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5-1 バーテルスの滞在日記(夏樹視点)
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11月16日、土曜日。午前9時。
昨日からバーテルスさんが家に来ている。日本に滞在するのは、今月末までだ。彼が泊まっているのは、お義父さんの家の、大きなベッドのある部屋だ。最初は、黒崎が大学生の時まで使っていた部屋を希望していたのだが、お義父さんが、もっと良い部屋が良いと言い、その部屋に泊まってもらうことになった。
なぜ黒崎が使っていた部屋を希望していたのか。それは、オバケが出るという噂のある部屋だからだ。先月、黒崎がドイツに行ったとき、バーテルスさんに教えたそうだ。黒崎自身はまだ見たことはないらしい。しかし、お客さんが泊まる度に、翌朝、悲鳴を上げるのを何度も経験しているそうだ。それは山崎さんだったり、お義父さんだったりする。
そういう部屋に、俺は泊まらされたことがある。オバケ話が怖いと知っているのにだ。お義父さんはこう言っていた。“君ならオバケが出ないんじゃないかと思った”と。その部屋には壁に落書きがあり、黒崎が子供の頃に描いたものだ。拓海さんから、この壁なら自由に落書きしていいよと勧められたものの、そんなに言われると描けなくて、何か描かないといけないと思い、その何かを描いたのを黒崎は覚えているそうだ。落書きは、ほんの少ししかないから、お客さんに泊まってもらっていたらしい。日当たりがいいし、月がよく見える位置にある部屋だからだ。
今、お茶の用意をしているところだ。リビングにはバーテルスさんがくつろいでいて、黒崎が相手をしている。話題はバーテルス家に起きた最近の出来事だ。エミリアさんが離婚を切り出した後、夫のフェリックスさんが倒れたという話と、フェリックスさんが病室から息子であるバーテルスさんに電話を掛けてきたという話だ。
さすがに出ないといけないと思い、電話に出たら、お母さんを呼んでくれと頼まれたそうだ。病室では最近付き合い始めた恋人が付き添っていたそうだ。それでもフェリックスさんは“お母さんがいい”と言い出したそうだ。恋人はどう感じただろうか。それだけの関係とか、それぐらいの想いしか向けていなかっただろうと、バーテルスさんはガッカリしたということだ。そこで、お母さんと離婚して、その人と再婚しろと言うと、“とにかくお母さんを呼んでくれ”と言い出す始末で、エミリアさんを呼ぶしかなくなった。
バーテルスさんが紅茶の良い香りがすると言いながらも、ため息をついた。その彼のことを黒崎が慰めている。
「全く……。そんなにお母さんがいいなら、もっと大事にしてほしかった。愛人は全部で3人だ。別れた人も含めたら、総勢15人だ。家には帰ってきていなかったくせに……。バーテルス家を任せるのは反対しないよ。彼女と家を作り出せば良いと思っている……」
「ユーリー。君は家を継がないのか?兄貴は拒んでいるだろうが……」
「父が亡くなったときに考えるよ。長生きしそうだ。ああ、夏樹。変な話を聞かせてすまなかったね。お茶をありがとう。いただきます……」
「いいんだよ。この紅茶、美味しいんだよ。近所の人から教えて貰ったんだ~」
「ああ、美味しい。メリーゴーランドの形をした物が、君は好きだって言っていただろう。あの灯りを使ってもらえて嬉しかった。夜、庭に出て、隆さんと眺めたよ。思った通りだった。圭一が住んでいた部屋にも、お邪魔させてもらったよ。何も出なかったよ……」
バーテルスさんは流暢な日本語を話す人だ。俺は大学でドイツ語クラスで学んでいたせいで、お義父さんから、彼とはその言葉で話すように言われたばかりだ。バーテルスさんがドイツ語で話してくれていたが、聞き取れない言葉があり、彼が後で日本語で解説してくれた。そして、とうとう日本語で話すことになった。なんだか恥ずかしいと思った。黒崎からは意地悪を言われている。
昨日からバーテルスさんが家に来ている。日本に滞在するのは、今月末までだ。彼が泊まっているのは、お義父さんの家の、大きなベッドのある部屋だ。最初は、黒崎が大学生の時まで使っていた部屋を希望していたのだが、お義父さんが、もっと良い部屋が良いと言い、その部屋に泊まってもらうことになった。
なぜ黒崎が使っていた部屋を希望していたのか。それは、オバケが出るという噂のある部屋だからだ。先月、黒崎がドイツに行ったとき、バーテルスさんに教えたそうだ。黒崎自身はまだ見たことはないらしい。しかし、お客さんが泊まる度に、翌朝、悲鳴を上げるのを何度も経験しているそうだ。それは山崎さんだったり、お義父さんだったりする。
そういう部屋に、俺は泊まらされたことがある。オバケ話が怖いと知っているのにだ。お義父さんはこう言っていた。“君ならオバケが出ないんじゃないかと思った”と。その部屋には壁に落書きがあり、黒崎が子供の頃に描いたものだ。拓海さんから、この壁なら自由に落書きしていいよと勧められたものの、そんなに言われると描けなくて、何か描かないといけないと思い、その何かを描いたのを黒崎は覚えているそうだ。落書きは、ほんの少ししかないから、お客さんに泊まってもらっていたらしい。日当たりがいいし、月がよく見える位置にある部屋だからだ。
今、お茶の用意をしているところだ。リビングにはバーテルスさんがくつろいでいて、黒崎が相手をしている。話題はバーテルス家に起きた最近の出来事だ。エミリアさんが離婚を切り出した後、夫のフェリックスさんが倒れたという話と、フェリックスさんが病室から息子であるバーテルスさんに電話を掛けてきたという話だ。
さすがに出ないといけないと思い、電話に出たら、お母さんを呼んでくれと頼まれたそうだ。病室では最近付き合い始めた恋人が付き添っていたそうだ。それでもフェリックスさんは“お母さんがいい”と言い出したそうだ。恋人はどう感じただろうか。それだけの関係とか、それぐらいの想いしか向けていなかっただろうと、バーテルスさんはガッカリしたということだ。そこで、お母さんと離婚して、その人と再婚しろと言うと、“とにかくお母さんを呼んでくれ”と言い出す始末で、エミリアさんを呼ぶしかなくなった。
バーテルスさんが紅茶の良い香りがすると言いながらも、ため息をついた。その彼のことを黒崎が慰めている。
「全く……。そんなにお母さんがいいなら、もっと大事にしてほしかった。愛人は全部で3人だ。別れた人も含めたら、総勢15人だ。家には帰ってきていなかったくせに……。バーテルス家を任せるのは反対しないよ。彼女と家を作り出せば良いと思っている……」
「ユーリー。君は家を継がないのか?兄貴は拒んでいるだろうが……」
「父が亡くなったときに考えるよ。長生きしそうだ。ああ、夏樹。変な話を聞かせてすまなかったね。お茶をありがとう。いただきます……」
「いいんだよ。この紅茶、美味しいんだよ。近所の人から教えて貰ったんだ~」
「ああ、美味しい。メリーゴーランドの形をした物が、君は好きだって言っていただろう。あの灯りを使ってもらえて嬉しかった。夜、庭に出て、隆さんと眺めたよ。思った通りだった。圭一が住んでいた部屋にも、お邪魔させてもらったよ。何も出なかったよ……」
バーテルスさんは流暢な日本語を話す人だ。俺は大学でドイツ語クラスで学んでいたせいで、お義父さんから、彼とはその言葉で話すように言われたばかりだ。バーテルスさんがドイツ語で話してくれていたが、聞き取れない言葉があり、彼が後で日本語で解説してくれた。そして、とうとう日本語で話すことになった。なんだか恥ずかしいと思った。黒崎からは意地悪を言われている。
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