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9-41(黒崎視点)
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17時。
今、駅の近くの交番に向かっているところだ。沙耶と電話で話し、父のことを警察署に連れて行き、倉口から吐かれた暴言と、脅迫まがいのことを相談することになった。しかし、最寄りの交番で良いという。父の散歩コースにある交番だ。警察官も馴染みだ。俺としては警察署の方が良くないかと沙耶に言ったが、交番で良いということだ。その方が父が打ち解けた存在だから負担がないだろうということだった。
それを聞いた父が、自分はまだ年を取っていないと言い出した。あんたは84歳だと言って聞かせたが、警察署の方に行くと言って聞かない。そこで、俺が強引に交番に連れて行くことにした。後で家に警察官が尋ねてくるかも知れないということは想定済みだ。
夏樹は俺達の後ろを歩いている。父から二葉との縁談を持ちかけられたショックで気を失ったユーリーもいる。二葉も一緒に歩いている。本当は倉口との話を聞かせたくなかったが、心配だと言うし、倉口の娘として育った二葉も連れて行った方が話が早いかも知れないと、沙耶が言ったからだ。そして、その沙耶も今一緒に居る。
「沙耶さん、すまないね……」
「いいんですよ。杖無しで大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だよ。一応持っているが……」
そう言って、父が杖をブラブラさせた。180cmの身長は沙耶よりもずっと高いが、昔のような威圧感はない。心臓のことで通院している近所の御園クリニックでは年寄り扱いをしてもらえて喜んでいるくせに、俺からその扱いをされると嫌だという。自分はまだまだ元気であり、黒崎製菓に在籍しても良いぐらいだと言っている。
夏樹の勧めで、父は”長寿を目指す会”の世話人になり、また忙しくなった。それは黒崎製菓グループの社員の家族が多く入っている集まりだ。完全な引退というより、少しぐらいは会社の空気に触れた方が良いというのが夏樹と聖河の意見だった。晴海兄さんは反対している。父が居るだけで気を遣う会員がいるかもしれないという意見だ。
俺としては何もないよりも良いという意見だ。社長時代は会食で深夜帰宅になったり、早朝に会社に向かったりする生活を送り、それが82歳まで続き、さすがに疲れているだろうとは思っていた。急に全てのことから引退するよりも、忙しい方が良いと思っている。アーティスト支援の活動は、父の好きなジャズライブに出かけられるという楽しみの面がある。
その一方で、長寿を目指す会は、会員同士の悩みを聞くことや分かち合うことが必要とされ、いつか自分もすっかり気が弱くなるのではないかという心配事が頭によぎるだろう。父には良いと思った。それは俺からの小さな”仕返し”だ。俺の喘息の入院で一度も見舞いに来なかったという恨みがあり、心細くなる気持ちを分かってもらいたかった。いや、俺の中では笑い話にもなっている面はある。たまに顔を合わす怖い父が病室に来るより、拓海兄さんが来てくれる方が良かったはずだ。
父は一度も病院に来ていないわけではない。しかし、俺の病室には来なかった。そして、俺が退院して家に帰ると、俺の方から父の書斎に会いに行き、”帰りました”と挨拶をしていた。それは小学1年生の時だ。小さな子にさせることかと呆れる思いがある。しかし、宿坊体験には2人で参加し、思い出を作った。何もして貰っていないわけがない。愛情はもらったと思っている。
(二葉はどう育てただろう。黒崎家で生まれていたとしたら……)
二葉が赤ん坊の頃から同じ家にいれば、俺はどういう兄になっていただろうか。人形遊びの相手をしていただろうか。自分を男だと言っているのに、彼女はそういう女の子の遊びが好きだったという。俺もぬいぐるみを好んでいたから、お前は女の子だろうとは言えない。
今、駅の近くの交番に向かっているところだ。沙耶と電話で話し、父のことを警察署に連れて行き、倉口から吐かれた暴言と、脅迫まがいのことを相談することになった。しかし、最寄りの交番で良いという。父の散歩コースにある交番だ。警察官も馴染みだ。俺としては警察署の方が良くないかと沙耶に言ったが、交番で良いということだ。その方が父が打ち解けた存在だから負担がないだろうということだった。
それを聞いた父が、自分はまだ年を取っていないと言い出した。あんたは84歳だと言って聞かせたが、警察署の方に行くと言って聞かない。そこで、俺が強引に交番に連れて行くことにした。後で家に警察官が尋ねてくるかも知れないということは想定済みだ。
夏樹は俺達の後ろを歩いている。父から二葉との縁談を持ちかけられたショックで気を失ったユーリーもいる。二葉も一緒に歩いている。本当は倉口との話を聞かせたくなかったが、心配だと言うし、倉口の娘として育った二葉も連れて行った方が話が早いかも知れないと、沙耶が言ったからだ。そして、その沙耶も今一緒に居る。
「沙耶さん、すまないね……」
「いいんですよ。杖無しで大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だよ。一応持っているが……」
そう言って、父が杖をブラブラさせた。180cmの身長は沙耶よりもずっと高いが、昔のような威圧感はない。心臓のことで通院している近所の御園クリニックでは年寄り扱いをしてもらえて喜んでいるくせに、俺からその扱いをされると嫌だという。自分はまだまだ元気であり、黒崎製菓に在籍しても良いぐらいだと言っている。
夏樹の勧めで、父は”長寿を目指す会”の世話人になり、また忙しくなった。それは黒崎製菓グループの社員の家族が多く入っている集まりだ。完全な引退というより、少しぐらいは会社の空気に触れた方が良いというのが夏樹と聖河の意見だった。晴海兄さんは反対している。父が居るだけで気を遣う会員がいるかもしれないという意見だ。
俺としては何もないよりも良いという意見だ。社長時代は会食で深夜帰宅になったり、早朝に会社に向かったりする生活を送り、それが82歳まで続き、さすがに疲れているだろうとは思っていた。急に全てのことから引退するよりも、忙しい方が良いと思っている。アーティスト支援の活動は、父の好きなジャズライブに出かけられるという楽しみの面がある。
その一方で、長寿を目指す会は、会員同士の悩みを聞くことや分かち合うことが必要とされ、いつか自分もすっかり気が弱くなるのではないかという心配事が頭によぎるだろう。父には良いと思った。それは俺からの小さな”仕返し”だ。俺の喘息の入院で一度も見舞いに来なかったという恨みがあり、心細くなる気持ちを分かってもらいたかった。いや、俺の中では笑い話にもなっている面はある。たまに顔を合わす怖い父が病室に来るより、拓海兄さんが来てくれる方が良かったはずだ。
父は一度も病院に来ていないわけではない。しかし、俺の病室には来なかった。そして、俺が退院して家に帰ると、俺の方から父の書斎に会いに行き、”帰りました”と挨拶をしていた。それは小学1年生の時だ。小さな子にさせることかと呆れる思いがある。しかし、宿坊体験には2人で参加し、思い出を作った。何もして貰っていないわけがない。愛情はもらったと思っている。
(二葉はどう育てただろう。黒崎家で生まれていたとしたら……)
二葉が赤ん坊の頃から同じ家にいれば、俺はどういう兄になっていただろうか。人形遊びの相手をしていただろうか。自分を男だと言っているのに、彼女はそういう女の子の遊びが好きだったという。俺もぬいぐるみを好んでいたから、お前は女の子だろうとは言えない。
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