青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
38 / 938

4-4

しおりを挟む
 午前9時半。

 予定時刻通りに、山下が枝川に伴われて副社長室に入ってきた。ソファーに座らせて、先ほどの南波達と同様に、何があったのかを聞いた。話に食い違いはなかった。彼は先に手を出した方だ。表情は暗い。雷を落とされると分かっているのだろう。まずは騒動を叱りつけた。

「山下君。謝罪は済んでいると聞いている。何か言っておきたいことはあるのか?」
「いえ、ありません」
「後悔しているか?」
「はい……」
「ん?」
「あちゃーーー。聞こえないぞ……」

 枝川が小声で山下に、言い直せと言った。俺には後悔しているように感じるのだが、意地を張っているのか。それとも、消えてなくなりたいほど恥ずかしいということか。南波と北添からは離すことになる。ふと、秘書室はどうかと考えた。同じフロアにオフィスがあり、そう遠くない異動先だ。

「あの……、後悔しています。あの時は必死でした」
「それが分かっていれば良い。君は異動したいか?今回の件は社内で広まっている」
「異動したいです。そうなるんですよね?先に手を出したのは僕ですから」
「そうだな。南波君達と離れて、頭を冷やすといい」
「あの、僕、今のマンションに引っ越したばかりなんです。また引っ越すのは……。こんなことをしておいて、言うのはおかしいと思っています」
「異動先は社内で考えている」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」

 枝川からも礼を言われた。この際だから、何か他にもあれば言ったらどうだという事も山下に促している姿を見て、随分と面倒見の良い課長だと感じた。しかし、山下からは言葉はなかった。

 南波のことは本気で好きだったんだろう。今回のことで、距離が離れてしまうのではないか。南波は北添との方が気が合っている気がしている。じれていたのだろう。また騒動が起きかねない。今回で終わりならいいのだが。南波には枝川からはっきりと伝えている。君はモテると。

「失礼します」
「失礼します」
「ああ、落ち着いて業務に励んでくれ」

 部屋を出て行く二人に声をかけた。残ったのは自分一人だ。すると、平田が報告に来た。11時からのこの件の会議の出席者リストを持って来た。全員出席だ。対応が早く、驚いた。もう新しい業務に慣れたようだ。

「平田。早いじゃないか」
「はい!ありがとうございます!」
「そんなに固くなるな。もっとダラけていただろう」
「失礼しました。副社長にお手紙が届いています。開封はしていません!」
「ああ、ありがとう」

 差出人はミラノサーネ・レイだ。幼馴染みでデザイナーをやっている桑園怜の会社だ。プライベートな手紙なら家に届く。この間も、怜が作ったストールが届いていた。夏樹が使うためだ。さっそく開封すると、展示会の招待状が入っていた。夏樹を同伴して来てくれということだ。さっそく、パソコンでスケジュール帳を開いた。予定は空いている。

「平田。展示会の招待を受けた。予定に入れておいてくれ」
「はい!かしこまりました!」

 平田が隣の部屋に戻っていった。仕事で使っているスケジュール管理のファイルは、秘書だった早瀬が作ったものだ。前職の黒崎ホールディングス時代から使っており、馴染んでいるため、変える気が起きない。分かりやすく、見やすい。その早瀬は専務取締役として、役員室にいる。常に顔を見て仕事をしていた。今は会議でしか社内で会うことがない。夏樹が俺のことをからかっていた。寂しいくせにと。

 するとその時だ。その早瀬が副社長室のドアをノックした。一人の男性社員を伴っている。顔が曇っている。しかし、早瀬は笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...