青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
40 / 938

4-6

しおりを挟む
 20階のオフィスに到着した。営業企画部、役員室と書かれた出入り口に立つと、社員達が立ち上がり、事の次第を見守っているようだった。声を荒げている男性社員がいる。喧嘩は収まっていないようだ。その間を割って入り、一人の男性社員を押さえ込んでいる枝川を見つけた。床に倒れ込み、さらに立ち上がり、向かいにいる山下に掴みかかっていった。

 それを他の社員達が庇い、息を荒げている。枝川が追いかけて押さえ込もうとしている。南波と北添も手伝っている。暴れているのは山本だ。さらに、床に沈み込ませるようにして取り押さえられている谷川を見つけた。喧嘩は山本と谷川から始まったのか。俺は山本の背後から身体を押さえ込んだ。

「山本!やめろ!」

 山本の息が荒い。しばらく前からやっていたのか。副社長室で顔を合わすはずだった課長達も集まってきた。そして、暴れようとする山本の身体を押さえ込んだ。すると、だんだんと大人しくなり、身体の力を抜いていった。

「山本。ここはオフィスだ。分かっているな?」

 山本が頷いた。そして、彼の目から涙があふれ出した。もう暴れないだろうと判断した。俺は床に寝ている谷川を起こすように指示をした。彼の方も落ち着いているだろう。枝川が谷川の身体を起こす手伝いをした。谷川が項垂れている。こちらを見ようとしない。怪我をしているのか。

「谷川を保健室へ連れて行ってくれ」
「僕が付き添います」
「ああ、頼む」

 小田チーフと二人の社員が谷川を連れて行こうとした。しかし、力が抜けているのか、立ち上がることができない。小田が谷川の身体を見た。痛いところは?と聞くと、ありませんと答えた。そこへ、早瀬から声がかかった。

「山本君は見ておくから、谷川君のところに行ってあげて下さい」

 早瀬が山本のことを引き受けた。俺は谷川のそばに行き、身体を揺すった。そして、やっとこちらを見た。

「分かるか?俺だ」
「副社長……、俺、いや、僕は……、山本さんに誤解させたんです。喧嘩は僕が悪いです」
「そうか。後で話を聞く」

 谷川の背中を軽く叩いた。立ち上がれるか?と聞くと、はいと返事が返ってきた。南波がそばに来ようとしている。同じチームでやってきた仲間だ。彼の顔を見ると、谷川もまた涙を流し始めた。そして、嗚咽まじりの声を上げた。

「南波君……、俺、本気なんだ……、山本さんもだよ。君のことが好きなんだ……」

 真っ直ぐに南波のことを見つめている。南波は返事をすることなく、身体を起こす手伝いをするためにそばに来た。山本の方を振り返ると、枝川と話をしている。それぞれ別々に話を聞くことにした。

 谷川は保健室へ、山本はこのフロアにあるカフェスペースで待たせることにした。残っているのは散乱したファイル達だ。枝川から、社員達に落ち着いて仕事に戻るようにと指示がされた。課長達はこれから副社長室で会議だ。息を乱している枝川もだ。歩きながら報告を聞くことにした。

「早瀬。悪いが……」
「山本君は俺が見ているよ。田所常務がオフィスにいてくれるそうだよ」
「ああ。頼んだ」

 早瀬の肩を叩き、課長達を伴ってオフィスを出た。昼休憩に入り、午後からは通常の時間が流れ始めるだろうか。午後に枝川からその後の報告を聞く時間を取る。だが、山本と谷川は俺も話をした方が良さそうだ。枝川から事の発端を聞きながら、エレベーターに乗り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~

野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。 残念ながら話もできたし、触ることもできた。 様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。 そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。 厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。 きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。 それから五年。 地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。 真詞の運命が大きく動き出す。 人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半) 別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半) ・前半 巡(人外)×真詞 ・後半 岬(人間)×真詞 ※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。 ※ キスを二回程度しかしないです。 ※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。 ※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...