白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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30-3(夏樹視点)

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 17時。

 ひんやりした風が吹いてきた。畑の土やトマトへ長い影が出来た。空を見上げると夕焼けが広がり、日が落ちてきた。そろそろ家の中に入ろう。収穫した九条ねぎとプチトマトが入ったカゴを持ち上げた。そして、そばで散歩している二匹を連れて玄関へ向かった。

「おーい。もう戻るよー。はいはい、いい子だね。ユリウスが一緒だと助かるなあ。アンがお姉ちゃんになっているもん」

 水場で野菜を洗って家の中に入った。二匹がご飯を食べている間に、ユリウスの帰り支度をした。一貴さんが定時で帰って来るからだ。社長の姿でも嫌味さが消え失せて、気のいい人という印象だ。たまに少年が登場して、マフィンを焼くと飛んでくる。

「ユリウスから言ってよ。他の物も食べるようにさ。ざるそばの次は、マフィンが大好きになったんだよ?主食とおかずみたいに食べているんだ。よーし完了」

 晩ご飯の支度ができた。黒崎が帰るまでに、地球物質進化学の課題をやっておこう。

 リビングでパソコンを開くと、日下からメールが入った。欠席分のノートだ。さっそく試験対策問題を送り返した。こうしていると、音楽の仕事をやっている気がしない。

 ついでに俺たちのバンドのサイトを開いた。本当に自分なのかと、疑うような画像が出ている。誘惑ステージでは色気全開だ。羽音さんからのアドバイスで、黒崎のことを誘惑するつもりで歌った結果だ。

 赤い着物を羽織ったヴォーカル、カッコいいギタリスト、ナチュラルなのに色気のある先輩ギタリスト。これからも一緒にやっていく。

 ステージだろうが家の中だろうが、黒崎のことが思い浮かぶ。未来は分からないが、音楽と黒崎製菓の、どちらかを選ぶ日がくる気がする。地位を得た後、守れる人達がいる。とにかく進んでいく。

 メールを読んでいると、新着が入った。出版社からだ。先月から連載を始めて、そこそこ好評だと聞いた。いつか本が出るといいなと思っている。

「え?え?ヒャーーーッ」

 そのまさかが起きた。俺の作品を、出版社のPR冊子に紹介すると書かれている。魔法使いと少年の話だ。モップを持った少年のイラストの依頼がある。そして、俺が付けたタイトルを変更したいということも書かれていた。

「“眠れる森の賑やか少年”の、タイトル変更しよう?そっか。ウンウン……」

 ぶつぶつ独り言を繰り返していると、あっという間に時間が経っていた。門灯がついたから窓の外を見ると、タクシーのランプが見えた。

 2匹を連れて、ぞろぞろと玄関へ向かった。ドアを開けると、黒崎が門を開けて入って来た。アンが先に走って行き、黒崎に抱き上げられた。もちろん俺もダイブした。

「おかえりー」
「ただいま。ユリウスも出迎えてくれたのか。転ばないようにしたな。見ていたぞ」

 さすがに気をつけている。こんな時期に擦り傷は作りたくない。そう言うと、日頃からそうしろと言って、下唇を引っ張られた。

 外は寒くなっている。車内で温もったコートが、早くも冷たくなった。腕を引っ張って玄関へ促した。

 絵本のことを話すと驚いていた。悠人君をモデルに立ってもらい、絵を描くと笑った。ホウキしかないよと話すと、モップを買ってくると言い返してきた。

 家の中に入ると、食事の匂いが広がっていた。今夜は温かいおそばだ。めんつゆの匂いに黒崎が苦笑いをしているが、楽しみだと頷いていた。
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