青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 父は数多くの愛人を作ってきたが、全員と身体の関係を持ったわけではないことを、最近になって知った。父から聞いたことだ。女性が好きなのだが、性的に活力が出るわけではなく、どの相手とも食事のみのデートをしていたそうだ。そして、彼女達の息子をいずれは黒崎家の養子にと望んで、たまに会って話していたそうだ。そして、一貴の母親である蓮子さんとの出会いがあったとき、父はこう思ったそうだ。今、子供を作らなければならないと。そして、性的な活力が起こったそうだ。その後すぐに蓮子さんが妊娠した。

 それを瑛子さんはどう思っただろうか。拓海兄さんと晴海兄さんという2人の子供が生まれて、一家4人で暮らしている中、次々と愛人を作っていく父に恨みを頂いただろう。新婚の時は父がその気にならず、1年経って、ようやく身体の関係を結んだそうだ。瑛子さんは早く子供を作れという実家からの要望に辟易していたことだろう。そして、数回の関係で拓海兄さんを授かり、その後3年間、何もなく夫婦として過ごし、また活力が出て、晴海兄さんを授かったそうだ。俺と二葉の時も同じだ。父の頭の中に、今日、子供を授かるという言葉が浮かんだのだという。俺はそれを聞いたとき、うちの家らしい話だと思った。幽霊は多く目撃されるし、ドアが勝手に開くこともある家だからだ。

「二葉。お前が寝ている間に、スマホを見させてもらった。ネットの検索歴を見て、お前に話したいことがある」
「お兄ちゃん……」
「色んなページを見ているんだな。まずは今かかっている病院のことを聞きたい。うまくいっていないのか?」

 俺が問いかけると、予想通り、二葉は話したがらなかった。そこで、みんなで彼女のことを見つめると、分かったよと言い、話し始めた。

「うまくいっていないよ。先生がちょっと変な人なんだ……」
「どう変なんだ?年はいくつだ?男性医師だったな?」
「うん。45歳の男の先生だよ。初めは優しそうだったんだけど、俺が大学に通いながら黒崎製菓のバイトをしている中で、男物のスーツで通っている事を話したら、はあ?っていう反応をしたんだ。それに、男性トイレに入る方が落ち着きそうかもっていうことを打ち明けたら、何も言わないんだ。それで、先生が、自分は3人子供がいるんだけど、君は一人で居て寂しくないか?って俺に聞くから、今の家のことを話したんだ。賑やかに暮らしているよって……。でも、先生は、俺に恋人がいないのが寂しいんじゃないかって意味なのにって、笑うんだ。的外れなんだねって言われたよ。それから、どうして朝陽を一人暮らしさせているのかって、詰め寄るみたいな言い方をしてきたんだ……。お母さんと暮らすのが嫌だからだって答えると、そうじゃなくて、どうして君だけが黒崎家で暮らして、朝陽は除け者なのかっていうことを聞きたいんだって言うんだ……」
「なんだよそれ……」

 夏樹の反応に、俺も頷いた。二葉が担当医に説明したのは、母親が男と逃げて、その男との間に産まれたのが朝陽だから、遊びに来るのにも遠慮があるのは当然ではないのかということだ。それに、朝陽は大学入学まで、母や二葉と3人で暮らしていた。入学と同時に寮に入るのは珍しいことではない。だから、放置などしていない。一緒に都内に引っ越してきた。しかし、担当医の意見としては、こうだ。

「山本先生は、朝陽が寂しいはずだから、黒崎家で引き取れって言うんだ」
「何か誤解していないかな。その先生……。遠慮があるに決まっているよ。それに、朝陽は大学生になったんだ。未成年者じゃないんだよ。ママと暮らさせろっていう意見なら、それも一つの意見だって聞けるけど、どうしてお義父さんに引き取らせるんだよ?養子にさせろって言うのかよ?」
「うん。先生が言っているのはそういうことだと思う。朝陽は未成年者じゃないし、憎い男の子供なんだよって、説明したよ。でも、先生は、”アーティスト支援団体を立ち上げるぐらいの家なんだろう。心が狭いね。そんな人を、どうしてお父さんだと認めて同居に応じたの?”って、詰め寄るみたいにして聞いてきたんだ。だから、俺は、お母さんとのいきさつを話したわけだよ。今までだって、打ち明けてきたんだよ。患者の数が多いから、俺の話を忘れているのかなって、最初は思っていたんだけど……。なんか、変じゃない?」
「ああ……」

 俺の心の中は冷え凍りそうだ。父の心中も察して貰いたい。母とは離婚している。再婚先で生まれた子に遠慮があるのは仕方が無いだろう。

 二葉は父のことで自慢をしたわけではない。”同居しているお父さんは何の仕事をしているのか”としつこく聞かれて、答えられないのなら、何もやっていないということかと言われて、正直に答えただけだ。年齢もだ。それをそんな言い方をされる覚えはない。それこそ、的外れだ。
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