白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
212 / 265

24-18

しおりを挟む
 校舎を出て、木の生い茂った小道を進んだ。礼拝堂から訪れた人が出てきた。その波が落ち着くまで待ち、出入口を入った。

 中に入ると、ステンドグラスにシンプルな内装と讃美歌を披露するための台が見えてきた。全てが懐かしい。よくあの台に立って歌を披露していた。引っ込み思案なのに、その時だけは平気だった。

「藤沢と歌ったよ。黒崎さんは聴いたことがあるよね?」
「一度だけ機会があった。お前が天使に見えた」
「マジで?」
「茶色の髪が金髪に見えた。光の関係だ」
「ふーん……」
「本気だ。可愛らしかった」

 急に照れくさくなった。赤くなってモジモジしていると、両肩を掴まれた。黒崎にすると軽い力だろうが、こっちはそうではない。一体どうしたのかと驚いた。

「黒崎さん?あ……」

 戸惑っていると、何も言わずに唇が重なった。ほんの軽い触れ合いだ。何だか緊張してきて動けなくなった。いやらしさがなくて、誓いのキスみたいだ。

 そして、何度が重なった後で離れて、抱きしめられた。何も言わずにいるから、泣いているのかと思った。砂浜で鈴を鳴らしたことが、俺のことを連想させたのかな?そうなのかと問いかけると、違う理由だと答えた。笑いながら頭を撫でられた。黒崎のやや汗ばんだ身体と心臓の鼓動に安心した。

「黒崎さん……。連れて来てくれて、ありがとう」
「いつでも連れて来てやる。もう一人で来られるだろうが……、それはするな」
「一人で来ないよ。それこそお母さんに会ってもらえないよ。喧嘩したのかって……」
「どこにも行くな」
「行かないよ~。もう……。鈴のことは、お母さんに向けてのものだよ。病気のことを聞いたばかりだからさ。誰でもそうだよ。まさかヤキモチ?」

 黒崎がため息交じりに笑った。背中をさする手が力強いからホッとした。

「ステージに立っている間は観客のものだ。2時間ぐらいは我慢してやる」
「黒崎さん。その間も同じだよ。あんたに向けて歌う時があるから……」
「時だと?いつもそうしろ」
「だったら俺のことだけ見ろよ~。声を掛けられまくったくせに……」
「夏樹……」

 耳元で響いたのは拗ねた声だ。お互いに妬き合っている。どちらともなく視線を合わせて、啄み合うようなキスをした。すると、途中から笑いながらのキスに変わった。黒崎の肩を押して離れろと笑った。さらに唇を奪われて、礼拝堂で何をするのかと、耳たぶを引っ張ってやった。 

「こら。外じゃ素っ気ないんだろ?飛行機が揺れるってば……」
「俺は平気だ。……鈴が鳴っているぞ」

 リーン、リーン。

 俺が動いたからだ。ストラップの鈴の音が聞こえた。天使を呼んだのだろうか?すると、礼拝堂の鐘の音が響き渡った。まるで笑っているかのように聞こえた。

「けっこう響くね……。笑われたのかな?天使に。うひゃひゃ……」
「そうだな。お義父さんが来てくれる時間だ。出よう」
「うん」

 午後の飛行機は14時だ。空港まで父が送ってくれる。羽田空港には、お義父さんが迎えに来てくれる。今日の思い出をお土産にして、礼拝堂を去った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...