青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 母が今からでも病院に来たいと言った。それには断らせてもらった。まだ倉口からの要求の整理が出来てないからでもあるし、様子を見ている最中でもある。それに、二葉は会いたくないという答えも出していた。

 すると、父が部屋から出てきた。医師も一緒だ。2名いる。2人とも男性医師であり、一人は年配であり、もう一人はたしか、聖河の友人だ。裸足で診察室に居たという話を聞き、覚えている。そこで、母には明日電話を掛けると言い、電話を切った。

「二葉の検査の結果が出たよ。胃にも頭の方も異常は無かったよ……」
「そっか……」

 夏樹がつぶやいた。しかし、まだ続きはあるのだろうと、父の方を見つめ始めた。父は落胆したような顔をしているが、すぐに気を取り直して、背筋を伸ばした。そして、父が隣の部屋に入っていく医師を見送り、また処置室に来てくれるそうだと言った。二葉の点滴が終わった後にだ。

「お義父さん、ここに座ってよ」
「ああ。そうだね。座った方が良いね……」
「お義父さん、泣いているの?」
「いいや……」

 父が椅子に座り、二葉の病状を言うと言った。何かあるのだと分かった。胃でも頭でもないのなら、どこなのだろう。

「先生がね。もしかしたら、精神的なものかも知れないという話をしていたよ。そこで、今の環境と、育ての父親のことを話したよ。今月から出た話だと……」
「そうか。夏樹、二葉のスマホをもう一度貸してくれ。中身を見る」
「だめだよ。勝手になんて……」
「それなら、本人が目を覚ました後で見せるように言う。どちらが良いと思う?」
「どっちもだめだとは……、言えない……」

 夏樹が項垂れた。そして、また二葉のバッグからスマホを取り出して、俺に渡した。さっそく画面を開き、着信歴とメールの送受信の一覧を見た。しかし、問題なさそうだ。俺に報告したとおりの着信歴だった。そして、ラインを開くと、志乃とのやり取りが出てきた。今度、うちに遊びに来るという約束の内容だ。

「何もなさそうだ」
「黒崎さん。もういいだろ……」
「いや、待て。ネットの検索歴を見たい。……なんだこれは」
「どうしたの?」
「……ある団体のホームページを、何度も見ている」

 それは、ある団体のページだった。二葉がよく見ている性的マイノリティというページではなく、子供を作るということを拒絶したいという趣旨が書かれたページだった。ネットのニュースの履歴にもあった。そして、性的なトラウマを抱えた人のブログも閲覧していると分かった。

 黒崎家に来て、二葉には親戚からの縁談話が多数持ち込まれていた。なるべく本人の耳には入れたくなかったが、しつこい相手については知らせておいた。プレッシャーになったということなのか。そして、昨日の夜の閲覧は、団体のホームページだから、二葉は子作りを拒否していると察した。いや、そうではないのか。どちらなのだろうか。いずれにせよ、プレッシャーは掛かっているだろう。二葉に出産を強要するなどするつもりはない。俺はそう言ってある。父も同じだ。

 そして、都内にある精神科の評判が書かれたサイトも見つけた。さらに、精神科で転院するときに必要なことというブログのタイトルも見つけた。

 これをまず父に見せた。そして、夏樹とユーリーにも見せた。3人の反応は同じだった。今かかっている病院が合っていないのではないかということだ。俺も同じ意見だ。しかし、まさか志乃が精神科にかかっており、転院を希望しているということはないだろうかと思った。それには父は違うと言い、二葉本人のことだろうと言った。

「二葉にはこの病院を勧めたい。起きたときに、私から言ってみる」
「俺は二葉に聞いてみる。今の生活と、今の担当医とはどうかということを。あの人が何か言ったのか……。孫の顔が見たいだとか……」
「黒崎さん。喧嘩しないで……」
「いいや、もう一度掛ける……。確認だけだ……」

 俺は母に電話を掛けた。すぐに出た。そして、二葉の検査結果には異常が無かったことと、本人は寝ていると伝えた。さらに、彼女のスマホの検索歴を見て、引っかかる物があると伝えた。

「あんたに聞きたいことがある。二葉や朝陽に、結婚はいつだとか、孫の顔が見たいだとか言ったことはあるのか?」
「ないわよ。朝陽はまだ学生だし、二葉には禁句でしょう。あなたがそう言うから、ちゃんと守っているわ」
「それが聞けて良かった。声を荒げてすまなかった。おやすみ……」
「おやすみなさい……」

 ほんの短い会話を終えて、電話を終えた。こういう時は母親の力が必要なのだろうか。俺には母は居なかったようなものだから分からない。そんな気がする。俺は何か間違っているだろうか。黒崎家は男ばかりだ。
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