243 / 938
9-44
しおりを挟む
俺としては、親子鑑定の結果が見たい。もしも朝陽が倉口の子供というなら、少しばかり力になる必要が出てくる。ただし、それは俺がすることであり、父には何の関係もない。倉口は何を思って、父に電話を掛けてきたのだろうか。今の電話の相手が蒔いたタネだと思うと腹が立つ。
「あんたのことがますます嫌いになった」
「ごめんなさい……。300万円なら用意できるの。すぐにでも……」
「不貞行為を訴えられてみたらどうだ?その上で、慰謝料を払う必要があるならそうすればいい。倉口には金を貸すな。いくらでも言ってくるぞ」
「分かっているわ……」
「訴えろと言ってやれ。あんた、金はあるんだろう。真琴企画は繁盛しているようだな。先月からメディアへの露出が増えたし、大きなショーに出るモデルがいるそうじゃないか」
「ええ。今年うちに入ってきた子なんだけど、ウォーキングの練習だけだったんだけど、事務所に所属しないかと声を掛けさせて貰ったの……。彼女が引き寄せた運もあると思うけど、大きなショーの契約が実ったの。本人はとても良い子なの……」
それを聞き、母の運の強さにため息が出た。先々月までは、俺はこう思っていた。母はモデル教室を退くのだろうと。業績は下がっており、大きなショーの契約が取れていなかった。しかし、大きな仕事が決まった。母の真琴企画は息を吹き返した。
「親父があんたを再婚相手に選んだのはどうしてかと思っていたが、分かる気がした。あんたは運が強い。会社を追い出されることは無いのか?」
「マネージャーにそうされそうになっていたけど、会社は乗っ取られずに済んでいるわ……」
「そうか。あんた、逞しいな。ホストクラブも経営すると聞いていたぞ」
「ホストクラブじゃないのよ。普通のクラブよ。私が交流ある人とグループになって、やってみようって。私、そこのオーナーにならないかって言われているの。それに、プルエールグループからも声が掛かっているのよ。裕理君のお母さんが勤めていたお店なんだけど、そこのオーナーから、私に声が掛かったのよ……」
「ああ、菜々子さんの友達だったからな。そうか、付き合いは続いていたのか。生き残っている店だ。やっぱりあんたは運が強い。嗅覚というものだろう」
これは母への褒め言葉に違いない。父との離婚時に譲られた財産をほとんど使い果たした後、モデル教室を大きくさせ、今では有名な人になっていると言える。母はメディアには出ていないが、噂は耳にしている。母のモデル教室から出た生徒達がパリで活躍する人物になり、テレビ等に登場するようになった。母は彼女達から慕われているようだ。
「役員の恋人とは別れているのか?」
「ええ、仕事では顔を合わせることがあるけど、友達みたいになっているわ」
「今の恋人は38歳だったか。医師だっただろう」
「知っているのね……。クリニックの先生なの。往診に来てもらう度に親しくなって、深い仲ではないのよ。私は来年62歳になるもの。今更、恋なんて……、彼には相手にされていないわよ」
「あんたはあんたで幸せになってくれ。俺も38歳だ」
「あ……」
「思い出してくれたか……」
「ごめんなさい。慌てていたから……」
「”ママ、僕はいいんだよ”」
「圭一……」
懐かしい言葉を吐いてしまった。俺の学校の成績が下がると、母が父に叱られていた。ほんのわずかな点数の下がり方だった。お前がちゃんと見ていろと言われて、滅多に口を聞くことがない母が俺に付き添い、学校のプリントを解くのを見ていた。しかし、母にも分からない問題があり、俺は母に、僕は良いんだよ、だから、部屋に戻ってよと言ったことがある。それは母に遠慮してのことだ。それに、拓海兄さんの目も気になっていた。母と兄さんは仲が悪いと思っていた。表面上は笑顔があるが、顔を合わす度に、2人の顔が引きつっていたのを理解していた。
「聞きたいことがある。拓海兄さんに何をしたんだ?」
「何も無いわよ。分かった。言うわよ。デートに誘ったの。一度だけよ。素敵だったから……」
「あんたは病気だ。親父もそうだ。俺もそうだった……」
もういいだろう。母を責めることはしなくてもいい。呆れと諦めと、これで聖母のような人だったら完璧な母なのにと思った俺は、理想の母親像を諦めきれないのだろう。
すると、夏樹達が交番から出てきた。そこで、母には、夜にまた電話をかける、倉口には連絡を取るな、俺がすると言い、電話を切った。また用件が増えた。倉口に伝えることが山ほどあり、頭が痛い。しかし、そうは言っていられない。なるべく俺は父達に笑顔を作り、迎えた。
「あんたのことがますます嫌いになった」
「ごめんなさい……。300万円なら用意できるの。すぐにでも……」
「不貞行為を訴えられてみたらどうだ?その上で、慰謝料を払う必要があるならそうすればいい。倉口には金を貸すな。いくらでも言ってくるぞ」
「分かっているわ……」
「訴えろと言ってやれ。あんた、金はあるんだろう。真琴企画は繁盛しているようだな。先月からメディアへの露出が増えたし、大きなショーに出るモデルがいるそうじゃないか」
「ええ。今年うちに入ってきた子なんだけど、ウォーキングの練習だけだったんだけど、事務所に所属しないかと声を掛けさせて貰ったの……。彼女が引き寄せた運もあると思うけど、大きなショーの契約が実ったの。本人はとても良い子なの……」
それを聞き、母の運の強さにため息が出た。先々月までは、俺はこう思っていた。母はモデル教室を退くのだろうと。業績は下がっており、大きなショーの契約が取れていなかった。しかし、大きな仕事が決まった。母の真琴企画は息を吹き返した。
「親父があんたを再婚相手に選んだのはどうしてかと思っていたが、分かる気がした。あんたは運が強い。会社を追い出されることは無いのか?」
「マネージャーにそうされそうになっていたけど、会社は乗っ取られずに済んでいるわ……」
「そうか。あんた、逞しいな。ホストクラブも経営すると聞いていたぞ」
「ホストクラブじゃないのよ。普通のクラブよ。私が交流ある人とグループになって、やってみようって。私、そこのオーナーにならないかって言われているの。それに、プルエールグループからも声が掛かっているのよ。裕理君のお母さんが勤めていたお店なんだけど、そこのオーナーから、私に声が掛かったのよ……」
「ああ、菜々子さんの友達だったからな。そうか、付き合いは続いていたのか。生き残っている店だ。やっぱりあんたは運が強い。嗅覚というものだろう」
これは母への褒め言葉に違いない。父との離婚時に譲られた財産をほとんど使い果たした後、モデル教室を大きくさせ、今では有名な人になっていると言える。母はメディアには出ていないが、噂は耳にしている。母のモデル教室から出た生徒達がパリで活躍する人物になり、テレビ等に登場するようになった。母は彼女達から慕われているようだ。
「役員の恋人とは別れているのか?」
「ええ、仕事では顔を合わせることがあるけど、友達みたいになっているわ」
「今の恋人は38歳だったか。医師だっただろう」
「知っているのね……。クリニックの先生なの。往診に来てもらう度に親しくなって、深い仲ではないのよ。私は来年62歳になるもの。今更、恋なんて……、彼には相手にされていないわよ」
「あんたはあんたで幸せになってくれ。俺も38歳だ」
「あ……」
「思い出してくれたか……」
「ごめんなさい。慌てていたから……」
「”ママ、僕はいいんだよ”」
「圭一……」
懐かしい言葉を吐いてしまった。俺の学校の成績が下がると、母が父に叱られていた。ほんのわずかな点数の下がり方だった。お前がちゃんと見ていろと言われて、滅多に口を聞くことがない母が俺に付き添い、学校のプリントを解くのを見ていた。しかし、母にも分からない問題があり、俺は母に、僕は良いんだよ、だから、部屋に戻ってよと言ったことがある。それは母に遠慮してのことだ。それに、拓海兄さんの目も気になっていた。母と兄さんは仲が悪いと思っていた。表面上は笑顔があるが、顔を合わす度に、2人の顔が引きつっていたのを理解していた。
「聞きたいことがある。拓海兄さんに何をしたんだ?」
「何も無いわよ。分かった。言うわよ。デートに誘ったの。一度だけよ。素敵だったから……」
「あんたは病気だ。親父もそうだ。俺もそうだった……」
もういいだろう。母を責めることはしなくてもいい。呆れと諦めと、これで聖母のような人だったら完璧な母なのにと思った俺は、理想の母親像を諦めきれないのだろう。
すると、夏樹達が交番から出てきた。そこで、母には、夜にまた電話をかける、倉口には連絡を取るな、俺がすると言い、電話を切った。また用件が増えた。倉口に伝えることが山ほどあり、頭が痛い。しかし、そうは言っていられない。なるべく俺は父達に笑顔を作り、迎えた。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
きっと必ず恋をする~初恋は叶わないっていうけど、この展開を誰が予想した?~
野々乃ぞみ
BL
渡辺 真詞(わたなべ まこと)は小さい頃から人ではないモノが見えた。
残念ながら話もできたし、触ることもできた。
様々なモノに話しかけられ、危ない目にもあってきた。
そんなとき、桜の下で巡(めぐる)に出会った。
厳しいけど優しい巡は特別な存在になった。
きっと初恋だったのに、ある日忽然と巡は消えた。
それから五年。
地元から離れた高校に入った十六歳の誕生日。
真詞の運命が大きく動き出す。
人とは違う力を持つ真詞が能力に翻弄されつつも、やっと再会した巡と恋をするけど別れることになる話。(前半)
別れを受け入れる暇もなくトレーニングが始まり、事件に巻き込まれて岬に好かれる話。(後半)
・前半 巡(人外)×真詞
・後半 岬(人間)×真詞
※ 全くの別人ではありませんが、前半と後半で攻めが変わったと感じるかもしれません。
※ キスを二回程度しかしないです。
※ ホラーではないつもりですが、途中に少し驚かすようなシーンがあります。ホラーのホの字もダメだという方は自己判断でお願いします。
※ 完結しました。遅くなって申し訳ありません。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる