青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 ふと、空を見上げた。誰かに呼ばれた気がしたからだ。圭一と。それは祖母の声だと思った。

「お祖母ちゃん。そこに居るのか?お祖父ちゃんもいるのか?家をどうしたいんだ?今は人に貸しているが、そのままそうしていいか?」

 どうして俺は空に向かって声を掛けているのだろうか。とうとう、二葉と朝陽に会うことなく、亡くなった人達だ。お前のお母さんのことは勘当している。祖父は中学1年生の俺にそう言った。怖くは無かった。大事にして貰えた。かつて母がピアノを習ったことがあるそうで、祖父母の家のリビングには、アップライトピアノが置かれていた。それを俺が弾くようになった。久しぶりに弾くということで調整が行われて、今は叔父の家に置かれている。叔父は元気にしているだろうか。

 黒崎ホールディングスの立ち上げで祖父母のいる土地に戻り、数年間を過ごした。そこで夏樹と出会い、俺はどうにかなってしまいそうな頭の中になり、執拗につけ回していると言われかねないほどに夢中になった。この子を逃したくない、どこにも行かないでくれという気持ちがせり上がり、常に目の届く場所に居ないと不安でたまらなくて、睡眠時間など無くて良いからと早瀬に言い、高校の送り迎えを続けた。

 そして、黒崎製菓に戻り、随分と身体が楽になった。自由な時間が増えたからだ。あのままでは身体を壊していたかも知れない。そう思うと、ここに戻ってきたのは、何かの導きがあったのだろうと思っている。夏樹から声を掛けられて、過去の記憶を解き、絡まった紐を解いてきた。今は固く結ばれていると思っていたが、また自分の人生が動き始めていることを知った。

「お祖母ちゃん。今年はまだ墓参りに行っていなかったな。ごめん……。今月必ず行く。朝陽のことを頼めないか?」

 また俺は空に向かって話しかけてしまった。朝陽のことが気になっている。同じ男だからといって、厳しく接しすぎただろうか。母はこう言っていた。朝陽は優しい子だからいいのだと。それなら二葉の方のこそ優しいと思う。どうして彼女のことを遠ざけようとしているのか。それを感じ取って俺は憤り、祖母が生きていたら、どういう親子関係だったのか、今なら聞くことが出来ると思った。母と祖母の間には何があったのだろうか。

 俺からすると、祖母は大人しい人で、常識のある人だという印象だ。全てにおいてきちんとしており、俺のハンカチのたたみ方を見て、うちと同じだと言って笑った顔が優しくて、今でもよく思い出す。

「拓海兄さん。どうして俺のことを育ててくれたんだ?瑛子さんを追い出したようなものじゃないか?俺は憎い女の子供だろう……」

 父が母と交際を始めたときは、瑛子さんとは離婚した後だった。しかし、モデルを始めた母の事は随分前から父はその存在を知っており、繋がりがあると感じたとは言っていた。だから、拓海兄さんがその話を知っていたら、やっぱり俺は憎い女の子供だろう。晴海兄さんの反応の方が普通のように思える。瑛子さんは黒崎家の親戚からの信頼が厚く、どうか復縁してくれと言われていたそうだ。ほんの一時の別離であって欲しかったそうだ。しかし、別れてしまった。

「俺は愛人の子供のままで良かったんだぞ。でも、フェリックスさん、あれは言いすぎじゃないか……」

 10月に行ったドイツで対面したフェリックス氏のことを思い出した。俺のことを愛人の子供だと罵ってきた。そして、愛人の子供ほど愛されるのだと言った。その場に居たユーリーが怒り狂い、フェリックス氏に掴みかかっていった。
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