青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 俺に続き、ユーリーもそばに来た。そして、一貴さんのことを見つめて、肩を揺すり始めた。しかし、彼は顔を上げようとしない。

「ねえ、一貴さん。おーーい」
「ああーーー、2人とも……。僕は作戦を失敗したんだ。花木社長がさっきのテレビを観ていたようで、僕にメールを送ってきた。食事の誘いだ。僕のことが好きになったそうだ……」
「良かったじゃん。好きになってもらえて……。あ、もしかして、デートなの?その社長さんって、独身だったっけ?」
「付き合っている人が居るそうだ。友達づきあいをしたいと書いてある……」
「友達づきあいって感じじゃないのかよ?」
「ああ。デートの誘いだと思うんだ。店がそういう感じの店だ。いかにもデートだ」
「ふうん……」

 その店の名前を教えて貰った。キセイという夜景が綺麗な店の姉妹店だった。サングリーノというイタリアンレストランだ。久弥に教えて貰ったことがある店だ。IKUの忘年会で誘いが入り行ってみると、高宮さんと2人でビックリしたそうだ。見事にカップルだらけであり、向かい合って座る席が微妙に近くて、カップルが見つめ合えるというコンセプトなんだそうだ。

 久弥は高宮さんと微妙な距離感で見つめ合って話して、恥ずかしかったそうだ。2人は仕事仲間であり、友人でもある。だから、距離が近づいて、間違いが起こらないかとヒヤヒヤしたそうだ。それは高宮さんも同じで、ここに連れて来られたら、魔術が掛けられそうだと言ったそうだ。それなら俺は、黒崎と行ってみたいと思った。

「サングリーノは久弥が行ったことがあるんだよ。高宮さんと2人でね。席が微妙に近くて、見つめ合って話すしかないみたいな感じになるんだって……」
「ああ、困ったなあ。テレビでブロッコリー社の味方だって流したから、挑発してきたんだろうか……」
「いつものカズ兄さんなら、ウキウキした顔になるのに、どうしたんだよ?」
「僕は心を入れ替えようかと思っているんだ。こういう事件が起きたことで、ウキウキした顔になる自分を振り返って、これではいけないと思ったんだ。だから、花木社長とは喧嘩をしたくない。できれば、伊吹君とも仲良くして貰いたい」
「なるほど……」

 一貴さんが悩んでいることが分かった。ユーリーが隣に座り、背中を撫でてくれている。そして、良い方向に進むと良いねとつぶやいた瞬間、一貴さんに六槍さんから電話が入った。花木社長からの敗北宣言だそうだ。

「え、急にどうしたんだろうね?そんな宣言なんて……」
「六槍君!それは罠だ!……なんだって?伊吹君から食事の誘いが来て、受けたからなのか。そうか……。僕とは敵対しないし、ブロッコリー社とも親交を深めるということなのか……。僕の出る幕ではないのか?ああ、コメンテーターの2人の仲裁は担当するのか。なんだ、伊吹君は僕の助けを必要としていないのか。ああ、いけないと思うけど、嫉妬している。また伊吹君の仕事の妨害をしたくなった……」
「カズ兄さん!やめろよ~~~」

 一貴さんが顔を上げて、俺達のことを見つめた。目に力が入っている。島川社長の顔だ。この間見た後はすっかり元の一貴さんに戻り、印象を忘れていた。意地が悪くて狡猾だと言われている人だ。最近は優しくなり、評判が上がってきている。しかし、今の顔は意地悪そうだ。一見、爽やかそうな顔をしているが、目が違う。だから、俺は違いが分かる。

「島川社長になるのはやめたら?」
「ああーーー、しまった!この家の中では普段の僕で居ることになっているのに……。六槍君、僕は元に戻ったよ。分かった。伊吹君の邪魔はしない。コメンテーターの2人には席を用意する。和食の店が良いだろう。酒を飲んで打ち解けて、恨みを残さないようにしよう。ついでに、僕の印象を良くするようにしてくれ。どんなことでもいい。そうか、何か意見が欲しいのか。なら、伊吹君と僕が並んで写っている写真を、SNSにアップしておいてくれ。ああ、しまった。SNSはやめておくんだった。一枚ぐらいならいいだろう?そうか、載せてくれるのか。これでよし……」

 一貴さんが電話を切った。そして、どうやら解決に向かいそうだと言った。テレビではずっと動物のコーナーが流れている。なんだか長いと思っていると、ユーリーが、きっとスタジオで喧嘩が続いているのだろうと言い出した。

「やっぱりそう思う?……あ、黒崎さんが帰ってきたよ」

 こういう時は黒崎がいると落ち着く。さっきのニュースやコメンテーターの2人の喧嘩のことを話すことにした。すると、窓を開けて待っている俺のことを見た黒崎が笑い、何かあったのだろうと言ってきた。それに頷き、早く入ってきてよと急かしてやった。
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