白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 22時。

 コンサートを控えているから、早めにベッドに入った。明日はリハーサルがない。発声練習と日舞の稽古をした後は、リビングで寝転がって休むことにした。

 ラストステージでは、デビュー時と同じく赤い着物を羽織って、日本舞踊の形で踊る。佳代子さんの知り合いの先生に頼んで、稽古を付けてもらった。

 デビューステージの画像を開いた。左の額には傷跡がある。あえて隠さない方法を取ったのは、気に入っているからだ。とても両親には言えない内容だ。俺の身体に傷ができるたびに、どんなふうに思っただろう?今では悔やんでいる。

 すると、ドアの向こうから音がして、黒崎が入って来た。紙袋を手にしている。加湿器だろうか?いや、すでに置いてある。

「黒崎さん。それはなに?」
「今日の夕方、伊吹君が会社へ訪ねてきた。内緒にしない。広げてみろ。……覚えているか?」

 それは赤いカーディガンだった。子供用サイズの、今の俺では着られそうもない。もちろん覚えている。心臓のカテーテル治療で入院した時だ。ベッドで寝ている時に、胸の上にかけてもらった。

「入院した時に使ったんだ。赤ちゃんと生命力の色だよ。カーディガンが、血の代わりになりますようにって。代わりに血が流れているから、俺の体から流さないでくれっていう願掛けをしたんだ……」
「伊吹君がご両親から預かっていた。お前が搬送された日も、胸の上に掛けてあった。お前には話していないことだった」
「うん……。苦しくならないようにセーブするよ。そのために曲数を減らしてもらったんだ。ギターソロの時間を増やしてもらった。楽しめるように、佐久弥と悠人が漫才をするんだ。演奏しながら。これから先もあるんだから、急がないよ。最後じゃないもん」
「その通りだ。さあ、寝ておけ」

 天井の照明が落とされた後、足元の灯りだけになった。ぼんやりとした光の中、黒崎の表情が沈んだ。しかし、それは一瞬のことだった。何も聞かずに目を閉じて、コンサートのことを思い浮かべた。
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