白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 20時。

 アルバム収録から戻った後、お義父さんの家へやって来た。晩ご飯の後は、一階の客間で過ごしている。この部屋の向かいが、一貴さんの部屋だ。今は留守だから、ユリウスを連れて来た。

 この家の中には山崎さんとの二人だけだから、しーんと静まり返っている。今日は夜間のお手伝いさんが休みだから、山崎さんが来てくれている。すると、アンとユリウスが走り回り始めて、賑やかになった。外で遊ばせたいが、夜は出られない。

「ユリウスー。それは俺の靴下だよー。黒崎さんのは、こっちだよ~」

 ユリウスが俺の荷物の中から靴下を引っ張り出して、棚の側へ持って行った。そのために黒崎の靴下を持って来ている。しかし、大好きな人の靴下を持ってきたのに、見向きもしない。そして、疲れたのか飽きたのか、その場で寝始めた。マイペースな子だ。

「疲れたんだね。散らかさないからお利口だよ。黒崎さん……、まだかな?」

 今日は一度も電話を掛けてこない。ラインは全て既読だ。遠慮しつつも落ち着かないのが本音だ。

 5月からの新体制への準備に入ったそうだ。会食が増えたのは副社長としての顔つなぎで、早瀬さんも同じく多忙にしている。悠人とは寂しいねと、こっそり話した。

「黒崎さん。痩せた気がする。喘息は起きていないけど……」

 黒崎は、ここ一年半ぐらいは風邪を引いていない。よく食べるし、腕立て伏せも毎日している。しかし、睡眠時間が減った。書斎に籠り、いつの間にかベッドで寝ている。ベッドでイチャつくのは変化ない。優先しているとも口にしていた。あれはマジだった。それがガソリンなら補給が必要だ。

「心配ないかな。そんなことないか……。何か出来ないかなあ?」

 ネットで検索を始めた。働くお父さんを労わるアイテムを探している。どれもピンと来ない。美味しいご飯があればいいと言っているからだ。

 ふと目についた記事がある。プラセルの新ラインの発表があった。着物柄を使った、国内外向けのブランドを立ち上げると書かれている。生き生きした顔の一貴さんの写真と、怜さんの名前が出ている。ずっと先だが、タッグを組むそうだ。

 経済欄には黒崎製菓の見出しがあった。社長交代の記事だ。現実になったのかと、胸がドキッとした。お義父さんが引退するイメージがない。

「……黒崎製菓新体制へ。副社長の深川氏が代表取締役社長へ。常務取締役、営業企画部長の黒崎圭一氏が副社長へ内定……。取締役会の体制を一新、グループ経営戦略部長、早瀬氏が……」

 だから今日は特に忙しいのだと知った。7月22日開催の取締役会で、内定する人事を決定したと書かれている。3月に開催される、株主総会の決議を経て就任。黒崎と深川さんの写真が出ている。

 黒崎の短いインタビューでは、”第一に家族の支えがあり”と掲載されている。それを読んで、胸がじーんとした。

「いたた……。無理したかな……。アン、平気だよー」

 また急に背中の痛みが起きた。アンは敏感だから気がつく。アンの身体を撫でてやっているうちに、痛みが治まった。朝は20分、収録は90分の歌唱だ。これだけで反応が起きたのか。

 何かあれば電話をかけて来いと、黒崎から言われている。しかし、すぐに治まったから、帰った後で話すことにした。そして、ベッドに横になって、目を閉じた。
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