白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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30-2(黒崎視点)

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 15時。

 役員室のデスクにてミーティングを行っている。新体制へ向けての情報共有、営業企画部内の人事についてだ。役職者への内示は済ませてある。

「……常務。いかがいたしましょうか?」
「……進めてくれ」
「……では終了します。次回は11月5日です」

 滞りなく終了した。新体制への移行では、何ら支障が起きていない。これまでの経過をみると、気味が悪いぐらいだ。派閥争いに負けたメンバーがいるというのに。数年後、早瀬がR&Wの役職へ就く際には、罠を仕掛けてくるだろう。

 早瀬が俺に声をかけた後、待機していた二葉を連れて行った。行き先は副社長室かと思えば、ここの秘書室だった。彼女の顔が一瞬だけ強張った。上手くいっていないのか。

(俺の時は気にならなかったが……。男女の差なのか……)

 見えない壁が存在している。俺の時は人が寄って来たが、二葉は拒まれている。男性社員が寄って来ても、下心を持っている。しかし、大半が若い女性としての扱いではない。ライバル視されるのは喜ぶべきことだが、人付き合いの苦手さがネックになっている。

 その中に夏樹が飛び込んでくる。自らの意思で。あの子は環境に左右される。穏やかな場所では優しく、競争の中では、激しい気性が姿を現す。競争の海では泳がせたくない。

 デスクに戻り、中山の義父へ報告書を送信した。その数分後に折り返し連絡が入った。対応の早さには慣れたが、スピードに負けそうだ。

「こんにちは。ありがとうございます」
「……報告書を読みました。体調と学業は問題なし。黒崎家の方とも良好。地位が欲しいと言い出したのか。圭一君の意見は?」
「僕は反対です。断言しました」
「ありがとう。僕も反対だ。穏やかな人生を送ってもらいたい。僕の方から説得する」
「僕が説得します。コントロールする方法を取ります。長くかかるでしょうが……。いざとなった時にお願いします」
「お任せします。伊吹が急な海外出張が入った。コンサートを観に行けない。家内の体調が不安だから、僕だけで観に行く。どうしても行きたい」
「夏樹には黙っておきますか?……そのように。失礼します」

 電話を終えた後、社長室へ掛けた。夏樹から出た話のことで、ストレートに意見を聞くためだ。返って来た答えは、俺とは反対意見だった。本人が求める理由が真っ当だから賛成することと、自然とステージから遠ざかるきっかけになるだろうと言われた。

 それなら俺もその意見に賛同できる。そう思ううちに、夏樹への後ろめたさが出てきた。協力すると言いながらも、こうして裏で動いていることを。
 
 ヴィジブルレイのラストライブの告知ページを開いた。別人のような夏樹と悠人の画像がある。佐久弥がプライベートと変わりなく見えるのは、表に出る仕事に馴染んでいるからだろう。 
 
 ラストライブは10月29日からの2日間で行われる。5月は2500人の会場だったが、今回は7500人だ。当初は 5000人のホールを予定していたが、規模を大きくした。もう家の中だけの夏樹ではないのだろう。

 俺はただ夏樹と歩きたいだけだ。大学生であり、いずれは黒崎製菓の社員となる子と。同じ家に帰り食事をして、一緒に眠る。しかし、そのルートは外れた。ステージに立とうとも、同じ生活ができる。しかし、それでは足りないと思いがある。

(俺のエゴだ。全てがあの子のためじゃない……)

 肩を回して物思いを振り払い、業務に取りかかった。
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