青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 12時。

 今、お義父さんの家のダイニングに居る。バーテルスさんが大きな器に盛られたカツ丼を前にして、喜びの声を上げた。作ってくれたのは山崎さんだ。さっそくお礼を言っているのを見た。

「山崎さん。ありがとうございます!」
「味は濃いめにしています。お口に合うといいのですが……」
「匂いで分かるよ!美味しそうだって……」

 ダイニングには俺と黒崎と二葉、お義父さんが揃っている。一貴さんは仕事の用件があり、家を留守にしているが、夕方頃に帰ってくる予定だ。もちろん、みんなと一緒に、今夜の心霊スポットに出かける予定だ。本人は楽しみにしていると、ラインで書いていた。一貴さんは霊感があるから、俺としては一緒に来てくれてありがたい。何か起きても平気だろうと思うからだ。

 お義父さん以外はカツ丼を食べる。お義父さんは中華飯だ。以前カツ丼を食べ過ぎて胃を壊して以来、食べなくなった。お義父さんは何でもよく食べるし、お肉も大好きだ。しかし、年に勝てなくなったようだと、野菜多めの薄味の料理を食べるように変わった。山崎さんがお義父さんに用意してくれた中華飯は優しい味がするようで、おかわりをすることもある。

 話題は今夜のことだ。心霊スポットに行くことになり、晴海さんと聖河さんも誘ってある。2人とも、俺がラインで誘うと、馬鹿馬鹿しいということが書かれて返ってきた。そこを何とかお願いしますと書いて送り、2人に来てもらうことにした。一貴さんとお義父さんの仲介役が欲しかったからだ。親子鑑定の話が出て以来、ギクシャクしがちだからだ。この家で集合だ。マイクロバスが欲しいねと、お義父さんが笑った。バーテルスさんへのおもてなしになるだろうとも。

 バーテルスさんが二葉の隣に座っている。ドイツですっかり打ち解けた様子で、彼の言う冗談に反応して、二葉がツッコみを入れている姿を眺めた。黒崎は俺の隣に座り、お茶のおかわりが欲しいと言ってきた。山崎さんが立ち上がるのを黒崎が止めて、俺が立ち上がることにした。

「みんなーー。お茶のおかわりが欲しい人は手を上げてね!ん?いないの?俺達だけだね。ふん。それなら、冷たくなって渋くなったやつを入れ直すよ~。さーーて、どこだったかな~。あのお茶は~」

 俺が煎れようとしているのは、納屋で見つけた、缶に入ったままのお茶っ葉だ。ワインのように熟成されているかも知れないと興味が沸き、この家のキッチンで煎れてみたところ、渋くてなんだか冷たくなったし、美味しくないやつだった。是非とも黒崎に飲ませてあげたくて、置いたままにしてある。そして、その缶を見つけた。

「うへへ。これだったよね。バーテルスさんの前だから怒らないよね、黒崎さん……」

 今日は良い気分だ。黒崎の機嫌が良い。いつも良い人だけれど、昨日から特にそう感じている。バーテルスさんがいるからだろう。これで今夜は早瀬さんと悠人も来てくれるから、いっそうそうなるだろう。黒崎にとって気晴らしになると思った。そこに、このお茶を出すわけだ。黒崎は怒らないはずだ。俺がすることではそうなったことはないからだ。文句は言われるかも知れない。

 コポコポ……。

 これは緑茶だった。茶瓶にお茶っ葉を入れた後、ポットのお湯を注ぎ入れた。そして、お水を少し足して、ぬるくした。これで完成だ。

「おまたせ~。出来たよ~」

 茶瓶を俺達の前に置いた。すると、黒崎がどうしたんだ?と聞いていた。さっそく何かあるのだろうと気がつかれてしまった。3分ぐらい置いた方が良かったから、黒崎にはカツ丼に集中してもらうことにした。そして、時間が過ぎて、目の前のお茶を黒崎の湯飲みに注ぎ入れた。匂いはしていない。しかし、味は濃厚だ。そして、黒崎のそばに置いた。

「はい。入ったよ。どうぞ~」
「ああ。すまない。……ん?なんだこれは?」
「遠くのスーパーで買ってきた茶葉で煎れたんだ。美味しいよ?」
「そうか。……ん。これは古い茶葉じゃないのか?」
「乾いたままだったよ。お義父さんと一緒に見つけ出したんだ。30年前に買ったお茶だってさ。思い出があるそうだよ。見つけたのは、納屋だよ」
「……おい」

 黒崎が眉間に皺を寄せながらも、飲み続けた。さすがだ。黒崎は残そうとしない。
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