青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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7-15(夏樹視点)

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 15時。

 コンサート会場でのリハーサル中だ。2日間で2万人を動員する規模のコンサートは初めてのことで、会場の広さに圧倒された。数年前の俺と悠人は、ベテルギウスのコンサートに行きたいと思って動画で観ていた光景だ。

 ここはIKU所有のホールであり、大中小と規模が分かれていて、コンサートの他にも、ファッションショーをやったり、展覧会が開かれたりしている会場だ。そのお客さんの姿が窓から見えた。その日常の光景にホッとして、足の力が抜けてしまい、久弥から支えられた。

 俺は今まで2500人収容のホールしか経験がなくて、こんなに大きな会場は初めてのことだ。機材も大きなものが並んでいる。ステージの照明や演出効果も派手だ。そして、暑い。20分立っているだけで汗が流れ始めて、クーラーの風を強めてもらった。すると、すぐに冷えてきて、すーーっと息を吸うことが出来た。

「夏樹。そろそろ控え室に戻るぞ。飯を食え。次の休憩は4時間後だ」
「そうだったね。あっという間だよ。ゆうとーー。どこだよーー」
「ここだよーーー」

 悠人のことを呼びかけると、意外な場所から返事があった。彼がいたのは、機材が並んでいる後ろ側だ。どうしてもお腹が空くから、隠れてパンを食べていたのだという。その様子をカメラマンが撮影している。

「ぎゃははは。除夜の鐘を突いてこい。空腹が消えるかも知れないぞ」
「食欲が消えるならそうしたいよ。グーーグーー鳴っているんだ。夏樹は反対でーーす。いつも食べてばかりの俺とは……。ほら、腹筋が割れているでしょう?俺は腹が出そうなんです……」

 悠人が俺の隣に立ち、俺のお腹をさすった。カメラマンに話しかけている。それは仙頭さんであり、リラックスムードだ。周りのスタッフからの笑い声も起きた。今撮っている映像は、動画配信サイトで流すそうだ。

「佐伯さーーん。取材が入っているそうです!」
「はーーーい!」

 久弥に呼び出しが入った。マネージャーの蓮司さんは事務所にいるから、彼の姿がないことが不思議だった。表舞台を引退した後も、コンビを組んで歩くと言っていた。ファンの間では、何も引退することはないだろうという声が寄せられているそうだ。しかし、久弥の意志は堅く、裏方に徹したいと言っている。

(でもなあ……。そうならないんじゃないかな……。ほら、このスケジュール……)

 俺の手元には、悠人と久弥のスケジュール表がある。今日のリハーサルだけでも取材の数が相当あり、久弥の姿をカメラに収める人の、なんと多かったことか。きっとプロデューサー業のみに転身した後も取材は多いだろうから、断り切れず、メディアに久弥の映像が流れることは変わらないのだと思った。

 しかし、久弥は過去に精神的に落ち込んだ時期があり、声帯を痛めていることもあり、引退を選んだ。気分の強弱が影響しているらしい。ステージに立つときは高揚感の中にいて、いつもの自分とはかけ離れた感覚になるそうだ。その時間が終わると、身体が鉛のように重くなり、気分の落ち込みが訪れるのだという。ずっとステージに立っていたかったのが本音だと言っていたから、それを聞いた時は胸が痛かった。

「ああーー、俺も同じなんだよ。ステージが終わった後って、身体が重くってさーー。何もする気がなくなるのは無くなったけど……」
「なつきーー。心配するなよ!俺達がついているから!」

 ばし!悠人と久弥に肩を叩かれた。去年のコンサートでは、こういう時、はっと我に返っていたのに、今はそれがない。ちゃんと自分はここにいて、魔物に取り憑かれているような感覚はない。
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