青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ロールパンの温かさが心に染みて、涙が出た。アンだってそばにいてくれる。黒崎もだ。彼は今、珈琲とロールパンを持った容器を持って来て、ソファーの前のテーブルに置き、食事を始めた。俺は黒崎の背中を見ながら、持っているパンの3口目を食べた。

「美味しいなあ。やっぱり田中屋だよ……。あんパンも美味しいし。スタッフさんが気に入ったんだ。そう言えば、田中先生、無事にこっちに着いたかな……。まだラインが入っていないんだ」
「夏樹。まだ午前5時半だ。飛行機の時間は7時10分だろう」
「そっか。またその時間か~。先生が公演を観に来てくれるなんてなあ。デビューステージも観に来てくれたけど、今回も忙しいのに来てくれるんだ。開明の生徒が問題を起こしてさ~。報道陣の取材に答える先生を見てしまうなんて……」

 それは校内で起こった傷害事件だ。怪我をした生徒は回復して、登校を始めている。ナイフで刺した生徒は警察の管理下の元にいる。怪我人は4人いる。ナイフを持った生徒を取り押さえようとした生徒と、刺された生徒だ。

 25年前にも同じ事件が起きて、廃校になりそうになっていた。しかし、保護者と生徒と先生が頑張って、存続を続けた。それ以来、何も起こっていなかったそうだ。生徒は心を閉ざしている子ばかりだが、居場所を見つけて落ち着き、卒業するときにはニコニコした笑顔で写真に残っている。俺もその中の一人だ。

 開明高校の創立メンバーにはお義父さんの友達がいる。そして、拓海さんが支援団体のメンバーに入っていたから、拓海さんが亡くなった後、お義父さんが引き継いで、メンバーに入っている。だから、お義父さんにも事件の一報が素早く入り、俺に知らせてくれた。しばらくして落ち着き、田中先生がコンサートを観に来れるまでになった。本当は自粛したかったのを、俺が無理矢理呼んだ状況だ。お義父さんも協力してくれた。

「先生の白髪が増えているんじゃないかな。うちのお父さんにも取材が来たんだ。俺の出身校だからだと思うけど……」
「お前には取材は来させない。コンサートに集中しろ。森本君達も来てくれるんだろう」
「うん。藤沢もスケジュールを空けてくれたんだ。パリから帰ってくるんだよ。カズ兄さんが喜ぶよ……」
「同級生の斉藤君が、教員で採用されるそうだ」
「マジで?何も聞いていないよ。遠慮したのかな……」
「後で連絡を取ってみろ。ああ、俺に電話が入った。伊吹君からだ……」
「出てよ。俺のことは良いからさ……」
「そうか。出る……」

 黒崎がテレビをつけた後、伊吹からの電話に出た。俺は横になったままでお茶を飲み、パンをお腹に入れた。テレビ画面では、お天気キャスターのお兄さんが、今日の都内の天気を解説している。

 下の方には見出しがあり、TDDという言葉があった。コンサートリハーサルの宣伝をかねて、取材が入っている。俺と悠人は10分間のみのインタビューを受けて、後は久弥が答える形だ。

 大和と聡太郎のお披露目もある。そのことで、伊吹が電話を掛けてきたのだろうと思った。もちろん、伊吹には事件のことで週刊誌からの取材が入り、コメントを求められて答えたそうだ。早く元通りの学校に戻ることを願っているという回答だった。週刊誌でそれを見た。

 大々的に開明高校の写真が載せられており、生徒としては落ち着かないわけではなく、禅宗のお坊さんが来てくれて、呼吸法と瞑想を練習して、礼拝に参加しているそうだ。だから、みんな大丈夫だと落ち着いているのだと、お義父さんから教えてもらえた。
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