白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 悠人がソロ活動をするのかな?あの子は歌も上手だから、佐久弥のような活動が可能だ。その時には俺の歌詞を使うと話していたから、急に元気が出てきた。こういう形もアリだ。一緒に活動できる。

 電話が終わった後、聞きたいか?と頬をつねられた。えらく喜んでいる。

「DDの権利を諦めるそうだ。方針転換して『To Dear Drops』の名前を提案した。開明高校で色紙にサインをしただろう。何となく書いた名前だ」
「それならOKってこと?」
「進めないと分からない。IKU側へは伝えてもらう。……もっといい話がある」

 黒崎が微笑んでいる。優しくて見惚れたら、下唇を引っ張られた。

「悠人君の件だが、ソロ活動じゃない。新しいバンドでは、ボーカルとギターを担当する。お前が途中加入しても構わない。ボーカルのNatsukiとしてだ。……ステージで具合が悪くて歌えない時には、悠人君が歌う。どちらを選択しても叶うように、彼から提案されたそうだ」
「まじで?そんなのOKなのかよ?聞いたことないよ?」
「IKU側が、今日検討を始めた。まとまり次第、お前に話が来る。前例を作っておけ」

 嬉しいに決まっているのに、現実味がない。いろんな制約があるのだと知り、意外と窮屈だと思っている。その中で打ち破ろうとしているのか。しかも検討中なら、100%不可能ではない。

 黒崎は俺がボーカルを続けることを反対しているのに喜んでいるのは、どうしてだろう?こうなれば断る理由がないのに。呆然としている俺の顔を見て苦笑した。

「悠人君の気持ちが嬉しいからだ。ギタリストが二人いるから出来ることだと、IKUに直談判したそうだ。……俺には止めることが出来ない。それでも続けてほしくない気持ちがある。迷わせるのを分かっているが、俺も納得して答えを受け入れたい」

 いろんなことを考える余裕がない。頭が痺れた感覚が起きて、唇にまで広がった。黒崎の顔が霞んで見えるのは、涙のせいではない。まだ流れていない。驚きすぎている。声が震えて出てこない。

「やりたい!悠人と話すよ」
「悠人君がボーカルレッスンを始めた。昨日からだ。ツインボーカルが可能になる分、楽曲とステージの幅が広がる。夏樹にはそう説明しておけと話していたそうだ。お前もそのつもりでいろ」
「ちゃんと話す。すぐに分かることじゃん」
「泣き止んでからにしろ」
「無理だよ……、嬉しいもん……、黒崎さ……ん」
「いつでもステージから下ろすことが出来る。穴をあけなくて済む。悠人君には負担がかかるはずだ」
「それでもいいからやりたい!迷惑でもいい」
「迷惑なら最初から提案しない。拭いてやるから大人しくしろ」

 人通りのある場所で嗚咽を漏らした。黒崎が笑い声を立てた。俺のせいだと思われてもいいと言った。そして、タオルハンカチを取り出して、顔を拭いてくれた。さらに鼻水が出たと笑い、ティッシュでふき取られた。汚くないと言い続けてくれた。

 早く悠人へ電話をしたい。声を聞きたい。話をしたい。きっと知らぬふりをして、コーラス部分の練習のためだよと、言い返してくるだろう。

 照れくささからではなく、俺への思いやりのためだ。気負うことなく、迷惑だろうと思うことがないようにだ。すぐにバレるのに。いくら鈍い俺でも。

「どうしよう?気づかないふりで電話を……、かけようかな?」
「そうしろ。そろそろいいな。泣き止めた」
「どうしよう?緊張してきたよ。バレるかも……」
「”どうしよう?”か。悠人君の口ぐせが移ったな。だったら大丈夫だ。言わなくても伝わる」

 黒崎が何かを考えた後、店の方を向いた。悠人君が好きそうな物を買って持って行くか?と。全く発想がなかった。今日は休日だから、家に居るだろう。肩を抱かれて頭を撫でられた後、店の方へ歩きだした。
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