青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 南波さんの番組で使う広い場所には、ユズの木がある。11月から1月が収穫時期であり、そろそろ食べられそうに育った実がある。それを番組で映してもらいたい。そして、その実をナイフで切って果汁を搾って、蜂蜜を入れて、温かくして飲んでもらいたい。とても美味しいはずだ。その木は13年前に植えた4本の木であり、今年、やっと実を付けた。

「ユーリーも番組に出てみる?」
「もちろん喜んで!」
「お義父さんの家から、キャンプグッズを差し入れするんだ。誰も山に行かないから、物置に置かれっぱなしでさ~。誰が使っていたのかな?お義父さん、誰だったの?」
「純白だ。彼女も庭でキャンプをしていた。友達と山に行くこともあったよ。女性だけしかいないというから、毎回心配だったよ」
「ああーー、そうだよねえ。……え?プロレスラーの人達と一緒なら、大丈夫じゃないの?」
「いや、いくら勇ましくても、女性は女性だ。不届きな男が歩いていないとも限らない」
「なるほど……。黒崎さんみたいな人がいるもんねえ……。あ……」

 ついうっかり、黒崎の名前を出してしまった。かつての食事デートの相手から結婚詐欺だと訴えかけられたことがあり、話し合いを重ねたことがあることを、先月のコンサートの後で知ったばかりだ。もちろん俺と付き合う前の話だ。黒崎は一度も結婚のことは言っていないし、付き合ってもいなかった。数多くのデートの相手の一人であり、相手もそれは分かっていたという結末になった。友達同士というわけでもなく、もしかしたら、付き合うかも知れないという関係だ。

 しかし、黒崎にも問題があったと思う。22時に食事デートが終わった後、飲み直したくなって、バーに出かけたそうだ。そして、23時に別の女性を呼び出し、お酒を飲んだという。そんな時間に来てくれるなんて、黒崎のことが好きだったのだと思う。彼もそれが分かっていながら呼び出しているから、タチが悪いのではないだろうか。俺だったら行かない。しかし、俺はそういう過去のある人と暮らしている。あの当時とは変わったのだと思いたい。

 お義父さんも俺と同時にそれを知り、ため息をついていた。どうして分かったかというと、黒崎本人が口に出したからだ。最近の黒崎製菓では恋愛トラブルが起きているから、引き締めを行っているそうだ。そのうち結婚詐欺だと訴えられかねない騒動になりそうだと言い、そして、あの事件には困ったのだと言い、俺達が知ったわけだ。沙耶さんはすでに知っている。怜さんもだ。もちろん、早瀬さんも知っていた。固く口を閉ざしていたし、黒崎にはそういうことが付きまとっていたから、大して驚かなかったそうだ。

 そんな彼が今では落ち着き、発言にも気を遣っている。外をうろつくわけもなく、きちんと家でご飯を食べている。そして、外食の時は会食か、俺との食事ぐらいしかない。女性の影はないし、男性の影もない。真面目だと思う。

「お義父さん、ごめんね。思い出させて……」
「いいんだよ。私が責められるわけがない」
「夏樹。電話が鳴っているよ」
「あ、いけない。ラインだったよ。六槍さんからだよ。カズ兄さんが触った撮影機材が動かなくなって、撮影が1時間延びたんだって……」
「いつものことだな……」
「そうだな……」

 俺達はもう一度、ため息をついた。一貴さんは本当に不思議な人で、触ったカメラが動かなくなったり、シャッターを切ったとしても、真っ暗に写ってしまうトラブルが起きたりするそうだ。だから、カメラマンとしては一貴さんには来てもらいたくないのが本音の部分であるが、彼が来ると、天気がちょうど良いぐらいに晴れるというジンクスがあるから、同行してもらっているという。
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