青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 アンはフードを食べた後で褒められる習慣がついている。こうしないとけないと思っているのかも知れない。俺が犬語を話せたら良いのにと思う瞬間だ。無理矢理はいけないから、話してみたい。

「アンーー。そのフードのこと、どう思ってる?美味しいかな?」

 今食べさせているドッグフードは脂肪控えめの、ダイエットを兼ねた商品だ。腹持ちはどうだろうかと気になっている。俺もプロテイン飲料を飲み、身体の引き締めを狙っている。お互いに調整し合っている仲間だ。

 クンクンと、アンが俺の顔に鼻をひっつけて、匂いを嗅いできた。大丈夫だということだろう。そう受け取ることにした。後で茹でたさつまいもを小さくカットしたものをおやつで食べさせるつもりだ。アンはこれが好きで、習慣化しているから、ますますフードを食べてくれるというわけだ。

「アンーー、君は良い子だね。パパなんか、ほんの少しのマスタードの量で、辛いとかアクセントが足りないとか言い出すんだよ~。お醤油の種類も変えたら分かるんだ。でも、会食で出た食事はペロッと食べるんだ。美味しいからだよねえ。そうなんだよ。一流のシェフには叶わないよ~。俺の嘆きを聞いてよ……」
「夏樹。それは伝わりそうだ。パパと言ったら、俺のことだと分かっているはずだ」
「うひゃひゃひゃ。アンが喋ったら、どんなだろうね……。さあ、支度の続きをしなくちゃ……」
「昼食はフレンドリーラブリーのアフタヌーンセットにする。裕理から誘われたから、行って来る」
「そうなんだね!その後でホールに来るの?」
「ああ。そうさせてもらう」

 今日はコンサートホールでリハーサルが行われる。夕方頃から、衣装提供のプラセルと、スポンサー企業の黒崎製菓が招待したお客さんの見学が始まる。とはいっても、1時間の短い時間だ。

 俺は本番と同じように歌い上げて、それでいいかどうかを決める。悠人も俺と同じだ。久弥は高宮さんと同じくプロデューサーの立場で参加する。演奏側と裏方両方が出来ることがすごいと思う。そして、彼の集中力にはとても叶わなくて、驚きと感激と憧れと、高い壁を感じて落ち込むこともある。これがナーバスになっているという現象らしい。

 本番では楽しく歌いたい。しかし、それどころではないと感じている。なにせ、久弥の引退コンサートだ。ファンが納得するようにしなければならない。ギターの相方を務める悠人のプレッシャーは相当なものになる。

 そして、聡太郎が3曲ギターで参加する。テクニックがずば抜けているから、久弥の後任ギタリストとして認めてもらえると、久弥が言っていた。高宮さんもだ。それには、俺の歌が上達しないと成立しないぞと高宮さんから言われたことを思い出し、胃が痛くなってしまった。
 
「いたたたた……」
「夏樹、どうした?」
「胃が痛くなったんだ。少し横になるよ……。ごめんね。ちょっと一休みするよ。パンとコーヒーを食べていてね……」
「支度は良いから寝ておけ。何か腹に入れた方が良いんじゃないのか?」
「うん。パンを食べるよ。寝ながら……。行儀が悪いけど……」
「こういう時は気にしなくていい。さあ、横になれ……」

 黒崎が俺の身体を支えてくれた。俺はソファーに横向きに寝て、お腹に手を当てた。そして、黒崎が持って来てくれたロールパンにかじりついた。
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