。全く気付かないほど動揺していたのか。見ていて不安になっただろう。
「すまない。話し込んでいた。気づかなかった」
「いいんだよ。こっちも黙っていたし。早瀬さんの、お母さんの話の辺りから聞いていたんだ。菜々子さんっていうんだよね?お義父さんがお世話をしていたの?」
「そのとおりだ。早瀬本人も知っている。ただし、親父は名乗っていない。お母さんとは男女の仲はない。相談役だった」
「これですっきりとしたよ。佐久弥の小さい頃を知っていたから、早瀬さんのことも知っているはずだって思ったんだ。一度も話題に出ないから不思議だったよ」
「そうだ。お母さんとは仲のいい友達だったということだ」
「向こうの家に行くんだよね?俺も行きたい。いいだろ?」
夏樹から強引に膝の上に座られた。首回りに腕を回して逃がさないようにされた。Yesと言うまで離さないぞと笑っている。今朝の仕返しか?と聞くと、もちろんだと返ってきた。
「置いて行けない体制だ。下りる気がないだろう?」
「俺はないよ?黒崎さんが強引にやれば?」
「出来るわけがないだろう。連れていくつもりだった。用意をするぞ。アンも一緒に」
「差し入れがいるね。お饅頭かカステラにしようっと。両方あるよ。甘いものを食べた方がいいからね。よーーし」
膝の上から降りて、夏樹が書斎を出て行こうとした。その体を引き寄せて留めた。不安そうな顔を見逃すわけにはいかない。ここで話しておこう。
一貴は反省していること。悠人に手出しをするつもりはないこと。昔の自分を見ているようだと話したこと。音楽での活躍を応援したいこと。友人としての距離を保つこと。それらを話すと、やっと安心した顔になった。ただし、引っかかことがある様子だ。
「向こうへ行きながら整理するよ。一貴さんのことは嫌っていないからね。何かあったんだよ。お母さんのこと以外で。疲れていると思うし……。お義父さんは今夜、遅いんだよね。悠人はねー、悲鳴をあげたくなるタイプから好かれるみたいだね」
さっそくキッチンにて、夏樹が菓子類を籠に詰めた。向こうの家で温かい飲み物を用意できる。女子トークの要領だよ。大学の友達に教えてもらったんだ。夏樹が胸を張って言いながら笑っていた。
一貴に対して、何を話せばいいのか分からない。こういう自分が虚しいと感じた。一貴と同じだ。ただし、俺には夏樹という存在がいる。
「一貴。実家では言いなりだったのか?母親の元で」
「もちろんだ。それを当たり前だと思っていた」
「この家はつらいのか?昔を思い出すのか?」
晴海兄さんのように距離を取らせるべきか。今朝の一貴の顔色はよかった。自然に笑っていた。あの一月の法事の時よりも。今から家を離れさせれば、二度と戻って来ようとしないだろう。それは阻止したい。自分と似ている人が出て行くのを見たくない。この家の温もりで安らいでもらいたい。
「圭一。誤解しないでくれ。ここは居心地がいい。俺のために作った食事がある。電話をかけてくる相手がいる。好意を寄せて嫌がられて、そのパートナーから叱りつけられることもだ。一貴という男として接してもらえた証だ。……お前のお兄ちゃん。困った兄貴としてだ……」
「その部分は親父と同じだ。どこへ出向いても、黒崎社長と呼ばれている。夏樹君、黒崎君のお父さんとは、ひと言も呼ばれたことがない。ステージを観に行けば、ビジネスの場になる。末息子の父親としてじゃない。……一貴。お前には相談相手がいるじゃないか。俺もいる。晴海兄さんもだ。違う目線を持っている。ここで暮らして良かっただろう?」
「……もちろんだ。ありがとう」
今の話し声は落ち着いているが、朝になれば後悔して沈み込むだろう。後に残らないようにしたい。一貴の収集癖は直らないだろう。悠人への想いも続くだろう。表に出すなと言うべきだろうか。いや、伝わるに決まっている。今後の活動に響くのは違いない。精神的な問題として。
情けないことだ。いい歳をした大人が、頭を突き合わせても答えが出ないとは。実際に突き合わせよう。一人にさせるよりもマシだ。
「今から行く。酒は飲まないぞ。朝になっても何も残らない。それこそ虚しいだけだ」
「夏樹君を一人にするな。この家は……」
「夏樹も連れて行く。大学も仕事も入っていない。今晩だけ眠たいのを堪えてもらう。……夏樹。いつからそこにいた?起きていたのか。おいで。……一貴。また後で」
「ああ……」
「黒崎さん。お邪魔しまーーす」
夏樹が笑顔を浮かべて入って来た。そっと抱き寄せると、腕を回して抱きついてきた。一貴には、後で部屋に行くと伝えて、通話を終えた。夏樹がいつから居たのかと聞くまでもない。しばらく前からだ。全く気付かないほど動揺していたのか。見ていて不安になっただろう。
「すまない。話し込んでいた。気づかなかった」
「いいんだよ。こっちも黙っていたし。早瀬さんの、お母さんの話の辺りから聞いていたんだ。菜々子さんっていうんだよね?お義父さんがお世話をしていたの?」
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「そうだ。お母さんとは仲のいい友達だったということだ」
「向こうの家に行くんだよね?俺も行きたい。いいだろ?」
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