青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 午前10時。
 
 商店街に到着した。さっきコロッケ屋のおじさんが開店準備をしていて、挨拶をしたところだ。お向かいにはスイーツショップと焼き鳥屋さん、鯛焼き屋さんが軒を連ねている。茶葉の店は手前の方にあり、先にアンのリードを持って歩いていたユーリーがたどり着いた。

「俺がアンと一緒に待っているよ~。黒崎さーん、途中で交代してね!」
「ああ。行って来る。菓子は買わないぞ。また食事が入らなくなるだろう。買うのは、俺とユーリー、二葉の分だ。一貴もお前と同じだ」
「カズ兄さんは最近、食が細いんだ。お菓子で良いからカロリーを取らないと、身体が持たないよ。元から偏食気味だけどさ……。ね、カズ兄さん……。あれ?どこに行ったんだよ。いないよ?」
「さっきまでいたんだが……」
「どこだろうね?おーーーい!」

 二葉がそばの電柱に向けて声をかけると、なんと、店の中から一貴さんが出てきた。いつの間に入ったのだろう。たしか、俺と黒崎の後を、二葉と一緒に歩いていたのに。黒崎のように気配を消せるということだろうか。黒崎も驚いている。

「おい。いつ入ったんだ?気がつかなかったぞ……」
「黒崎さんが傷ついたよ。何でも気がつく人なのにねえ。カズ兄さんの方が兄貴だもん。一歩抜きん出ているんだよ。うひゃひゃひゃ。いたい!ヤキモチを焼くなよ~っ」
「うるさい。アンのリードを持っていてくれ。ああ、二葉、いいのか?」
「いいよ。俺が持っているから、行っておいでよ」

 黒崎がアンのリードを二葉に持たせた。彼女に任せて、俺達は店の中に入った。すると、ユーリーがホットコーヒーの試飲をしていた。この店は珈琲豆も売っている。最近になって始まったそうだ。店主お勧めのコーヒーを、俺達もらった。奥さんが、外で待っている二葉にも渡してくれていた。そのうちペットも入店可に移るそうだ。この辺りは犬の散歩中の人が多いからだろう。

緑茶と珈琲豆の良い匂いが漂っている店内では、朝早くからイートインコーナーでお茶を飲んでいる人達がいる。その中には遠藤さんがいて、俺の方を向いて、ニコッと笑いかけてくれた。奥さんの佳代子さんはお留守番だという。

「遠藤さんも来ていたんですね!俺達はお茶っ葉とお菓子を買いに来たんです。その後、いかがですか?フリージアちゃんの様子は……」
「ああ、心を許してもらえつつある。大変だよ。子猫の面倒は……」
「可愛いでしょう。いいなあ。俺も猫が欲しいなあ。でも、アンが落ち着かないから、もう一匹は無理だなって思っているところなんです……」
「はははは!リクも同じだったよ。ふーちゃんが来て以来、うちの佳代子さんが付きっきりだったから、一体どうしたんだって不安になっていたようだ。もう自分でご飯を食べられるようになったから、随分と落ち着いたよ。ミルクは2時間おきに飲ませていたから、眠かったよ。……この珈琲、美味しいよ」

 俺の前に珈琲の試飲カップが置かれた。さっそく3杯目を飲もう。今日は5種類出ているそうだ。黒崎が今、2杯目を飲んだところだ。一貴さんはおせんべいを食べている。ユーリーは奥さんと話していて、買い付けに行った先での出来事を聞いているところだ。俺と遠藤さんはまったりとくつろいで、向かい合って座っているところだ。

「いただきまーす。ほんとだ。甘くて美味しなあ。買っていこうかな?でもなあ、この間、沢山珈琲豆を買ったばかりなんです。俺がよく飲むから……。あ、やっぱり買っていこうっと……」
「久弥君はどうだった?リハーサルは緊張感の連続だろう?」
「はい……。絶対に失敗しちゃいけないっていう感じの空気感です」
「ベテランなのになあ。でも、彼がリラックスさせようとしているだろう?」
「はい。俺達やスタッフさんに気を遣っているんです。最後ぐらい、思うようにやってもらいたくて、だから、俺も悠人も足を引っ張らないようにって、付いていくのに必死なんです~」

 思わず弱音を吐いてしまった。フロントマンとして俺に何が出来るだろうと思案した結果、きちんと歌い切るという答えが出た。それには技術が追いついていないといけなくて、焦ってばかりいるのが現状だ。
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