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その蔵之介さんが久弥のことを見て、また微笑んだ。久弥は俺が見ているからなのか、顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。そして、俺に教えてくれた。蔵之介さんと付き合っている事実はあるが、まだ好きだと告白していないのだと。今日のコンサートが終わった後、彼に告白する約束なのだそうだ。
「そんな大事なこと、俺に教えてくれていいのかよ?俺、今、無理矢理に言わせてあげようか?」
「ぎゃははは。約束を無かったことにしたいからだ。俺の性に合わない。そういうことだ。ムードが壊れたから、告白はやめることにする。良いだろう?」
「いいぞ。また今度、言ってくれ」
「そう言われると、言いたくなるんだよなーー」
久弥が蔵之介さんの隣に立ち、ツンツンと背中を突いた。それはいかにも仲が良さそうであり、幼なじみとしての濃い時間を過ごしてきた2人だと感じることが出来た。
俺の方も黒崎に視線を向けてもらいたくなった。そこで、振り向くと、別の人達と挨拶を交わし始めたから、あっさりと諦めた。彼が今やっているのは、一貴さんのイメージを上げることだ。決して好かれていない”プラセルの島川社長”の弟として、感じのいい人だと思って貰えるようにしているのがよく分かる。
すると、黒崎と話している人が彼のことを促して、この場を離れようとした。一緒に外で話そうということだろう。しかし、黒崎は穏やかな声で断っている。そして、相手の人から名刺を渡されていた。それを黒崎はスーツの内ポケットに入れて、さようならと挨拶して、次の人と話し始めた。
(え?まさか、さっきの、何かの誘い?)
そう思った瞬間、背中がヒヤッとした。黒崎が”さようなら”と挨拶することなんて、今まで聞いたことがない。すると、それを言われた男性が俺の方を向いて、ニコッと微笑んだ。
「あの……」
「ナツキさん。僕はプラセルコーポレーションの六槍謙昭と申します。社長秘書をしています」
「ああーー、六槍さん!」
名前を名乗られて驚いた。一貴さんの秘書だ。一貴さんが家で仕事をする機会が増えた時期に、よく電話がかかっていた。黒崎家の電話番号にだ。たまに俺が取り次いでいた。一貴さんは熱中しているときは携帯電話を取らないから、秘書さんには家の電話に連絡してもらっていた。
秘書は六槍さんの他にも数人いる。しかし、よく変わるから、名前を覚えきれない。ただし、六槍さんは一貴さんが黒崎家に引っ越してきてからずっと秘書をしているから、すっかり名前が馴染んでいる。実際に会ってみたいと思っていた。
「はじめまして!兄がお世話になっています」
「こちらこそ、社長にはよくしてもらっています。敬語はやめてください」
「いえ、そんなことはできません」
「いや、一貴さんに振り回されている仲間でしょう。僕たち……」
「え?」
六槍さんの”一貴さん呼び”に驚いてしまった。随分親しげだ。こういう時は落ち着いて対応しないといけない。敵か味方かなんて思いたくないが、黒崎家にはそういう分別が必要だと身に染みて分かっている。俺は笑顔を崩さないようにして、まるで法事に出ている気分に切り替えて、六槍さんの前に立った。
「夏樹さん。他人行儀はやめましょう。お兄さんの中山社長の仕事を妨害したのはプラセルの島川社長ですが、実際に行動したのは僕ですから」
「え?」
「伊吹お兄さんの仕事を妨害したのは、僕です。中山社長は気が弱くて、頼りない印象だと、嘘の情報を流しました。ペラペラと喋ったのみですが、瞬く間に広がりまして……。どうやら島川社長と仲が悪いようだという印象を持ってもらえて、ブロッコリー社の勢いを削いだわけです。しかしながら、その後、ワタベ電機の社長が噂に興味を持ち、伊吹お兄さんと会食の機会を持ち、彼のことを可愛がるようになった。業績はアップした。僕のおかげと言えるでしょう」
「はあ……」
一体なんだろう、この人は。伊吹のことを陥れたことを正直に話している。しかも、その後のことを自慢げにしている。こんな人、見たことがない。
「そんな大事なこと、俺に教えてくれていいのかよ?俺、今、無理矢理に言わせてあげようか?」
「ぎゃははは。約束を無かったことにしたいからだ。俺の性に合わない。そういうことだ。ムードが壊れたから、告白はやめることにする。良いだろう?」
「いいぞ。また今度、言ってくれ」
「そう言われると、言いたくなるんだよなーー」
久弥が蔵之介さんの隣に立ち、ツンツンと背中を突いた。それはいかにも仲が良さそうであり、幼なじみとしての濃い時間を過ごしてきた2人だと感じることが出来た。
俺の方も黒崎に視線を向けてもらいたくなった。そこで、振り向くと、別の人達と挨拶を交わし始めたから、あっさりと諦めた。彼が今やっているのは、一貴さんのイメージを上げることだ。決して好かれていない”プラセルの島川社長”の弟として、感じのいい人だと思って貰えるようにしているのがよく分かる。
すると、黒崎と話している人が彼のことを促して、この場を離れようとした。一緒に外で話そうということだろう。しかし、黒崎は穏やかな声で断っている。そして、相手の人から名刺を渡されていた。それを黒崎はスーツの内ポケットに入れて、さようならと挨拶して、次の人と話し始めた。
(え?まさか、さっきの、何かの誘い?)
そう思った瞬間、背中がヒヤッとした。黒崎が”さようなら”と挨拶することなんて、今まで聞いたことがない。すると、それを言われた男性が俺の方を向いて、ニコッと微笑んだ。
「あの……」
「ナツキさん。僕はプラセルコーポレーションの六槍謙昭と申します。社長秘書をしています」
「ああーー、六槍さん!」
名前を名乗られて驚いた。一貴さんの秘書だ。一貴さんが家で仕事をする機会が増えた時期に、よく電話がかかっていた。黒崎家の電話番号にだ。たまに俺が取り次いでいた。一貴さんは熱中しているときは携帯電話を取らないから、秘書さんには家の電話に連絡してもらっていた。
秘書は六槍さんの他にも数人いる。しかし、よく変わるから、名前を覚えきれない。ただし、六槍さんは一貴さんが黒崎家に引っ越してきてからずっと秘書をしているから、すっかり名前が馴染んでいる。実際に会ってみたいと思っていた。
「はじめまして!兄がお世話になっています」
「こちらこそ、社長にはよくしてもらっています。敬語はやめてください」
「いえ、そんなことはできません」
「いや、一貴さんに振り回されている仲間でしょう。僕たち……」
「え?」
六槍さんの”一貴さん呼び”に驚いてしまった。随分親しげだ。こういう時は落ち着いて対応しないといけない。敵か味方かなんて思いたくないが、黒崎家にはそういう分別が必要だと身に染みて分かっている。俺は笑顔を崩さないようにして、まるで法事に出ている気分に切り替えて、六槍さんの前に立った。
「夏樹さん。他人行儀はやめましょう。お兄さんの中山社長の仕事を妨害したのはプラセルの島川社長ですが、実際に行動したのは僕ですから」
「え?」
「伊吹お兄さんの仕事を妨害したのは、僕です。中山社長は気が弱くて、頼りない印象だと、嘘の情報を流しました。ペラペラと喋ったのみですが、瞬く間に広がりまして……。どうやら島川社長と仲が悪いようだという印象を持ってもらえて、ブロッコリー社の勢いを削いだわけです。しかしながら、その後、ワタベ電機の社長が噂に興味を持ち、伊吹お兄さんと会食の機会を持ち、彼のことを可愛がるようになった。業績はアップした。僕のおかげと言えるでしょう」
「はあ……」
一体なんだろう、この人は。伊吹のことを陥れたことを正直に話している。しかも、その後のことを自慢げにしている。こんな人、見たことがない。
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