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一階ロビーへ降りた後、先に受付カウンターへ向かった。ごく普通のファイルには、営業企画部とだけラベリングされてある。今回のメディア対応のスケジュールと来客者からの問い合わせへの対応策などだ。社内メールで伝達しないのは漏れを防ぐためだ。内部に足を引っ張る存在がいるからだ。
(評判が悪くなったら、自分も嫌だろう。それでも上になりたいのか……)
今回の事件では、”早瀬部長代理” への風当たりが強い。派閥争いが関係している。白澤の問題行動は、上司である中野課長が注意をした。しかし大人しくなったのは短期間で、後輩の男性社員へセクハラまがいのことを繰り返した。あえて男性をターゲットにしたのは、本人が隠したがるからだ。
先月下旬、早瀬が口頭で白澤に厳重注意を行った。次に起こせば、部長以上での会議で処遇が決まると。しかし、その効果がなく、何をやっているんだと、派閥の相手が言い出した。
早瀬は今年春に黒崎製菓へ移ってきた。マーケティング推進室の室長に就き、それを狙っていた社員からは文句が出ていた。営業企画部の出世コースだからだ。さらに上へのステップでもある。
(黒崎常務にも風当たりがあったからなあ……)
今では実績が目に見えて知られるところとなり、不平不満が治まった。そしてこういう流れが起きた。時期社長候補へゴマをするしかないのだと。黒崎のことだ。彼の周りに人が集まってきている。早瀬の邪魔をしたいということだ。
(芋づる式に、俺にも降りかかってきたぞ……)
これを同期に愚痴ると、贅沢をいうなと返された。出来れば穏やかに勤めていたいのに。大企業に入ったから安泰とはいえない。どこも同じなら、大きな木の影の下にいたい。そう思いながら入社して安心した後、待っていたのは現実だった。目の前に広がっていたのは、鬱屈とした光景だ。チームで業績をあげて、一人の手柄にしないこと。順番に綱引きをして、昇進した社員から引き上げられる。それが出世のコツだと知った。
自分はここで何をやりたいのか?漠然として勤めている。今では楽しいものになっている。上司に恵まれて、オフィスの空気が良くなったからだ。黒崎と早瀬からは ”私生活がぶっ壊れた後にこそ、いい出会いがある” ”順調に行くのは幻想だ” と言われた。
(あれぐらいの強い人間になりたい……)
考え込みながら受付カウンターへ向かった。ファイルを差し出すと、不思議そうに声を掛けられた。
「枝川チーフ、どうされましたか?」
「すみません。考え事をしていました」
「早瀬代理から伺っています。桂川弁護士が、あちらでお待ちです」
「ありがとうございます。……あれ?どの人だろう?」
その方向には数人が腰かけていた。書類やスケジュール帳を手に、似たような動作をしている。何の特徴も聞いていないし、初めてならば知らないのも当然だ。
「右側の女性です。グレー系のスーツに……」
「あの方だね。ありがとう」
さっそく向かった。桂川弁護士の方が、先に俺のことに気づいていたようだ。立ち上り会釈をされた。
「お待たせしました。営業企画部の枝川です。早瀬部長代理より……」
「お世話になります。桂川と申します」
「……ではこちらに」
「……恐れ入ります」
桂川さんは30代前半に見える女性だ。いかにも優しそうな雰囲気に、弁護士というイメージが浮かばない。うちには、お馴染みの顧問弁護士がいる。久田弁護士という、いかにも系と接していたからか、気持ちが和んだ。すると、エレベーターが到着し、20階へ案内した。
(評判が悪くなったら、自分も嫌だろう。それでも上になりたいのか……)
今回の事件では、”早瀬部長代理” への風当たりが強い。派閥争いが関係している。白澤の問題行動は、上司である中野課長が注意をした。しかし大人しくなったのは短期間で、後輩の男性社員へセクハラまがいのことを繰り返した。あえて男性をターゲットにしたのは、本人が隠したがるからだ。
先月下旬、早瀬が口頭で白澤に厳重注意を行った。次に起こせば、部長以上での会議で処遇が決まると。しかし、その効果がなく、何をやっているんだと、派閥の相手が言い出した。
早瀬は今年春に黒崎製菓へ移ってきた。マーケティング推進室の室長に就き、それを狙っていた社員からは文句が出ていた。営業企画部の出世コースだからだ。さらに上へのステップでもある。
(黒崎常務にも風当たりがあったからなあ……)
今では実績が目に見えて知られるところとなり、不平不満が治まった。そしてこういう流れが起きた。時期社長候補へゴマをするしかないのだと。黒崎のことだ。彼の周りに人が集まってきている。早瀬の邪魔をしたいということだ。
(芋づる式に、俺にも降りかかってきたぞ……)
これを同期に愚痴ると、贅沢をいうなと返された。出来れば穏やかに勤めていたいのに。大企業に入ったから安泰とはいえない。どこも同じなら、大きな木の影の下にいたい。そう思いながら入社して安心した後、待っていたのは現実だった。目の前に広がっていたのは、鬱屈とした光景だ。チームで業績をあげて、一人の手柄にしないこと。順番に綱引きをして、昇進した社員から引き上げられる。それが出世のコツだと知った。
自分はここで何をやりたいのか?漠然として勤めている。今では楽しいものになっている。上司に恵まれて、オフィスの空気が良くなったからだ。黒崎と早瀬からは ”私生活がぶっ壊れた後にこそ、いい出会いがある” ”順調に行くのは幻想だ” と言われた。
(あれぐらいの強い人間になりたい……)
考え込みながら受付カウンターへ向かった。ファイルを差し出すと、不思議そうに声を掛けられた。
「枝川チーフ、どうされましたか?」
「すみません。考え事をしていました」
「早瀬代理から伺っています。桂川弁護士が、あちらでお待ちです」
「ありがとうございます。……あれ?どの人だろう?」
その方向には数人が腰かけていた。書類やスケジュール帳を手に、似たような動作をしている。何の特徴も聞いていないし、初めてならば知らないのも当然だ。
「右側の女性です。グレー系のスーツに……」
「あの方だね。ありがとう」
さっそく向かった。桂川弁護士の方が、先に俺のことに気づいていたようだ。立ち上り会釈をされた。
「お待たせしました。営業企画部の枝川です。早瀬部長代理より……」
「お世話になります。桂川と申します」
「……ではこちらに」
「……恐れ入ります」
桂川さんは30代前半に見える女性だ。いかにも優しそうな雰囲気に、弁護士というイメージが浮かばない。うちには、お馴染みの顧問弁護士がいる。久田弁護士という、いかにも系と接していたからか、気持ちが和んだ。すると、エレベーターが到着し、20階へ案内した。
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