Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

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 幸也君のことを好きになったからだ。幸也君のそばに居たい。さっきみたいなことは、もう嫌だと分かった。連絡も出来ないままウロついて、隣の位置を奪われてしまった。同僚が相手でも嫌だ。この人のは俺のものだ。

「俺のこと、襲ってよ!」
「だめだ!クソガキ!」
「どうしてだよ?キスしてきただろー?責任取れよ!男の責任ってやつ」
「ここで言うな」
「大学でチューってやったくせに!」
「あれは……、お前のことをジロジロ見ている奴がいたからだ。俺のものだ!」

 俺のものだ、か。意見が一致している。だったら進んでもOKだ。狼狽えている幸也君の腕を掴んで、ホテルのロビーから出た。いつもと逆のパターンだ。俺の方は強引に連れ出して引っ張っている。

 正面エントランスから歩道に出ると、一気に騒がしい場所に出た。暗い夜空の下には、大きな交差点がある。何台もの車が連なり、渋滞したかのように信号待ちをしている。いや、渋滞しているのか。

「理久!ここで話すぞ」
「こっちには話はないよ。幸也君のマンションに泊まるから。そっちが襲ってこないなら、こっちからいくよ!」
「こら!甘酒のくせに。まだ子供だろうが」
「だったら俺の心を返せ!」

 一体、俺は何を言い出すのか?頭では分かっているのに、勝手に口から言葉が飛び出していく。思考と行動が結びつかない。騒がしい街の中で、停まっているタイヤが目に留まった。まるで幸也君のようだ。俺はアクセルを踏んだのに、肝心の相手が停車してしまった。

「幸也君。あの時の言葉、そっくりそのままお返しするよ。停まっている車を見てよ。エンジンはかかっているのに、走っていないんだ」
「信号待ちだからだ。赤信号だ」
「言い訳するの?アクセルを踏んでいないだけだよ。あんた、俺に言っただろ。たった今、踏んだから。幸也君も踏んでよ」
「今のお前は混乱している。突発的なことだ。心の準備が出来ていない。落ち着こう。もっと考えろ」
「今更、常識ぶるなよ!夜景を見せて、どっかに連れ込む気だったんだろ?中山さん達が止めたぐらいだもん。日頃からやっているんだよね?俺にもすればいい」
「こら!」
「離せよ!」

 何度もそう口にしたのに、抱きしめられたままだ。抵抗するのがバカらしくなった。

「混乱しているときは、何も決めるな」
「嫌だ!」
「落ち着いてからでも遅くない」
「そんなことないよ」
「待っているから。急ぐな」
「嫌だってば」

 なんて常識的な意見だろう?こんなに混乱した時こそ思い切りたいのに。幸也君が女性と一緒に居たから、こんなにザワザワしているのか?それとも、久弥のことが心配だからか?混乱しているのは間違いない。自分のことが分からない。今は混乱した頭のままで、幸也君にすがりついて泣くしか出来なかった。
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