29 / 938
3-7
しおりを挟む
13時。
クリニックと薬局から帰った後、コンビニで買ってきたサンドイッチを一枚だけ食べて、薬を飲んで寝た。一時間少しの睡眠でも、随分と身体が楽になった気がする。痛み止めが効いていて、喉が楽だ。目を覚ますと、黒崎がそばにいた。ベッドの端に座り、俺のことを見ていた。
「俺、寝ていたね」
「ああ。よく寝ていた。同級生には電話してある」
「うん。昼ご飯はどうする?お腹空いただろ?コンビニで買ってきたやつだけじゃ、お腹が張らないんじゃない?」
「うな重とカツサンドが到着した。伊吹君からの差し入れだ」
「そっか。聡太郎君経由で知ったんだね」
伊吹と聡太郎はパートナー同士だ。検診に付いていったのかもしれない。中山クロウとして久弥とコンビを組んで子守唄でデビューし、あちこちのテレビ番組で見かけるようになった。実家の両親は恥ずかしがっている。図々しさを隠すことなく、トークを繰り広げているからだ。その時は、TDDのナツキの兄だと名乗っているし、パートナーが新しいバンドのギタリストになることも話している。おかげで会社はうまくいっているそうだ。
「伊吹お兄ちゃん。もう帰ったの?」
「ああ。アンが吠えるからだ」
「あれ?打ち解けてなかったっけ?」
「冗談だ。アンに犬用のおやつを買ってきてくれた。吠えなかったぞ」
「うへへ。俺と似ているね。スイーツがあったら平気だなんて」
伊吹は動物好きなのに、どういうわけか、アンに吠えられる。一貴さんの飼っているフェレットのユリウスにも警戒されている。実家にいる犬のレモンは伊吹のことが好きだ。何が違うのだろう。
さっそく伊吹にラインを送ろうとして、黒崎から止められた。
「夜にしろ。分かってくれている。ラインは良いからと言っていた」
「でも。悠人からも来ているからさ。返信したいよ。えーーい。返信。お兄ちゃんにもスタンプを送信っと」
「全く……」
「言うことを聞かないって?え?山崎さんがおかゆを作ってくれたの?」
「ああ、ついさっき、届けてくれた」
「悪いなあ。山崎さんのおかゆって、美味しいんだよねえ。具が凝っててさ~。もちろん胃にも優しくてさ」
「もう少し寝ておくか?」
「起きるよ。夜、眠れなくなりそう」
そう言いながら起き上がると、身体がダルかった。朝はこんなに思わなかったのに。両腕を上に上げてのびをしても変わらない。昨日のリハーサルの疲れだろうか。楽しかったのに。高宮さんからはOKをもらえた。
「黒崎さん。寝ても疲れが取れない事ってある?」
「それはある。お前は若いから、滅多にないんだろう」
「そうだよね。あんたはもうすぐで38歳だもん。そうなるよね?いたっ」
頬をつねられた。結構痛かったから、黒崎は本気だったようだ。これでも病人だ。大目に見てもらいたい。
「なんだよ~」
「お前も疲れを出しているだろう。熱を出していたはずだ」
「もうなくなってきたよ」
「油断は出来ない。食べたら寝ていろ」
「うん」
額に手を当てられた。そんなに出ていないようだ。身体が強くなってきたことで自信に繋がっている。いつまでもボーカルでいられるかも知れないと思った。そして、ふと、右側の奥歯の辺りが気になった。親知らずが埋まっている場所だ。俺も生えてきているかも知れないと思った。
「あーーーん」
「どうしたんだ?」
「おやひやずがはえているひゃもしれなくって。大丈夫だったよ」
「もう取ったらどうだ?」
「怖いんだよ。先生はもう少しこのままでもいいっって」
「そう言っていたな。高校生の時はどうだったんだ?」
「抜いた後、そんなに痛くなかったよ。若かったからかな?」
「今でも若いだろうが」
「うへへ」
黒崎がベッドに座った。リラックスした格好をしている。スーツ姿をしていても、今の格好でも、雰囲気は同じだ。ピシッとしている。しかし、俺に向けている視線は優しい。そっと頬に触れられた。胸が痛くなるほどに、そっとした力だ。
クリニックと薬局から帰った後、コンビニで買ってきたサンドイッチを一枚だけ食べて、薬を飲んで寝た。一時間少しの睡眠でも、随分と身体が楽になった気がする。痛み止めが効いていて、喉が楽だ。目を覚ますと、黒崎がそばにいた。ベッドの端に座り、俺のことを見ていた。
「俺、寝ていたね」
「ああ。よく寝ていた。同級生には電話してある」
「うん。昼ご飯はどうする?お腹空いただろ?コンビニで買ってきたやつだけじゃ、お腹が張らないんじゃない?」
「うな重とカツサンドが到着した。伊吹君からの差し入れだ」
「そっか。聡太郎君経由で知ったんだね」
伊吹と聡太郎はパートナー同士だ。検診に付いていったのかもしれない。中山クロウとして久弥とコンビを組んで子守唄でデビューし、あちこちのテレビ番組で見かけるようになった。実家の両親は恥ずかしがっている。図々しさを隠すことなく、トークを繰り広げているからだ。その時は、TDDのナツキの兄だと名乗っているし、パートナーが新しいバンドのギタリストになることも話している。おかげで会社はうまくいっているそうだ。
「伊吹お兄ちゃん。もう帰ったの?」
「ああ。アンが吠えるからだ」
「あれ?打ち解けてなかったっけ?」
「冗談だ。アンに犬用のおやつを買ってきてくれた。吠えなかったぞ」
「うへへ。俺と似ているね。スイーツがあったら平気だなんて」
伊吹は動物好きなのに、どういうわけか、アンに吠えられる。一貴さんの飼っているフェレットのユリウスにも警戒されている。実家にいる犬のレモンは伊吹のことが好きだ。何が違うのだろう。
さっそく伊吹にラインを送ろうとして、黒崎から止められた。
「夜にしろ。分かってくれている。ラインは良いからと言っていた」
「でも。悠人からも来ているからさ。返信したいよ。えーーい。返信。お兄ちゃんにもスタンプを送信っと」
「全く……」
「言うことを聞かないって?え?山崎さんがおかゆを作ってくれたの?」
「ああ、ついさっき、届けてくれた」
「悪いなあ。山崎さんのおかゆって、美味しいんだよねえ。具が凝っててさ~。もちろん胃にも優しくてさ」
「もう少し寝ておくか?」
「起きるよ。夜、眠れなくなりそう」
そう言いながら起き上がると、身体がダルかった。朝はこんなに思わなかったのに。両腕を上に上げてのびをしても変わらない。昨日のリハーサルの疲れだろうか。楽しかったのに。高宮さんからはOKをもらえた。
「黒崎さん。寝ても疲れが取れない事ってある?」
「それはある。お前は若いから、滅多にないんだろう」
「そうだよね。あんたはもうすぐで38歳だもん。そうなるよね?いたっ」
頬をつねられた。結構痛かったから、黒崎は本気だったようだ。これでも病人だ。大目に見てもらいたい。
「なんだよ~」
「お前も疲れを出しているだろう。熱を出していたはずだ」
「もうなくなってきたよ」
「油断は出来ない。食べたら寝ていろ」
「うん」
額に手を当てられた。そんなに出ていないようだ。身体が強くなってきたことで自信に繋がっている。いつまでもボーカルでいられるかも知れないと思った。そして、ふと、右側の奥歯の辺りが気になった。親知らずが埋まっている場所だ。俺も生えてきているかも知れないと思った。
「あーーーん」
「どうしたんだ?」
「おやひやずがはえているひゃもしれなくって。大丈夫だったよ」
「もう取ったらどうだ?」
「怖いんだよ。先生はもう少しこのままでもいいっって」
「そう言っていたな。高校生の時はどうだったんだ?」
「抜いた後、そんなに痛くなかったよ。若かったからかな?」
「今でも若いだろうが」
「うへへ」
黒崎がベッドに座った。リラックスした格好をしている。スーツ姿をしていても、今の格好でも、雰囲気は同じだ。ピシッとしている。しかし、俺に向けている視線は優しい。そっと頬に触れられた。胸が痛くなるほどに、そっとした力だ。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる