青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 俺としては、親子鑑定の結果が見たい。もしも朝陽が倉口の子供というなら、少しばかり力になる必要が出てくる。ただし、それは俺がすることであり、父には何の関係もない。倉口は何を思って、父に電話を掛けてきたのだろうか。今の電話の相手が蒔いたタネだと思うと腹が立つ。

「あんたのことがますます嫌いになった」
「ごめんなさい……。300万円なら用意できるの。すぐにでも……」
「不貞行為を訴えられてみたらどうだ?その上で、慰謝料を払う必要があるならそうすればいい。倉口には金を貸すな。いくらでも言ってくるぞ」
「分かっているわ……」
「訴えろと言ってやれ。あんた、金はあるんだろう。真琴企画は繁盛しているようだな。先月からメディアへの露出が増えたし、大きなショーに出るモデルがいるそうじゃないか」
「ええ。今年うちに入ってきた子なんだけど、ウォーキングの練習だけだったんだけど、事務所に所属しないかと声を掛けさせて貰ったの……。彼女が引き寄せた運もあると思うけど、大きなショーの契約が実ったの。本人はとても良い子なの……」

 それを聞き、母の運の強さにため息が出た。先々月までは、俺はこう思っていた。母はモデル教室を退くのだろうと。業績は下がっており、大きなショーの契約が取れていなかった。しかし、大きな仕事が決まった。母の真琴企画は息を吹き返した。

「親父があんたを再婚相手に選んだのはどうしてかと思っていたが、分かる気がした。あんたは運が強い。会社を追い出されることは無いのか?」
「マネージャーにそうされそうになっていたけど、会社は乗っ取られずに済んでいるわ……」
「そうか。あんた、逞しいな。ホストクラブも経営すると聞いていたぞ」
「ホストクラブじゃないのよ。普通のクラブよ。私が交流ある人とグループになって、やってみようって。私、そこのオーナーにならないかって言われているの。それに、プルエールグループからも声が掛かっているのよ。裕理君のお母さんが勤めていたお店なんだけど、そこのオーナーから、私に声が掛かったのよ……」
「ああ、菜々子さんの友達だったからな。そうか、付き合いは続いていたのか。生き残っている店だ。やっぱりあんたは運が強い。嗅覚というものだろう」

 これは母への褒め言葉に違いない。父との離婚時に譲られた財産をほとんど使い果たした後、モデル教室を大きくさせ、今では有名な人になっていると言える。母はメディアには出ていないが、噂は耳にしている。母のモデル教室から出た生徒達がパリで活躍する人物になり、テレビ等に登場するようになった。母は彼女達から慕われているようだ。

「役員の恋人とは別れているのか?」
「ええ、仕事では顔を合わせることがあるけど、友達みたいになっているわ」
「今の恋人は38歳だったか。医師だっただろう」
「知っているのね……。クリニックの先生なの。往診に来てもらう度に親しくなって、深い仲ではないのよ。私は来年62歳になるもの。今更、恋なんて……、彼には相手にされていないわよ」
「あんたはあんたで幸せになってくれ。俺も38歳だ」
「あ……」
「思い出してくれたか……」
「ごめんなさい。慌てていたから……」
「”ママ、僕はいいんだよ”」
「圭一……」

 懐かしい言葉を吐いてしまった。俺の学校の成績が下がると、母が父に叱られていた。ほんのわずかな点数の下がり方だった。お前がちゃんと見ていろと言われて、滅多に口を聞くことがない母が俺に付き添い、学校のプリントを解くのを見ていた。しかし、母にも分からない問題があり、俺は母に、僕は良いんだよ、だから、部屋に戻ってよと言ったことがある。それは母に遠慮してのことだ。それに、拓海兄さんの目も気になっていた。母と兄さんは仲が悪いと思っていた。表面上は笑顔があるが、顔を合わす度に、2人の顔が引きつっていたのを理解していた。

「聞きたいことがある。拓海兄さんに何をしたんだ?」
「何も無いわよ。分かった。言うわよ。デートに誘ったの。一度だけよ。素敵だったから……」
「あんたは病気だ。親父もそうだ。俺もそうだった……」

 もういいだろう。母を責めることはしなくてもいい。呆れと諦めと、これで聖母のような人だったら完璧な母なのにと思った俺は、理想の母親像を諦めきれないのだろう。

 すると、夏樹達が交番から出てきた。そこで、母には、夜にまた電話をかける、倉口には連絡を取るな、俺がすると言い、電話を切った。また用件が増えた。倉口に伝えることが山ほどあり、頭が痛い。しかし、そうは言っていられない。なるべく俺は父達に笑顔を作り、迎えた。
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