青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 すると、黒崎が俺の肩を抱いた。ビニールハウスのそばに座っておけという。それだけは嫌だ。また怖い思いをするに決まっている。何か見るのだろう。星はここからでも観られると断ると、強引にユーリーのそばに連れて行かれように歩き始めた。黒崎の力が強いから、足が勝手に動いていく。転ばないようにだ。

「やだってば。オバケは見たくないんだ。それに、虫除けスプレーをしてない、ううん、さっきしたんだった……。あんたが強引に……。蚊がいたもんね。このためだったのかよ?狙っていたんだろ~?」
「ああ。彼のことだ。また行くと言うだろう。午前1時頃にも目撃情報があるらしい。そうなんだろう?」
「あ、そうなんだよ。スタイリストのミカさんが見たのは、その時間より手前なんだ……。でも、ノアが調べたら、1時すぎに、おじさんのオバケの目撃情報があるらしいよ。肩に乗るぐらいの背の高さなんだって。妖精とかじゃないかな……。あ、黒崎さん、ここは人前だよ~」
「ばかやろう。何か顔に付いているから取ってやっただけだ。木の葉だ。ほら、もういいぞ。早く来い」
「強引だよ~~」

 黒崎が素っ気なく目をそらせた。そして、ビニールハウスのそばに座り込んで星を眺めているユーリーのそばまで行くと、繋いでいた手を離した。人前だからだ。俺達2人の時は繋いだままだ。そう思って顔が熱くなった。恥ずかしくなったからだ。それに、そう言う黒崎は優しいから嬉しくて、胸がドキドキしていることも思い出すことができた。そして、寄り添うようにして、ユーリーの隣に座った。頭上にはやはりペガスス座が浮かんでいて、ユーリーが指で星座を辿って教えてくれた。日本の夜空が大好きだそうだ。

「アンドロメダ座がある。これを見ると、日本の秋だと分かる。圭一、来月誕生日だっただろう。一緒に祝えなくてすまない」
「いや、気にしないでくれ。君はドイツに帰っているだろう。ああ、38歳になる。ユーリーは今月誕生日だろう。ああ、もう40になるのか。月日が経つのは早いな……」
「お母さんからパートナーを見つけろとうるさく言われている。兄貴もだ。兄は44歳になったところだ。ああ、一貴さんは46歳だったね。みんな決まった相手がいないのか……。はははは!これで自信がついた。僕に心の余裕が出来たよ。夏樹、君は早いほうだったね。高校生の時に、圭一に決めたんだろう?伊吹から聞いたぞ」
「え?いつの間に、うちのお兄ちゃんと付き合いができたんだよ?メール交換しているの?変なことを聞かされても、スルーしてよ~」
「はははは!向こうのテレビに、伊吹と会社の人が映っていたよ。インタビューされていて、うちの出版社のことも宣伝してくれていた。その動画がないだろう?うちの親父に頼んで、取り寄せてもらえる。そうしようか?あ……」

 ユーリーが口が滑ったと良い、焦った顔をした。そして、沈み込んだ顔に変わった。お父さんとは二度と会わないと決めた彼だ。つい口から出てしまったという感じだ。

「ユーリー。気にするな。頼んでもらっても良いんだぞ。君さえ良ければ。ああ、すまない。そうだったな。もう二度と会わないんだったな。でも、映像を頼むことはしてみたらどうだ?倒れているんだろう。何も話さないわけにはいかないだろう」
「アレクシスが会うことになっている。その時に頼んでもらうよ。何か話題がないとね……。放送日は覚えている。観光のお客さん向けのイベントでインタビューされていた中山伊吹と言えば、父も覚えているはずだ。伊吹が言うには、図々しくも、5分間も枠を独占して生中継に出たそうだ。記者とカメラマンを帰そうとしなかったそうだぞ。まあ、面白い人だったからだろうな。引っ込み思案の君とは似ているようで、異なる存在だね?」
「うん。お兄ちゃんとは顔だけしか似ていないんだ。ユーリーもお兄ちゃんのことを、そう思うの?図々しいって評価してもらえて嬉しいよ。お兄ちゃんにとって、表彰状のような物なんだ」

 俺も夜空を見上げた。そして、ユーリーと同じ星座を指先だ。アンドロメダ座だ。俺はこの星座の神話が好きで、よく本を読んでいた。生け贄にされたアンドロメダ姫を救ったペルセウスが、アンドロメダ姫と結婚し、幸せになった話だ。ペガスス座に出てくるペガサスもかっこいいと思う。子供の頃、英雄に憧れていた。俺の中の身近な英雄は伊吹だった。かっこよかった。
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