青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 その日は金曜日であり、伊吹は保育園に行っていた。母が伊吹のことを送り届けた後、陣痛が始まり、とうとう病院に行くことになった。伊吹の保育園の迎えは、父方の祖父がしてくれることになっていたから、母は祖父に電話をかけて、伊吹のことを頼んだ。

 父は事務所で仕事していたが、午後から相談の対応があり、夕方頃には病院に来られる予定だったが、その時のお客さんに渡す書類のことをすっかり忘れていて、その人が事務所に戻ってきてくれて、無事に渡した後、母の元に駆けつけた。その頃、ちょうど祖父が伊吹のことを迎えに行ってくれていたから、父は安心していた。伊吹は祖父のことが好きだったから、家に遊びに行く感覚だったらしい。厳しい祖母のことは遠巻きにしていたという。しかし、よく可愛がって貰ったそうだ。

 父が母の部屋についたら俺が生まれて、男の子だと看護師さんから報告を受けたそうだ。名前は夏樹にすると決めていたから、父は他に考えることも、特にすることも無くて、ただ静かに廊下で待っていたそうだ。そして、母の実家の両親や、自分の親に報告しないといけないと思い出し、まず先に母の実家に報告した。そして、中山家に報告すると、2人目も男の子だと知った祖父母が喜び、第一声として、これで跡取り息子の計画は完璧だという感想を言われて、父はがっかりしたそうだ。生まれた子が女の子だったら、3人目は男の子にしろと言うつもりだったのかと思ってのことだった。まずは母も俺も無事だと聞かされて喜んで欲しかったそうだ。

 この話をすると、お義父さんは、罪が深いよねと、素直な感想を言ってくれた。お義父さんは跡取りは女性でも良いという考え方をしている。ただし、お婿さんを貰うことになるから、見合い結婚でしか選べなくなるのは可哀想だと思いながらも、そうするべきだという考えだ。それを古いだろうと言って、笑ってくれた。

 すると、ユーリーが黒崎に絡み始めた。お箸の持ち方のことで言い合いになっている。どちらも綺麗に持っているのに、どうしてだろうか。

「2人とも、どうしたんだよ?」
「ああ、夏樹。圭一が、僕の箸の持ち方が綺麗だと褒めてくれたんだけど、純白叔母さんに習ったんだと言ったら、嫉妬してきたんだ」
「なんだよ~。黒崎さん、謝れよ~」
「俺は嫉妬していない。俺も赤ん坊の頃から、この家で暮らしていれば良かったと思ってのことだ……」
「黒崎さん……」
「圭一……」

 ユーリーが静かになった。彼はこの家で伸び伸びと暮らしていた方だと言っている。だから、黒崎も弟のような存在として暮らしていれば、自分はここまで曲がっていなかっただろうと言った。それはお義父さんにとっては嬉しい言葉でもあり、後ろめたい気持ちにさせる言葉でもあるだろう。

 すると、お義父さんが箸を置いた。そして、黒崎に何か優しい言葉をかけてくれるとか、素直に謝るのだと思って待っていたら、彼にせせら笑いを向け始めたから、慌てて止めた。

「お義父さんまで喧嘩するなよーーー」
「今日で38歳になったんだろう。もういいだろう」
「そんなことはないよーー。これで早瀬さんまで暮らしていたら、どうだっただろうね?ね、黒崎さん。あ、ユーリー、もう早瀬さんのことは忘れろよ~」
「そうはいかない。兄貴としてプレゼントを贈らせてもらったんだ。受け取って貰えた。これで僕たちに繋がりが出来たんだ……」
「バーテルス家の歩みなんていう冊子、いらないだろうが……」
「黒崎さん、やめろよ~」

 俺は黒崎の肩を揺らして静かにさせた。今月7日に早瀬さんが誕生日を迎えて、ユーリーがその冊子を彼にプレゼントした。それはユーリーが作った物であり、大昔の写真や、当時のバーテルス家が住んでいた家の中とか、芝生の庭などが紹介されていた。飼っていた犬や猫の写真もあった。
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